46番目の魔術使い   作:眞神零一郎

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EX.シリーズ第三弾。

にじファン投稿時とは、EX.シリーズの投稿順が違っています。
単純に作者が投稿順を忘れてしまっただけなので、順番が違うだけで内容は変わりありません。


EX.3 シロウの休日 -剣と星-

 

 シロウがその提案、というより要望を持ちかけたのは、毎度のことながら食堂に現われなかった二人に、食事を運んだ研究室。

 スカリエッティによる、何度目かの納豆殲滅戦が終わり、三人で食後のお茶を楽しんでいた時だった。

 

「ちょっといいかね、ドクター?」

 

 持っていたカップとソーサーをテーブルに戻し、シロウは話を切り出した。

 

「なんだい?」

 

 それに習い、自身もカップとソーサーをテーブルに戻す。

 

「少々出歩いてきてもいいだろうか」

「出歩くって、アジトの外ってことかい?」

「あぁ。できれば少々栄えている所に行きたいのだが…」

 

 常らしからぬ控えめなシロウの様子に、スカリエッティはしばし考え込む。

 

「何故、と聞いてもいいかな?」

「知識や映像では知っているが、実際に見たことはないのでね。少々興味があるのだよ」

「…………そうだねぇ」

 

 常日頃、我儘というかこういった個人的な要望を口にすることがないシロウからのそれに、スカリエッティはわずかに驚いた。

 勿論顔に出すような真似はしないが、数瞬、反応が遅れる。

 その横ではウーノが僅かに驚いた顔をしているが、詮ないことだろう。

 何しろ今まで、食事など皆に関することでは要望を口にすることはままあったが、自身に関する要求をしたことがなかったのだ。

 

「計画実行まで間もなくだし、実行されれば外を出歩くような余裕もなくなってしまうからね。分かった。許可しよう」

 

 彼の言葉通り、計画が実行されれば戦闘の連続。

 余裕が出るのは、全てが終わった後だろう。

 無論スカリエッティの内には、計画失敗の文字はない。

 が、その結果が出るまで、それなりに時間は掛かるだろう。

 結果が出たとて、すぐに暇になるわけでもなく、また、その頃にはスカリエッティは元より、シロウ自身、悪い意味で世界に顔を知られる事になる。

 そうなっては、外を出歩くこともままならない。

 シロウとて、それは十二分に承知の上だ。

 だからこそ、今この時に提案してきたのだろう。

 

「我儘を言ってすまないな」

「なに。君には食事を作ってもらったり、生活関係の雑事を全て押しつけてしまっているからね。その礼代わりといったところだよ。ただし、夕方までには帰ってくるように」

 

 これが一番重要だとばかりに、最後の部分を強調する。

 

「分かっている。夕食の支度をはじめる時間には戻るつもりだ」

 

 それを聞いて、シロウは苦笑しながら請け負った。

 

「ならば構わないよ。せいぜい楽しんでくるといい」

 

 答を聞いて、スカリエッティは満足そうに笑い、やや温くなった紅茶を啜った。

 

「行くのは構わないけれど、管理局と鉢合わせでもしたらどうするつもり?」

 

 今まで黙っていたウーノが、やや心配そうに訊ねる。

 勿論、もし遭遇したとてシロウが後れを取るなどとは思っていないが、少々どころか面倒なことになるのは目に見えている。

 

「多少の変装はして行く。第一、私の姿など、機動六課メンバーの一部くらいしか知るまい」

 

 シロウもそれは重々承知の上だし、変装に関しては宛もある。

 第一、六課メンバーとて、知っているのは上層部と前線メンバー程度。

 ほんの十数人程度であろう。

 街中で偶然鉢合わせになる確率など、そう高くもない。

 それを指摘すると、『それもそうね』とウーノも頷いた。

 

「さて。そうと決まれば支度をせねばな」

 

 席を立ったシロウに、スカリエッティはふとして声をかけようとした。

 するとシロウはにやりと笑う。

 

「分かっている。昼はカレーでも作っておくから心配はいらん」

 

 言う前に答を貰い、スカリエッティは一瞬驚いたものの、満足気に頷いた。

 

 

 

 

 それから数時間後。

 シロウは、サードアベニューの一角を歩いていた。

 格好は常の戦闘服では当然ない。

 あの格好で街中を歩いていれば、不審人物としと通報されかねない。

 今のシロウは、ジーンズに青と白のTシャツ。

 上から薄手のパーカーを羽織り、認識阻害魔術の施されたメガネをかけている。

 メガネはシロウの投影品だ。

 何故こんなものが剣の丘に登録されていたかは不明だが、あるものは有効に使ってこそである。

 というわけで、さして気にもせずに使っていた。

 

「映像なんか見ても思ったけど、やっぱりかなり近代的なんだな」

 

 何と比べて近代的なのか、シロウ自身いまいち分からないが、シロウの感覚からすれば、今目の前に広がるミッドチルダの街並みは『近代的』としか表現のしようがない。

 おそらく元の体の記憶だろうと思うことにして、改めて街並みを見やる。

 ゆっくりと歩きながら、おのぼりさんよろしくキョロキョロと辺りを見て回っていた。

 と、視界が開け、立ち止まる。

 どうやら広場になっているらしく、樹木や芝生に交じってベンチが置かれ、家族連れやらカップルやら、それなりに人出がある。

 屋台や露店などもちらほらあり、シロウが立ち止まっているのも、いくつかある屋台の一つのすぐ横だった。

 どうやらアイスクリームの移動販売をしているらしく、のぼりが立っている。

 

「そういえば、ウーノ姉がマネーカード持たせてくれたけど、これ、いくらくらい入ってるんだ?」

 

 ジーンズのポケットからカードを取り出し眺めてみる。

 が、眺めていても、残高が分かるわけもない。

 肩を竦めてポケットに戻し、再び歩きだそうと一歩を踏み出した。

 

 どんっ

 べちゃ

 

「あっ!」

「うわっ」

 

 横から歩いてきた女性とぶつかってしまった。

 年はおそらくシロウよりいくつか上の、茶色のロングヘアの女性だった。

 どうやらその女性は、すぐ横の屋台でアイスクリームを買ったらしく、それが思いっきりシロウのパーカーにくっつき、そのまま滑り落ちた。

 シロウのパーカーは、女性の持っていたストロベリーアイスのピンクとバニラアイスのオフホワイトがべったりと模様を描いていた。

 

「す、すみませんっ!」

「え? あ」

 

 女性の慌てようでようやっと気付いたシロウは、僅かに遅れて自身の身体を見下ろした。

 

「ごめんなさいっ! えっと、あの、弁償しますから……」

 

 慌てふためきながらも、肩から下げていたバックからハンカチを取り出し、シロウのパーカーを拭う。

 

「あ、いや、いいですよ。これなら家に帰ってちゃんと洗えば落ちるし」

 

 苦笑しながらパーカーを脱いで、汚れを確認する。

 

「で、でも……」

「大丈夫です。上着が必要な気温でもないし、下のTシャツには染みてないし。脱いじゃえば問題ないから」

「でも、そのままじゃ持って歩くのだって……」

「その辺のトイレでも洗っちゃえば落ちるよ」

 

 尚もおろおろする女性を落ち着かせるように微笑むと、『それより』て続けた。

 

「アイス二つ持ってたところからすると、誰か待ってる人がいるんじゃないですか?」

「え? あ! そ、そうだった! フェ、フェイトちゃ〜ん」

 

 言われて思い出したのか、友達がいるのだろう方向とアイスの落ちた地面とを何度も見比べて、泣きそうに顔を歪めた。

 それを見たシロウは小さく微笑むと、店のすぐ横で起こった騒動を見守っていた店員に声をかけた。

 何事か店員と苦笑混じりにやり取りをした後、マネーカードを差し出した。

 しばらくしてカードとアイスを二つ受け取って女性の元へ戻る。

 

「え?」

 

 茫然とシロウの一連の行動を見つめていた女性は、差し出される二つのアイスとシロウを見比べた。

 

「待ってるんでしょ?」

「で、でも! 上着汚しちゃったのに、新しいアイスまでかって貰っちゃって……」

 

 貰えないとばかり何度も両手と首を振る。

 それに対して、シロウは微笑みながらさらに両手を差しだした。

 

「俺がよそ見してたのも悪いんだし、おあいこってことでさ」

「それでも、新しいアイスを買ってもらう理由にはならないよ」

 

 困るとばかりに一歩下がる。

 

「俺が好きでやったことだし、気にしないでください」

 

 言いながらシロウも一歩進む。

 

「気にします!」

 

 今までとは打って変わって強気な態度に、シロウは小さく笑った。

 

「じゃあこれは貴方の友達を待たせちゃったお詫びってことで。ね?」

 

 にっこりと微笑んだ。

 その笑みを目の当たりにして、女性はとたんに顔を赤くした。

 

「? どうかしました?」

 

 いきなり赤くなった理由が、まさか自分のせいだとは露ほども思わず。

 シロウは女性に顔を近付けて様子を窺った。

 それでさらに女性が顔を赤くするものの、やっぱり自分が原因とは全く気付かない。

 普段、何かと気が付くし勘も悪くはないシロウだが、こと女性(恋愛に関すると特に)に関しては、鈍感を通り越してもはやザル(素通り)なのである。

 故に、何故女性が顔を赤くしているのか、これっぽっちも思い至らないシロウであった。

 

「にゃ、にゃんでもないよっ!?」

 

 わたわたと、顔を真っ赤に染めながら両手を振る。

 明らかに挙動不審だが、当然ながらシロウは『挙動不審なのは分かる』が『何故挙動不審なのか』が全く分からない。

 ここまで来ると、いっそもう見事である。

 

「? ならいいですけど。とにかく、上着のこともアイスのことも気にしないでくださいね。じゃ」

 

 訝しげに小首を傾げながら、惚けている女性に半ば無理矢理アイスを押しつけると、踵を返してそのまま走り去った。

 

「あっ! ちょっ! ……行っちゃった」

 

 残された女性は、両手のアイスと去っていった少年の背を交互に見やり、小さく溜息を吐いた。

 

「なのはー? どうしたの?」

 

 そこへ、アイスを買いに行ったまま帰ってこない親友を心配して、女性が小走りに駆け寄ってきた。

 

「あ。フェイトちゃ〜ん」

「なのは? 何か顔が赤いけど、どうかした?」

 

 すぐ横まで来ると、親友の顔が傍目からでも分かる程に赤くなっていることに気付いて指摘した。

 

「ふぇ!? な、なんでもないよっ? はい、バニラアイスっ」

 

 しどろもどろに何度も首を振りながら、アイスを無理矢理押しつける。

 誤魔化すように視線を逸らして、半ば必死にアイスを舐める。

 

「? なら、いいけど……」

 

 挙動不審な様子に首を傾げながら、アイスを受け取った。

 確かめるようにもう一度赤くなっている親友を見やり、彼女もアイスを舐めた。

 

 

 

 

 その頃。走り去ったシロウは、歩調を緩めながら、先程の女性を思い出していた。

 

「何かあの人、見覚えがあるようなないような? なんだろ。外に知り合いなんているわけないし……」

 

 先程は慌てていたし、あまりじっと顔を見たわけでもないが、どうにも覚えがあるような気がしていた。

 女性というものは、髪型一つ、服装一つでガラリと印象が変わる。

 もしも彼女が、常と同じくサイドポニーか、あるいはツインテールであったなら、もしかしたら気付いたかもしれなかった。

 しかし、他の事ならまだしも、ことこういった事柄にはとんと疎いシロウである。

 しばしいろいろ思い出してみるが、一向に思い至らない。

 女性の方とて、戦場で一度会っただけの、しかも遠目に見ただけの相手である。

 勿論、格好は違うし、何より平時と戦闘時とでは、シロウの雰囲気も纏う空気も全く違う。

 まして、先程は色々と慌てていたため、それどころではなかった。

 互いに気付くわけもない。

 

「ま、いっか」

 

 思い至らないということは、気のせいか、あるいは大したことではないのだろうと結論づけて、シロウは再び歩きだした。

 

 




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