46番目の魔術使い   作:眞神零一郎

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模擬戦編です。
士郎VSチンク。


第三話 戦闘訓練

 

 戦闘訓練をするというチンク姉に連れられてやってきたのは、洞窟内にもかかわらず、体育館ばりの広さと高さのある空間だった。確かに、戦闘訓練をするにはもってこいの場所だ。

 尤も、俺とチンク姉には飛行スキルがないから、高さはそんなに関係ないけど。

 部屋の真ん中辺りまでやってくると、チンク姉は足を止めて振り向いた。

 

「さて。ではドクターの要望どおり、戦闘訓練といくか」

 

 そう言って、幾本ものスローイングナイフ『スティンガー』を構える。

 対して俺は、二本の双剣を投影する。

 夫婦剣、干将・莫耶。

 陰陽一対となった中華風の剣で、何故かやたらと手に馴染む。

 ふとして、両手に持つ双剣を見やる。

 実際に投影魔術を使って剣を作りだすのは初めてのはずだ。なのに、この剣は、何故だかひどく懐かしい感じがする。

 確かに投影魔術は、刀剣に宿る『使い手の経験や記憶』ごと複製しているから、初見の武器でも『初めて』という感じはしないんだろうけど、それにしたって、なぁ。

 なんというか、例えていうなら、街灯一つない真っ暗な帰り道で、自分の家の明かりを見つけた時のような安堵感? みたいな?

 って何言ってんだ、俺。懐かしさじゃなくて安堵感になってるじゃないか。

 ……もしかして、俺の元になった人間の記憶、なんだろうか。

 

「準備はいいか」

 

 チンク姉の声に、思考がぐるぐるしていた俺は、はっとして顔を上げた。

 確かめるように一瞬だけ強く握り締め、そして力を抜いて構える。

 

「いつでも」

「では、始めようっ」

 

 言い終わるや否や、手にした『スティンガー』を投げ付ける。

 チンクの固有武装である『スティンガー』は、彼女の意志で、ある程度操作が可能だ。だが、その操作精度も完璧とは言い難く、避けるのはそう難しくない。だが、安易に避けては、先天固有技能『ランブルデトネイター』の餌食になる。『スティンガー』を双剣で弾いても同様だ。いくら聖骸布で強化してるとはいえ、あの爆発力は完全に防げるものではない。

 となれば、ここは逃げるのみ。

 即座に自分の足を強化して、『スティンガー』を避けつつ、爆発される前にナイフから離れる。

 そのままチンクの後ろに回り込み、背後から双剣を振り下ろす。

 

「くっ」

 

 気配を察し振り向いたチンクは、固有武装『シェルコート』を発動させる。

 バリア状の防御障壁が、双剣の一撃をかろうじて食い止めた。

 構わず連撃。

 右手に持つ陰剣・莫耶を振り上げ叩きつけ、すぐさま左手に持つ陽剣・干将で薙ぐ。

 次撃を放とうと莫耶を逆手に持ち替えた所で、私はすぐさま飛び退いた。

 と、同時に、チンクの周りにいつのまにかセットされていた大量の『スティンガー』が牙を剥く。

 着地と同時に足をさらに強化して再び跳躍。

 途端、大爆発が起こった。

 『オーバーデトネイション』。

 何本もの『スティンガー』による、同時多発爆発。さすがにこれを受けるのはマズイ。盾を作りだす時間があれば話は別だが、現状聖骸布だけで防ぎ切れん。

 

「I am the bone of my sword.〈我が骨子は捻じれ狂う〉」

 

 大きく間合いを取りながら、煙が晴れる前に黒い洋弓を投影する。矢は螺旋剣。

 つがえ、着地と同時に、放つ。

 

「偽・螺旋剣〈カラドボルグ〉っ」

 

 放つと同時に煙が晴れ、私を視認したチンクは驚きに目を見開いた。

 右手を突き出し、再び『シェルコート』発動。

 螺旋を描きながら迫りくる剣が、『シェルコート』の障壁面とぶち当たる。

 

「くうっ」

 

 手にしていた洋弓を破棄し、螺旋剣に命じる。

 

「壊れた幻想〈ブロークン・ファンタズム〉」

 

 途端、螺旋剣は爆発を引き起こした。

 ヒビが入りながらも、螺旋剣に数秒堪えていた『シェルコート』だったが、宝具の爆発により、粉々に砕け散る。

 それを確認し、足を再強化。同時に干将・莫耶を再び投影し、チンクの背後へと回る。

 肩越しに、双剣を突き付けた。

 

「まだやるかね?」

「…降参。私の負けだ」

 

 チンクが両手を上げるのを確認して、突き付けていた双剣を破棄する。

 

「まさか、この私がこうも簡単に破れるとはな」

「相性の結果だ。もしチンクに直接攻撃スキルがあればもっと違っていただろうし、逆に遠距離スキルがあれば、私の方が敗れていたかもしれん。なに、我ら同士が訓練以外で戦うことはないのだ。訓練の結果など、たいした意味はなかろう?」

「それはそうだが、な。やはり姉として、弟に勝てないのではあまりに情けないだろう?」

 

 顔を歪め、苦笑するチンク。

 

「気にするような事でもあるまい。ただ単にそういう風に作られているというだけの話だ」

 

 チンクにはチンクの。私には私の役割がある。そのために作り出されたのだから、性質に違いがあって当然だ。

 何やら納得できなそうなチンクだったが、ふいに何かに気付いたように私を見つめてくる。

 

 え? なに?

 

「それはそうと、シロウ。お前、どうしてドクター相手の時と戦闘の時だけ口調が変わるんだ?」

「え?」

「さっきドクターと話していた時や、今もそうだが、なんというかこう、嫌味ったらしいというか、こ憎たらしいというか。ともかく、そんな口調なっているのは何故だ?」

「え? なにそれ。つまりは嫌な奴って事?」

「まぁぶっちゃけて言えば」

「いやいやいや。俺、チンク姉たちと喋る時みたいに喋ってたつもりなんだけどっ」

 

 寝耳に水っていうか、全く身に覚えがないんですけど。

 

「えっと、今は? 普通、だよな?」

 

 うわ、そんな事言われると、自分が今どんな口調で喋ってたるのか、自信がなくなってきた。

 

「あぁ。戦闘中は変わっていたが、今は普通に戻っている」

「なんでさ」

「私が知るか」

 

 自分のことながら、まったく意味不明だ。

 

「まぁだからなんだというわけではないがな」

 

 他人事だと思って…。まぁ確かに。戦闘中とドクターといるときだけなら、別に支障もないか。

 さすがにチンク姉たちににまでそうだったらちょっと考えるけど。姉に嫌な奴と思われたくないし。

 まぁドクターはそういうの、あんま気にしないだろうからな。なんせ俺たちの名前なんか数字だし。

 

「それよりチンク姉。怪我とかしてないか? 一応加減はしたんだけ、ど…?」

 

 ってチンクさん? なんか空気が冷たいんですけど? あれ? 俺、なんかマズイ事言った?

 俺の言葉を聞いたチンク姉は、ぴくりと体を震わせると、俺に向かって満面の笑みを向けてきた。

 

「手加減? すると何か。私はお前に手加減してもらっていた、と。そういうわけか?」

 

 そこまで言われて、やっと自分の失言に気付いた。

 

「え、いや、あの…」

 

 しどろもどろになる俺を、ぎらりと睨む。

 

「挙げ句私はそれにすら負けた、と」

 

 どんどん気温が…。

 っていうか、恐いよ。チンク姉。

 

「すいませんでしたッ!」

 

 だがそれに俺が堪えられるわけもなく、早々に白旗降参。

 

「すまんですめば管理局なんぞいらんわっ」

 

 って俺たち敵なんですけどッ!? ないほうが都合がいいんじゃ…。

 

「なにか言ったか?」

「何も言ってませんっ」

 

 俺が言いたいことを察したらしく、またもにっこり微笑んだ。

 これからはもうちょっと言動に気を付けようと思いました。

 

 

 

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