作中、突然士郎の口調が変わっているところがありますが、基本的に戦闘になると、思考もアーチャーモードになります。
なので、ナンバーズたち全員名前呼びにかわります。
スカリエッティと相対時に口調がアーチャーモードになりますが、こちらは思考は元のままです。
ちなみに戦闘時はともかく、スカリエッティと相対時にアーチャーモードになるのは、無意識にスカリエッティを警戒しているためです。
士郎は完全に無意識でアーチャーモードになっているため、自覚はなく、指摘されても理解できません。
ちなみにちなみに。アーチャーモードになる条件は、
①戦闘中
②敵と相対しているとき
③警戒しているとき
④油断ならない相手と相対しているとき
⑤人をおちょくる時(挑発も含む)
です。
③と④の違いは、③は敵かどうかわからない場合、④は敵ではない場合です。
スカリエッティに対しては③→④のち最終的には⑤へ進化します。
朝食が終わった食堂。
今日の朝食は、焼き鮭を中心とした和食。
ちなみに今日の後片付け当番はノーヴェ姉だ。
「そーいえば今日だっけ。例のマテリアルの移送」
ふと思い出したようにセイン姉が呟いた。
「あぁ、そういえばそうねぇ」
クア姉もお茶を啜りながら同意する。
「確か、レリックも一緒に移送するんスよね?」
「あぁ。新たに発見された二個のレリックも一緒だ。今日の夕方にはここに着くだろう」
ウェン姉の言葉に、トーレ姉が頷いた。
「マテリアルってあれだろ? 例の、『聖王の器』候補とかっていう……」
「えぇ。聖王の遺物から抽出されたDNAを元に造り出したモノよ。別の場所で研究中だったんだけど、そろそろドクターの計画発動も近づいてきた事だし? こちらに移す事になったのよ。まぁもっとも? それが本当にそうなのかどうかは、移送されてきてから調べてみないと分からないんだけどね〜」
俺が聞くと、クア姉は、モニターを展開しながら説明してくれた。
モニターには、培養器らしいガラスケース。ケースの中には、溶液に浮かぶ一人の子供が映っていた。
年は五歳くらいだろうか。金髪の、小さな女の子だった。
こんな小さな子を巻き込まなきゃならないなんて、いくらドクターの計画でも、正直気が進まない。
と、そのとき。
全員に向けて、ドクターから通信が入った。
「あぁ、ドクター。また朝食は後回しかね?」
『やぁ、シロウ。すまないね、君の作った食事はとても美味しいんだが、本当に残念なことに、今はそれどころではないのだよ』
芝居がかった調子のドクターに、またかとばかりに、こちらもやや大げさに肩を竦めてみた。
「あらドクター。どうかしたんですの?」
『ちょっと面倒なことになってね。詳しい話がしたいから、皆私の所まで来てくれないかい?』
「了解しました。すぐに向かいます」
『よろしく頼むよ』
そう言って通信は切れた。
「面倒なことって、なにがあったんスかね?」
「さあな。ノーヴェ、片付けは後でいい。とにかく行くぞ」
みんなが席を立ち、トーレ姉は台所のノーヴェ姉に声をかけた。
全員で研究室に行くと、ドクターとウーノ姉がモニターを見ながら、何やら真剣な面持ちで話し合っていた。
正確に言うと、真剣な顔をしていたのはウーノ姉だけで、ドクターはいつもと変わらない表情だ。
「あぁ、待っていたよ」
俺たちに気付いたドクターが声をかけてきた。
「ドクター? 面倒事とは一体何がありました?」
代表して、トーレ姉がドクターに聞いた。
聞かれたドクターは、斜め後ろにいたウーノ姉に目配せする。
ウーノ姉は頷くと、モニターを操作した。
「つい先程、マテリアルを移送中の車をガジェットが襲撃。マテリアルと一緒にあったレリックに反応したようね。その衝撃で、マテリアルを入れていた生体ポッドが爆発、マテリアルは二個のレリックを持って逃走。現在、車の所には管理局員が向かっているわ。これは事件直後の現場の様子よ」
モニターに映し出されたのは、横転したトラックと散乱した荷物。そして封の開いた生体ポッド。そのすぐ脇には、何か重いものを引き摺ったような跡が、マンホールへと続いていた。
「レリックの反応があったらまず確保するのを最優先にプログラムしていたのが、今回は裏目に出てしまったね」
「あーらら。するってーと、もしかして、あたしらにその回収をってこと?」
頭の後ろ手腕を組み、セイン姉が茶化すように言った。
「現場には既に、ルーテシアお嬢様とアギトが向かっているわ。彼女たちには、マテリアルと共にあるレリックの捜索をしてもらっている所よ」
「ゼストの旦那は?」
「別行動中のようね」
新たにモニターに映されたのは、紫の髪をした少女ルーテシアと、赤い融合騎アギト、そして寡黙な騎士ゼスト。
「それで? あたしらは何をすればいいんスか?」
「君たちには出動してくるであろう機動六課の相手をお願いしたい。面倒事ではあるが、まぁ全員が出るまでもなかろうから、クアットロ、人選は君に任せるよ」
「了解で〜す。それじゃ、トーレ姉様とチンクちゃん、それからノーヴェちゃんとウェンディちゃんはここで待機ね」
「はぁ!? なんでだよっ」
「なんでって、ノーヴェちゃんは固有武装がまだ完成してないでしょ〜? そんなんで出て行ってどうするつもりかしら?」
「ぐっ」
ノーヴェ姉の固有武装は、先天魔法とか色々あって面倒らしく、まだ完成していないのだ。
「それに近接戦闘はあまりしない方がいいと思うのよね〜。計画のこともあるし。というわけで、今回は私とセインちゃん、ディエチちゃん、それからシロウちゃんで行ってくるわ〜」
「私もか?」
突然の指名に驚いた。
「私も近接戦闘系だが?」
空飛べないし。
「いいのよ。そろそろシロウちゃんも任務をこなしておかないとね?」
「まぁクアットロがそう言うのなら、私は構わんがね」
「何が起こるか分からないですし、トーレ姉様にはここで待機して頂いて、何かあった時はよろしくお願いしますね〜」
「いいだろう」
トーレ姉の先天固有技能はナンバーズ最速だからな。
「決まったようだね。あぁそうだ。シロウ、君に渡すものがあるんだよ」
そういって、ドクターじゃなくウーノ姉が手渡してくれたのは……。ピアス?
「通信機みたいなものだよ。空間モニターの展開なんかもできるようにしてある。ナンバーズたちには元から組み込まれているんだがね。外に出るなら必要になるだろう? 君用に調整してあるし、使い方も簡単だよ」
受け取って、耳に取り付ける。
試しに空間モニターを展開してみた。
「ほぅ、なるほどな」
「大丈夫そうだね。さて、それでは早速で悪いんだが向かってもらえるかな?」
「了解で〜す。さ、行きましょ」
「はいはーい」
クア姉に促されて、俺とディエチ姉、セイン姉は研究室を後にした。
最後までノーヴェ姉はふくれっ面で俺たちを睨んでたなぁ。
「あらあらあらぁ? なぁんか面倒なことになってるわね〜」
空中でモニターを操作しつつ、クア姉が漏らした。
今回のメンバー内で唯一空が飛べるクア姉以外は、航空型の2型を足に使っている。
「どうかした?」
2型の上で胡坐をかいていたセイン姉が聞き返す。
「マテリアルの方は管理局が確保しちゃったみたいね」
「えぇ? それってマズイんじゃないの?」
「まぁいいわ。ヘリごと撃墜して、マテリアルだけ奪っちゃいましょ。幸い、ドクターとウーノ姉様の話では、ディエチちゃんの砲撃くらいじゃ死んだりしないみたいだし」
「レリックの方は?」
巨大な布包みを抱えたディエチ姉が、小さく呟く。
「一個はマテリアルと一緒に管理局のヘリの中ね。もう一個は、どうやら移動中に落としてきちゃったみたいね〜。地下水路で反応が止まってるわ」
「あたしらはどーすんの?」
「セインちゃんは地下へ向かってちょうだい。そっちにはルーお嬢様が向かってるから、セインちゃんはその援護ね」
「はいよー」
返事と同時に、セイン姉は指示された方へと、一人向かっていった。
「ディエチちゃんとシロウちゃんは廃棄都市区画で待機。ヘリはどうせ機動六課に向かうでしょうから、途中にあるそこを通るはずよ。そこなら余計な邪魔も入らないし、ディエチちゃんはそこで、砲撃の準備して待っててね。シロウちゃんはその護衛」
「クア姉は?」
「私はちょっと遠くで陽動作戦を展開するわ〜。一区切りついたら合流するから、それまでおとなしく待機してるのよ?」
「了解」
「ん。わかった。気を付けてな、クア姉」
「だぁいじょうぶよ〜。じゃあね〜」
ひらひらと手を振りながら、クア姉は海の方へと向かって行った。
マテリアルが保護されたらしいサードアベニュー辺りから、機動六課本部隊舎までの飛行ルートを検索する。
ディエチ姉が。
いや、だって、俺。六課の隊舎の位置知らないし。
しばらくディエチ姉について移動する。
「この辺りがいいな。周りに遮蔽物もないし、砲撃には絶好のポイントだ」
2型から降りて、一応辺りを警戒する。
まぁヘリが来るまでは警戒も必要ないだろうけどな。
「ディエチ姉。クア姉の方はどうなってる?」
「陽動昨戦中だ。海上で、2型を使って六課のエースをあっちにおびき寄せたらしい。幻影との混成編隊でかなりの数になってるから、敵は当分釘づけだ」
聞くと、モニターを確認しながら教えてくれた。
「となると、ヘリにはたいした戦力は残ってないってことか」
「だろうな。地下水路には向こうの新人たちが来て、ルーお嬢様と戦闘中らしい。あっちにはガリューがついてる。セインの出番はなさそうだ」
「ならどっちも安心そうだな」
「あぁ。……あっ」
ホッとしたのも束の間、ディエチ姉が声を上げた。
「ディエチ姉?」
「クアットロの方に、六課の部隊長が出張ってきた」
「部隊長が? それでクア姉は?」
六課の部隊長って、たしかSSランクの広域魔法の使い手じゃなかったか?
大丈夫か、クア姉。
「クアットロは大丈夫だ。ただ、広域魔法で幻影ごと2型を殲滅してる」
『こっちはちょっと面倒な相手が出てきちゃったから、そっちに合流するわ〜』
いいタイミングでクア姉から通信が入った。
「ってことはもしかして、敵がこっちに戻ってくるかもしれないってこと?」
「恐らく。クアットロより速いって事はないだろけど、もしかしたらこっちにも支障が出るかもしれない」
六課のエース。たしか、どっちもオーバーSクラスの魔導士だ。それがくるとなると、結構厳しいかもしれないな。
「戻ってきた」
ディエチ姉が空を見上げる。
同時に俺も、目を強化して確認した。
「大丈夫だったか、クア姉」
ふわりと降りてきたクア姉に声をかける。
「勿論よ。直接戦闘したわけでもないし、なぁんにもないわ。それよりもヘリの方は?」
「後五分程で射程圏内に入る」
言うと同時に、砲身をぐるぐる巻きにしていた布を取り払う。
「シロウちゃん。多分必要ないと思うけど、シロウちゃんはちょっと離れたところで待機しててね」
「なんでさ」
「もしものためよ〜。万に一つもないだろうけど、敵が戻ってきたら、向こうから丸見えでしょ?」
「あぁ、なるほど。わかった。その辺に隠れてるよ」
ようするに、俺の役目は、襲撃された場合の遊撃要員ってとこか。
納得して、二人のそばから離れる。
足を強化して後ろのビルへ飛び降り、物陰に隠れた。
二人のいるビルは、この辺りでは一番高いビルで、後ろにあるここは、ヘリからは完全に隠れる形になる。たいして差はないだろうけど、広域スキャンなんてしないだろうから、まぁ大丈夫だろう。
さっきドクターに貰ったピアスで、二人の様子を確認する。
ディエチ姉が先天固有技能『ヘヴィバレル』を発動させ、カウントダウンを開始した。
カウントゼロと同時に、空気を震わせて、物理破壊の砲撃が、ヘリに向かって放たれる。
大爆発。
成功したか?
……いや。当たる直前、巨大な魔力反応が一つ、割り込んだ。
防がれたか。
ん? 一つ? ということは、もう一人は……。
「今の砲撃で位置を特定されたかッ」
となると、クアットロたちが危ない。
物陰から飛び出すと同時にモニターを消し、足を強化。
「I am the bone of my sword.〈体は剣で出来ている〉」
飛んでくるだろう敵の攻撃を防ぐために、盾を引っ張りだす。
壁を蹴り、二人の元へ急ぐ。
案の定、視界の端に黄色い魔力弾を捉えた。
「熾天覆う七つの円環〈ロー・アイアス〉!」
展開された七枚の花弁が、損壊なく魔力弾を防ぎきる。
「シロウちゃん!」
「見つけたっ」
盾が消えるとほぼ同時に、魔導士が一人、私たちの前に降り立った。
黒い服に白いマントの軽装型のバリアジャケットを纏った、金髪の女。
「は、速いっ」
あまりの速さに、ディエチが茫然と呟く。
それも一瞬。すぐさまその場からは慣れるために足を強化。
ビルから飛び退くも、魔導士は警告を発しながら猛スピードで追ってくる。
「止まりなさいっ。市街地での危険魔法使用、および殺人未遂の現行犯で、逮捕しますっ!」
言葉と同時に、魔法を発動させた。彼女の周りに、環状魔法陣を帯びた光弾がいくつも出現する。
おそらく、追尾型か誘導型の射撃魔法だろう。
「今日は遠慮しときますぅ」
クアットロは空を飛びつつ、私とディエチはビルからビルへと飛び移りながら逃げる。
彼女が魔法を発射する前に、クアットロが先天固有技能を発動させる。
「IS発動。『シルバーカーテン』」
途端、私たちの姿は消え失せた。
クアットロの先天固有技能『シルバーカーテン』。幻影を操り敵の知覚を騙し、私たちの姿をあたかも消えたように見せ掛ける。
「はやてっ」
すると彼女は、ある名前を呼んだ。たしか……機動六課の部隊長!
「了解!」
叫ぶと同時に、彼女は追うのをやめ、離脱する。
広い道路に降り、追ってこないことを確認する。
「離れた? なんで!?」
意味が分からず、クアットロも『シルバーカーテン』を解除する。
六課の部隊長。たしか得手は……広域魔法!
まさかっ!?
嫌なことに思い至ると同時に、遥か上空に、黒い雷を帯びた巨大な球体が出現する。
「広域、空間攻撃っ」
「うっそぉん」
球体が突然縮みはじめた。と、同時に、黒白の閃光を放ち、物凄いスピードで巨大化していく。
「くっ」
慌てて走りだす。
常よりも多く魔力を注いで足を強化した。
その横では、間に合わないと踏んだのか、クアットロがディエチを抱えて飛ぶ。
「シロウちゃんもっ」
「私は大丈夫だ。それよりも早く離脱しろ!」
クアットロの助けを断り、飛んでいく二人とは別方向に走る。
さらに強化を重ねがけして速度を上げた。
これならなんとかぎりぎり回避できる。
クアットロたちが飛び出したのを見計らうに、先程私たちを追ってきた魔導士が、二人の前に立ちふさがり、魔法を発動させる。
その反対側には、ヘリを守った白い魔導士も追いついてきた。
「投影開始〈トレース・オン〉」
道路を駆け、ビルの壁を蹴り、屋上へと向かいながら、黒い洋弓を投影する。
「I am the bone of my sword.〈我が骨子は捻れ狂う〉」
屋上に辿り着き、空を見上げると、今正に魔法が放たれようとしていた。
「偽・螺旋剣〈カラドボルグ〉」
直前。螺旋剣を投影し、黒い魔導士に向かって放つ。
〈Difencer.〉
「え?」
発動しかけていた魔法をキャンセルして、デバイスが防御魔法を唱えた。
僅かに拮抗する。
同時に、黒い魔導士のデバイスがカートリッジを二発ロード。
その魔力をすべて防御魔法に注ぎ込む。
「壊れた幻想〈ブロークン・ファンタズム〉」
螺旋剣を爆発させる。
その爆発と同時に、防御魔法は砕け散った。
〈Sonic move.〉
デバイスの詠唱と同時に、黒い魔導士は黄色い光となってその場から退いた。
「くっ!」
歯噛みして、白い魔導士のすぐ横まで移動する。
『クアットロ!』
俺からの通信に、クアットロはすぐさま行動へと移す。
足を強化し、二人の元へ戻る。
「IS発動『シルバーカーテン』!」
再び私たちの姿は消え去る。
「I am the bone of my sword.〈我が骨子は捻れ狂う〉」
再び洋弓と螺旋剣を投影。
「偽・螺旋剣〈カラドボルグ〉」
彼女たちを狙い、剣を放つ。
〈Protection.〉
〈Difencer〉
二人のデバイスが、同時に魔法を発動させてバリアを張る。
「壊れた幻想〈ブロークン・ファンタズム〉」
ぶつかる直前で、再び螺旋剣を爆発させる。
爆発で起こった煙が、彼女たちの視界を塞いでいる間に、私たちはその場から離脱した。
敵の広域スキャン範囲外で、セイン姉とルーテシア、アギトと合流する。
「誰だ、お前」
初めて顔を会わせたアギトに睨まれた。
そのすぐ横では、ルーテシアも訝しげな顔をしている。
「二人とははじめましてだな。ナンバーズ46番、シロウだ」
「はぁ!? ナンバーズってそんなにいるのかよっ」
「俺は戦闘機人じゃないよ。人造魔術士だ」
初めて聞くだろう言葉に、ルーテシアは何か言いたそうに俺を見つめてくる。
「別の次元世界にいる魔術士って存在に興味を持ったドクターが作った存在だよ」
「それって魔導士とは何か違うのかよ」
「まったくの別物だ。現に俺は魔法は使えないからな。実感湧かないようなら、実演するけど?」
俺の言葉に、ルーテシアはこくりと小さく頷いた。
「分かった。でも今はとりあえずアジトに戻ろう。スキャン範囲外とはいえ、何があるか分からないからな」
「そうですねぇ。ルーお嬢様ぁ、お願いできますぅ?」
クア姉に頼まれ頷くと、両手のデバイス『アスクレピオス』を起動し、転送魔法を発動させた。
ルーテシアの転送魔法でアジトに戻ってくると、さっそく回収したレリックの確認をしてみる。
「じゃじゃ〜ん。……あれ?」
ぱかっと開けたケースの中は空っぽ。
「セインちゃん、あなたまさか…」
「あたしはちゃんと運んで来たっ!」
疑わしい目を向けるクア姉に、セイン姉は額に青筋を浮かべて猛抗議。
「『ディープダイバー』の使い方間違えて、中身だけ落としてきたのか?」
やや呆れ口調のディエチ姉。
「間違えねぇっ!」
今度はディエチ姉に猛抗議。
その横でルーテシアは、残念そうにため息を吐いた。
中身が空だったから、というよりは、それが目的の物ではなかった、みたいな。
「ちゃんとスキャンして! 本物のケースだって確認して!」
証拠とばかりに、ケースを先に持っていたらしい、六課の新人たちの画像を多数展開させた。
「ほれっ!」
どうだとばかりに見せつける。
「確かにケースは本物みたいだけど……」
全員でモニターを見比べる。
って、あぁっ!
「う〜ん。おかしいわねぇ」
みんなが揃って首を傾げている中で、俺は画面の異常に気が付いた。
「あー……」
何といっていいものか。
「どうかしたか、シロウ」
「どうやら一杯食わされたみたいだな」
「なんだって?」
全員が揃って俺に注目する。
モニターに映っている人物、ルーテシアくらいの少女の頭上を指差す。
「おそらく、ここだ」
「えぇ!? ま、まさかあいつらっ」
「確か向こうにも幻影の使い手がいるんだろ? 多分、レリック自体に封印を施した上で幻影をかけて隠してたんだ。これを持ってた子は、戦闘では最後列にいる召喚士。一番バレにくいってわけだ。……してやられたな」
誰からともなく重い空気が流れる。
「申し訳ありませぇん、ルーお嬢様ぁ」
猫なで声のクア姉に、ルーテシアは表情を変えない。
「いい。私が探してるのは、11番のコアだけだから」
言われて、ディエチ姉がケースを確かめる。
「あ。これ6番か」
「しっかしやっべぇ。コアもマテリアルも管理局に渡しちゃったとなると……」
「ウーノ姉様に怒られるぅ」
結果的に、今回は俺たちの完敗ってわけだ。
「結果は結果だ。クアットロ、ドクターに報告頼む」
「えぇ〜。私が〜?」
「作戦の現場指揮官はお前だろ」
しれっと言うディエチ姉に、クア姉は顔を歪めた。
「まぁまぁ。嫌な役をやってくれるクア姉には、今日の晩ご飯におかずサービスするからさ」
「あ、ズルイ! おかずサービス権がつくならあたしがやるっ!」
「だーめーよ。ドクターとウーノ姉様への報告は、現場指揮官たる私のお仕事ですものね〜。シロウちゃん、だし巻き卵でお願いね。それじゃあちょっと行ってくるわぁ」
さっきまでの嫌がりようとは打って変わって、るんるんとクア姉は去っていった。
「ずりぃよー、シロウー」
「何言ってるのさ。さっきまでクア姉と一緒になって『怒られる〜』ってびくびくしてたくせに」
「シロウのだし巻き卵を独り占めできるなら、怒られてもいいっ」
力一杯断言した。
いや、そりゃ嬉しいけどさ。
「なぁなぁ。そいつの料理、そんなに美味いのか?」
今までのやりとりを一部始終みていたアギトが、会話に割って入ってきた。
「そりゃもう美味いなんてもんじゃないですよ」
力説するセイン姉に、ディエチ姉も横で頷いている。
「へぇ〜。つーか、ちょっと前まで出来合いの弁当食ってた奴らに、料理の美味いマズイがわかんのか?」
アギトは信じられないとばかりに、じとーっと睨む。
「だからこそ、シロウの料理の美味さがよく分かる」
「そーゆーこと。なんならアギトさんとルーお嬢様もご飯食べていきます?」
「よぉーし。そこまで言うなら確かめてやろうじゃないか。な? ルールー」
ルーテシアも小さく頷く。
勝手に増やすなよな。まぁ二人とも、姉たちみたいに山盛り食べたりしなさそうだし、まぁいっか。人数多いほうが楽しいもんな。
さてと。メニューは何にするかな。
と、考え込んでいた俺の服の裾を、くいくいと誰かが引っ張った。
「ん? どうした、ルーテシア」
「実演。魔術、見せてくれるんでしょう?」
「あぁ、そういえばさっき約束したっけ。食事の支度始めるまでまだ時間あるし。よし、じゃあこれから見せてやろう」
「やるなら訓練スペースでやれよー」
「わかってる。じゃ行くか」
こくりと頷くルーテシアとアギトとと共に、俺は訓練スペースへと向かった。
「さて、と。投影開始〈トレース・オン〉」
訓練スペースについた俺は、さっそく双剣を投影してみせた。
「うぉ。いきなり剣が出てきた?」
「これが俺の魔術だ。投影っていって、複製品を作りだすんだ。といっても、俺が作るのは武器、それも剣ばっかだけどな」
「触ってみても、いい?」
遠慮がちなルーテシアに笑いかけ、右手の干将をくるりと回し、ルーテシアに柄を差しだす。
受け取り、剣を持つ。
彼女が持つと、短刀もやけに大きく見える。
気が済んだのか、ルーテシアは剣を差しだした。
受け取らず、ルーテシアの手の上から破棄する。
「消えた」
「すげぇ。出すのも消すのも自由かよ」
「そりゃあ俺が作ったものだからな」
「何でもできるのか?」
「いや。基本的には剣だけだな。まぁ他のもできるけど、魔力の消費が剣より多いしちょっと能力も落ちるかな。魔力消費を考えると、元からある物を使った方が楽だね」
「ふーん。便利なんだか不便なんだか、よく分からない力だな」
アギトの言葉に苦笑する。
「さてと。そろそろ時間だな。食事の支度をしないと」
「楽しみにしてるぜ? な。ルールー」
ルーテシアも小さく頷いた。
「なら余計に腕を振るわなくちゃな」
二人に笑いかける。
歩きだそうとしたところで、ルーテシアが服の裾をつかんだ。
見ると、呼んでいるわけじゃないみたいだ。
ふとしてその手を外すと、ルーテシアが哀しげに見上げてくる。
下ろそうとする手を取り、その小さな手を握る。
ルーテシアは驚いて俺を見上げてくるが、俺は気付かないふりをして、手を握ったまま歩きだした。
しばらく俺にただ握られていただけだった手が、弱々しく握り返してきたのを感じ、ふと嬉しくなった。
余談だが、この後一緒に食事をしたアギトからは、あらん限りの称賛(花火つき)を受け、ルーテシアからは、なぜか信頼のようなものが込められた瞳で見つめられた。ついでにこれ以後、俺はルーテシアから『シロウお兄ちゃん』と呼ばれるようになった。
呼ばれた瞬間、雪のイメージが頭の片隅に浮かんだけれど、それはすぐに消えて行ってしまった。