46番目の魔術使い   作:眞神零一郎

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ちょっとシリアス入ります。

あくまでも作者にとってはという話です。
意味は読んでいただければわかるかと思います。


EX.1 シロウくんの受(女)難!?

 

 

「と、いうわけで~。実験台になってもらうわよ~。セ・イ・ン・ちゃん(はぁと)」

「いやいやいやいや! そーゆーのはあたしじゃなくて誰か別の……」

 

 にんまりと笑うクアットロに腕を掴まれながら、セインは力の限り首を振る。

 直視したくなくて視線をずらしてみるも、腕を掴まれていては逃げることもかなわない。

 

「あ~ら~? セインちゃんったらお姉さんに逆らう気~?」

 

 首を傾げて可愛いしぐさをするものの、掴まれた腕に増す圧力はそれを裏切っている。

 

「ソ、ソンナコトナイデスヨオネエサマ?」

 

 思わず片言に。

 

「そうよね~? そ~んなこと、ないわよね~?」

 

 さらに強い力で腕を握り締めながら、満面の笑みでセインの顔を覗き込んだ。

 

(ヒィィィィ。シ、シロウ! 助けろ! 弟だろ!)

 

 余りのことに、すぐ横に立っていた弟に視線だけで助けを求める。

 

(無理無理無理無理。ていうかこっちに振るなー!)

 

 こちらもまた視線だけでそれを力の限り断った。

 

 クアットロは姉妹たちの中でも特にスカリエッティに近い気質をしている。

 スカリエッティといえば、上にマッドがつく科学者だ。

 彼女は科学者ではないものの、技術者系。

 ついでに言えば、人をからかって遊ぶのも、他人の不幸を眺めるのも、自分がそれを与えるのも大好きなのだ。

 『実験台』なんて、それをネタに彼女がからかったり遊んだりしないはずがない。

 しないはずがないのだ。

 

「何をこそこそしてるのかしら~? ふ・た・り・と・も?」

 

 びくりと二人揃って肩を震わせる。

 

「「ナンデモナイデス」」

 

 これまた揃って首を振った。

 

「よろしい。じゃ早速はじめるわよ~?」

 

 二人の答えに満足し、クアットロはセインの腕を掴んだまま、足取り軽く引っ張っていった。

 直前にセインが弟を道連れにと、その腕を掴んでいたのはご愛嬌。

 結局二人は、るんるんと今にもスキップでもしそうな姉に連れられて、実験台となるべく部屋を後にした。

 

 

 

 訪れたのは、スカリエッティの部屋近くにある一室。

 中央にはベッド。それも検査機器のようなものがごっそりと取り付けられた機械製のそれ。

 それ以外には特に家具らしいものは置かれておらず、殺風景だ。

 

「さてシロウちゃん。ここが私たちの調整とか修理とかをするための部屋よ」

「へぇ。意外と普通なんだな」

 

 あたりをきょろきょろと見回して呟く。

 

 実験台などというから、もっとグロテスクとかスプラッタ的な器具が置かれていたりするのではと、部屋に入る直前まで実は疑っていたシロウであったが、あまりに普通な部屋を見て内心安堵の溜息を漏らした。

 

「意外とってどんなのを想像してたのかしら?」

「いや、具体的にどうってわけじゃないけどさ」

 

 突っ込まれるも、どうにか誤魔化す。が、頑張ってみたものの、視線が僅かに逸れてしまう。

 

「そう? まぁいいわ」

 

 内心、ヤバイと思いつつも、どうやら見逃してくれたらしい。

 

「さてセインちゃん。服脱いで寝て頂戴」

「あいよ~」

 

 ほっと溜息をつきかけて、続くクアットロの言葉に固まった。

 今何か、不穏な言葉が出なかっただろうか?

 続く言葉もそれを当然のことのように肯定していなかったか?

 

「ちょ、ちょちょちょちょっ!?? ふ、服脱ぐって!?」

 

 フリーズから五秒。

 再起動と同時に顔を真っ赤にして後退る。

 

「あら当然でしょ? 服脱がないと検査はともかく修理できないじゃな~い?」

 

 うろたえるシロウを他所に、クアットロはくすくすと楽しげに笑う。

 

「まぁ検査のほうも簡易的なチェック程度ならまだしも、本格的なのとなったら服脱がないと無理だけどなー」

 

 変わってセインのほうは、どちらかといえば『仕方がない』といったところか。

 

「そ、そりゃそうかもしれないけどっ! 俺! 男!」

 

 びしりと自分を指差しながら力説してみる。

 

「? そんなの見りゃ分かるって」

 

 が、通じなかったようだ。

 『だから何だ』とセインは首をかしげている。

 

 一方のクアットロはといえば、聡い彼女のこと。当然ながらシロウの言いたいことは理解できた。が、理解したからといって彼の望む行動をするかどうかはまた別の話なのである。

 

「はっは~ん」

 

 眼を三日月のように細め、にまにまと笑うクアットロに、シロウは思わず一歩下がる。

 

「ク、クア姉?」

「さてはシロウちゃん。恥ずかしーんでしょ~? オトコノコだものねぇ~?」 

「ち、ちがっ!!」

 

 慌てて否定するが、クアットロどころかセインすらにまにま笑ったままだ。

 

「「へぇ~?」」

 

 にまにまにまにま。

 

「何が違うのかしら~? シロウちゃんってば顔真っ赤っかよ~? 林檎みたいね~?」

「何恥ずかしがってんだよ。姉弟だろ? 赤の他人だってンならまだしも……」

 

 逆に姉弟だからこそ恥ずかしいこともあるが、そのあたりは当人にしか分からないだろう。

 

「ばっ! 馬鹿野郎っ! 姉弟だって関係ないだろっ! つ、慎みというか恥じらいを持てっ!」

 

 恥ずかしさに更に赤くなりつつ、どもりながらも注意する。

 

「必要ねーだろ、そんなモン」

 

 しかしそんなものはどこ吹く風。すっぱりと切り捨てられてしまう。

 

「何言ってんだっ!! 例えそれっぽくないからってセイン姉は女の子だろっ!」

 

 つい漏れてしまったシロウの言葉に、一瞬しんと静まる。

 

(あれ? なんか、肌寒いような……)

 

「……それっぽくないってのはどーゆーイミかな、シロウくん?」

 

 瞬間吹き荒れるブリザード。

 

「え゛!?」

 

 思わずそちらを見やると。

 

「つまりあたしは女の子っぽくない、と」

 

 笑顔の鬼神が立っていた。

 正確には、口元だけ笑っているが、眼は氷のごとく凍てついている。

 笑っている口元も、よくよく見てみればひくひくと引きつっていた。

 眼を背けたいのに、怖くて背けない。

 

「い、いや……」

 

 まずいと思いつつどうにか言い訳をしようと口を開く。

 

 ダンッ

 

 わざとらしく一歩踏み出したセインの足音によって遮られ、びくりと肩を震わせた。

 

「ガサツで口も悪くて、とても女の子らしくない、と」

 

 ダンッ

 

 ダンッ

 

 一歩二歩と近づいてくる姿に、思わず近づかれた分後退る。

 

「そこまで言ってないだろっ!」

 

 怒りは収まらないだろうとは思いつつ、少しでも下げようと否定してみるのだが。

 

「そこまでってことは、多少は思ってたんだ?」

 

 揚げ足を取られた。

 

「う゛ッ」

「そこで詰まるってことは、そうだって言ってるようなもんよね~?」

 

 クアットロの余計な一言で止めを刺される。

 

「へー。ほー。ふーん?」

「ないっ! 思ってないからな、セイン姉っ!」

 

 首と両手を最大限横に振りつつ、何とか説得を試みるが、時既に遅し。

 少しずつ近づいてきていたセインがシロウの前で立ち止まる。

 にっこり笑うセインに、シロウもつられて引きつった笑みを浮かべる。

 

「問答無用っ! 天誅っ!!」

 

 笑みを浮かべたまま、シロウの鳩尾に右の拳を叩き込んだ。

 

「な、なんで、さ……」

 

 どうにかそれだけを口にして、シロウの意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

「……ちゃん。……ウちゃん。いー加減に起きなさいっ、シロウちゃん!」

「はっ!?」

 

 クアットロにたたき起こされて、ようやくシロウは眼を覚ました。

 

「もぅ。やっと起きたわね~?」

 

 ようやく起きた弟に、呆れ交じりの溜息を吐く。

 

「え? あれ? 俺、どうして……」

 

 先ほどのやり取りを覚えていないのか、自分とクアットロを交互に見比べて首を傾げる。

 

「クア姉? 俺なんで寝てたんだ?」

 

 的外れなシロウの言葉に、クアットロはもう一度溜息をつく。

 

「寝てたんじゃないの。気絶してたのよ~? 覚えてないのかしら?」

「気絶? なんで?」

 

 どうやら記憶の混乱が見られるようだ。否、自分で忘れようとしているのか。

 

「はぁ。シロウちゃんにあたしたちの検査とか簡単な修理やってもらうから、それについて説明してあげてたんじゃない」

「えっと、そう、だっけ?」

 

 自信なさそうに首を傾げる弟に、クアットロは三度溜息を漏らす。

 

「しっかりしてね、シロウちゃん。セインちゃんだってずっと待ってたのよ~?」

「? セイン姉?」

 

 突然出てきた姉の名前に困惑する。

 セインがこの場にいたというのに、今までの会話に入ってこなかったということに疑問を感じたのだ。

 彼女の性格上、真っ先に声をかけてきただろうから。

 

「ったく。いくらあたしが戦闘機人だからって、ずっとこのままじゃ風邪引いちまうだろ」

「風邪? ぶっ!? セ、セイン姉っ?? な、なんて格好してんだよっ!!」

 

 どうして風邪? と疑問に思いつつ声の方を見て、シロウは思わず吹いた。

 

(何故? どうして? はっ! そういえばなんか近視感!?)

 

「何って、レクチャーがてらあたしの修理するんだろ?」

 

 今更という風に肩をすくめるセインに、シロウはようやっと自分が気絶していた、否させられていた理由を思い出した。

 

「だ、だからってっ! なんで裸なのさっ!!?」

 

 さっきまで確かに服を着ていたはずなのに、シロウが気絶してた数分だかの間に、セインは裸になっていたのだ。

 羞恥心? ナニソレ、美味いのか?

 とばかりに堂々と、真っ裸のまま腰に手を当てて見事な仁王立ち。

 何から何まで、まるっと全部お見通し。ではなく丸見え。

 姉の裸を直視してしまい、真っ赤になりながらも慌ててセインから視線を外す。

 

「バーカ。服着てたら修理できないだろ」

 

 小馬鹿にしたように笑うセイン。

 

「そ、そうかもしれないけどっ! だぁぁぁぁっ! いいから前っ! 前隠してっ!」

 

 面白がるように、背けた顔の正面にわざわざ移動して来たセインの裸を再び直視して、喚きながらまた慌てて顔を背ける。

 

「あら、いーじゃない。別に姉弟なんだし。ねぇセインちゃん?」

「そーだな。姉弟だしな。なー? シロウ?」

 

 くすくす笑いながらそれを眺めるクアットロと、面白がってシロウの正面に何度も回りこむセイン。

 二人は楽しそうに笑って互いに顔を見合わせた。

 

「いいわけあるかぁぁぁぁっ!」

 

 絶叫。

 

 その隙を突いてセインが抱きついた。

 

「寄るな触るな抱きつくなぁぁぁぁぁっ!!! せめてタオルかなんかで隠せぇぇぇぇぇっ!」

 

 背中に抱きつかれ、服越しとはいえその感触をまざまざと感じてしまい、どうにか腕の拘束から逃れようともがく。

 

「ひっどいな~」

 

 その反応をにやにやと眺め、けれども腕はがっちりホールド。放さない。

 

「ひ、酷いのはそっちだろっ! ていうか、絶対楽しんでるだろっ!」

 

 背中から抱きついているから裸を直視する心配はない。

 ないが、それ以上に背中に感じる柔らかな感触に、シロウは切羽詰っていた。

 

「そぉんなこと、ないわよ~? ねぇ、セインちゃん?」

「そんなことないぞー? な、クア姉」

 

 そんなシロウを尻目に、二人は揃って三日月眼で笑いあった。

 

「ウソだぁぁぁぁぁっ! ぜっっっったい楽しんでるっ! つーか遊んでるっ!」

 

 うごうご逃げようともがいてみるも、動けば動くだけ反動で柔らかさを自覚する。

 本気で逃れようとすれば、シロウの戦闘能力ならばいくらでも逃れられるが、へたれフェミニストのシロウには、無理やり引き剥がすという考えはない。

 というか今は、それすら思い浮かばない程にテンパっていた。

 

「何言ってるのよシロウちゃん」

「へ?」

 

 一転真顔に戻ったクアットロに気が削がれ、おもわず間抜けな声が漏れる。

 

「これから私たち全員の検査とか修理してもらうのよ? これくらいで騒いでちゃ何も出来ないじゃない」

 

 その通り。

 それに思い至ったシロウは途端に顔を青く染めた。

 つまり、何か(故障とか修理とか検査とか)あるたびに、彼的生き地獄。世の男性諸君にとっては天国直行ということだ。

 

「否、無理だからっ! てゆーか無理ですっ! 勘弁してくださいっ!」

 

 顔を青ざめさせたまま、小刻みに首を横に振る。よくよく見てみれば、すでに泣きが入りかけている。

 

「もぅ、仕方ないわね~。(ちょ~っとからかいすぎちゃったかしら?)セインちゃん、とりあえずタオルで隠しておきなさいな。修理箇所は腕なんだし、ね?」

 

 あまりのシロウの反応に、クアットロも溜息混じりにからかうのをやめにする。

 

「ま、仕方ねーな。このまんまじゃいつまでたっても終わらないし」

 

 セインも肩を竦めてシロウから離れると、タオルを取りに行った。

 暫くして、バスタオルを体に巻きつけたセインが戻ってきた。

 

「ほれ。これでいーだろ?」

 

 見せ付けるようにまたも仁王立ち。

 

「うぅ。あんま良くない。けど、さっきよりはマシだ」

 

 呻くシロウに、クアットロもセインも肩を竦める。

 

「まったく贅沢ね~」

「どこがだッ! 正しく拷問だろ、これはっ!」

「うん? ゴーモン? するとなにか? あたしの裸は、見るに耐えかねるシロモノだと?」

 

 再び吹き荒れるブリザード。

 タオルを巻きつけたセインが、シロウににじり寄る。

 

「そそそそ、そーじゃなくてっ! 精神的苦痛というか! あ、いや! 悪い意味じゃなくてっ! 我慢というか忍耐というかっ!?」

 

 慌ててセインから離れつつ、何度も首を振って否定するが、言えば言うほど悪化しつつある。

 ところがそこで、セインの歩みがぴたりと止まる。

 立ち止まり首をかしげて何事か考え込む。

 

「つまり何か? あたしとヤりたいのか? 別にいーぞ?」

 

 とんでもないことを言い始めた。

 ぴしりとシロウが凍りつく。

 きっかり十秒沈黙。

 やっとセインの言葉を完全に理解したらしいシロウは、力の限り叫んだ。

 

「いいわけあるかぁぁぁっ!」

「なんでさ。一応あたしらにもそーゆー機能はついてるぞ? 使ったことはないけどな」

 

 首をかしげて何でもないことのように言うセイン。

 

「使わなくていいからっ! いや、そーじゃなくて! 俺相手に使わなくていいからっ!」

 

 力の限り否定する。

 

「我慢するのは体に良くないぞ?」

 

 それを別の方向にとったらしい。

 シロウが何故怒っているのか理解できないようだ。

 

 仕方がないといえばそうかもしれない。

 そういった情操教育というか、貞操観念というか、まさかスカリエッティが教えるわけもない。

 結果彼女たちは、自身にそういう機能がついている程度にしか捕らえていないのだ。

 

「そーゆー問題じゃねぇぇぇぇっ! そもそも俺たち姉弟っ! 貞操観念云々以前に、倫理的にダメだろッ!?」

 

 訴えるシロウに、だがクアットロとセインは首をかしげて顔を見合わせる。

 

「私たちに倫理観求められてもね~? そもそも倫理ってヒトが守るべきものでしょ? 私たちはヒトじゃないもの、関係ないわよね~?」

「なー?」

「だからそーじゃなくてっ! つーか確かに多少人から外れた存在かもしれないけど、セイン姉はセイン姉、クア姉はクア姉だろ! ヒトかそうじゃないかの定義なんてこの際知るかっ! そもそもヒトかヒトじゃないかなんてどうやって決めるのさ! 生まれる前に遺伝子いじくられたらヒトじゃないのか? 機械の体だったらヒトじゃないのか? そんなの多少普通のヒトと生まれ方が違った程度の差だろ!? 他の奴らがどう思おうが知ったことかっ!」

 

 白熱するあまり、いつのまにか倫理観云々の話がヒトの定義に摩り替わっていた。

 

 そもそも、両者の意見は根本から認識が異なっている。

 シロウにとっては、クアットロもセインも他の姉たちも、一度死んで蘇ったゼストも、皆ヒトだと思っている。

 しかし、彼女たちは違う。

 造られた存在である自分たちは、ヒトとは違うと思っている。ヒトではないと思っている。

 今までこういったことが話に上ることはなかったために、認識の相違に気づかなかった。

 肩で息を吐くシロウに、二人は黙り込んでしまう。

 

「じゃあシロウちゃんの考えるヒトの定義ってなに?」

 

 徐にクアットロが問いかけた。

 

 常に人をからかって遊ぶような、おちゃらけた笑顔ではなく、めったに見せることのない至極真面目な表情で。

 その様子に、シロウも落ちついたようで、暫し考え込む。

 

「ん? うーん。『理性があって、心がある』こと、かなぁ」

 

 感情のままに行動だけするなら本能しかない獣と同じ。

 命令をただ遂行するだけなら心がない機械と同じ。

 故に、本能はあっても理性でそれを押さえ、命令を遂行するだけでなく考えることが出来るなら、それはもうヒトといってもいいのではないかとシロウは思う。

 生まれ方が多少普通と違っても。体が機械だろうと。造られた命であっても。

 

「……ぷっ。あはははははははははっ」

 

 突然腹を抱えて笑い出したクアットロに、シロウはぽかんと口を開けてしまった。

 

「ちょ、何だよ」

「くっ、ふふっ。そ、その定義で行くと、デバイスなんかの管制AIもヒトになっちゃうわよ?」

 

 彼らも理性を持ち心を持つものだ。

 確かにヒトに近い存在ではある。

 ただあくまでも近い存在というだけだ。

 シロウ的ヒトの定義はもう一つある。

 

「それから!」

 

 笑っているクアットロに聞かせるように、声を張る。

 笑い声が止まったのを見て、シロウは一つ息を吐く。

 そして、二人を交互に見比べて言った。

 

「『たとえ一人でもヒトだと言う誰かがいる』こと」

 

 何人、何百人、何万人が『ヒトではない』と『化け物』と罵ろうとも、たった一人でも『ヒトだ』と言う人がいるのなら。

 見かけがどうだろうと。生まれ方がどうだろうと。

 その人にとっては『ヒト』なのだ、と。

 

「「――っ」」

 

 二人して息を詰める。

 眼を見開いて、まじまじとシロウを見つめた。

 

「だからっ! 俺的にセイン姉もクア姉もヒトなの! だから倫理も関係あるんだってばっ!」

 

 視線に耐えられなくなったのか、そっぽを向いて、けれど言い切った。

 どこか言い訳めいていたけれど。

 それでも力強く。

 

 そして僅かな沈黙。

 

「くっ。くくくくっ。そーか。あたしたちも『ヒト』か。ぷっ」

「ふふふっ。そうね。シロウちゃんがそう言うなら、私たちも『ヒト』なのかもしれないわね? ふふっ」

 

 暫し後。二人は笑い始めた。

 さっきまでのからかい混じりのそれではなく。

 楽しそうに、嬉しそうに、どこか晴れ晴れと。

 

「だぁぁぁっ! そんなことはどうでもいいっ! ほらっ! セイン姉の修理、やるんだろっ!?」

 

 真面目に語ったのが恥ずかしくなったのか、照れたように顔を赤らめて、シロウが怒鳴る。

 それを見て二人は顔を見合わせ、再び笑った。

 

「そうね。はじめましょうか」

「だな」

 




ヒトの定義って難しいと思います。

なのはの世界観だと特に、普通じゃない生まれ方をしている人たちも結構いるわけで、余計に。
Fate世界でもイリヤとかいますしね。
個人的にはこれプラス「自分はヒトであると認識していること」が加わればいいと思います。
まぁ今回の場合は入りませんでしたが。

士郎的に、覚えていないけどイリヤのことがどこかに残ってて、自分の姉として放っておけなかったといったところですね。


うだうだ書きましたが、所詮は個人的なものなので、納得できない方もいるかと思います。
ただあくまでも私の考えは、という話ですので、賛否両論あるかと思いますがそのあたりはスルーしていただければと思います。
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