ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
一晩を寺で明かすというのは中々に貴重な体験と言えよう。けれど、その中で行われていたのは念仏を唱えることや写経ではなく、ひたすらに作曲という作業だった。
私はと言えば作曲そのものには参加はせず、みんなが紡いだメロディーをスマホのアプリに譜面を入力し、音出ししてみるといった作業を手伝った。スクールアイドルではない、Aqoursのメンバーではない私が手伝えるのはここまでであると線引きしているのだ。
その甲斐もあってか、夜が明ける頃にはどうにか一曲仕上がった。
途中、眠りそうになったルビィちゃんのほっぺたを弄り倒した鞠莉さんがダイヤさんに叱られたり、唐突に黒魔術を執り行なおうとした善子ちゃんが花丸ちゃんから般若心経を耳元でリピートそれたり、地味に意外なことにお化けが怖いらしい果南さんが一人でトイレに行けなかったりと色んな出来事がありながらもなんとかだ。というか、脇道に逸れることが無ければ仮眠くらいは取れたかもしれない。
ともかく、みんなの心のメロディーが調和して作られたそれは新しいAqoursの始まりをラブライブという大会に告げるだろう。それくらい今までのAqoursのイメージとは違う仕上がりとなった。
「どうにか仕上がりましたね。このデータは学校のパソコンに入れておきますね」
「I'm tired」
「でも、全然眠くならないんだよね」
「果南さんは体力お化けだからです」
荷物を纏め、見守っていた仏様にみんなでお辞儀をする。来た時にはなんとも思わなかったけど、仏様の顔が何となく微笑んでいるように感じられた。これも物の捉え方一つということなのだろう。
外に出るとさっきまでの雨が嘘のように晴れ渡った青い空が目に飛び込んできた。
「眩しっ!?」
「う、浄化されるぅう」
「霹靂からの晴天ずら」
雨降って地固まるとは正に今回のことだろう。
趣味が合わないとあれやこれやと東奔西走したけれど、雨が降ったことで普段は立ち寄らないような環境に身を寄せ、そしてお互いを知ることができた。
みんなはとても良く纏まったと傍から見てそう思えるのは、今まで学年毎に固まっていた立ち位置がばらけたことだ。良い意味でお互いに壁が取り払われたのだろう。
私達は晴れ渡った空から祝福されたような気持ちで千歌先輩の家へと足を運ぶ。
千歌先輩ら二年生組も千歌先輩の家で一晩明かしたらしい。
ラブライブ予備予選、そして学校説明会で披露する二つの楽曲が完成したことは凄い。もちろん、学校説明会で披露する予定となっている二年生組の曲“君のこころは輝いているかい?”はタイトルと方向性は決まっていたため、完全に一から作り始めた訳では無いけれど、それでも一晩で形になったのだから音楽とは分からないものだ。出来るときはすんなり出来上がるし、出来ないときはとことん出来ない。そして今、私はとことん出来ない方にいる。
ラブライブ予選の翌日に内浦に姿を現した穹は私に課題を出したのだ。
言いたいことは曲にして伝えに来いと。穹はそれを私に告げるためだけに遠路遙々埼玉からここまてま来たのだ。
その課題はある意味、私達らしいと思う反面、いざ作ろうと思うと全然頭に浮かばず、今日に至っているのだ。
本当は沢山話したいことがある。謝りたいことやこれからのことだって沢山、沢山話したいのだ。
だが穹は私との対話を望んでいない。決して拒まれた訳では無いだろう。けれど、対話という形を選ばなかった。
音楽は時に言葉以上に気持ちを、想いを震わせるのだ。
「結局付き合わせちゃったね。星ちゃんも曲作りしているのに」
「そんな気にしないで。多分、私のは悩み続けないと出てこないタイプなんだと思うから」
穹に話したい事の中にはここでの出来事、Aqoursのみんなのことも含まれている。だから私はみんなのこともまた曲の一部にしたいのだ。言うなればみんなと一緒にいることもまた作曲活動の一環だ。
「あ、千歌ったらまたあんな所に」
千歌先輩の家まで辿り着くと、呼び鈴を鳴らすまでも無く、千歌先輩を見付けた。
どうやって昇ったのやら屋根の上に腰を下ろし、昇る朝日を眺めながら階下の梨子先輩や曜先輩と話していた。
「おーい、千歌ー」
「みんな!曲出来たんだね」
「ばっちり」
みんなで意見を出し合って、描き上げた譜面、歌詞、そして衣装案を纏めたノートを千歌先輩に見せつけ、みんな得意そうな顔をしていた。
一つの壁を乗り越えた今、後はひたすら下準備と練習あるのみだ。だけど、今日の所はゆっくりしたい。千歌先輩達に作曲完了を知らせると、急に眠気が襲ってきた。
けれど、それも束の間のことだった。眠気など一気に吹き飛ばすニュースが舞い降りたのだから。
「一週間延期!?それ本気!?」
唐突に着信を知らせるスマホに鞠莉さんが応答するとOh my Godとネイティブな発音から話が始まった。正直その時点で悪い知らせだろうと想像が付いた。
「鞠莉ちゃん?」
「何だったの?」
「学校説明会か一週間延期になった。今日の雨の影響で道路が復旧するのに時間が掛かるところもあるからって」
ああ、と私はこの伊豆半島の道路事情を思い出した。
伊豆半島は海辺が山になっているところが多く、降水量が100mmとかを超えると通行止めになってしまうのだ。しかも、その山道が国道で、他に回り道をしようにも迂回路もまた山道という八方塞がりになる交通事情となっている。
車がないと移動が困難なのに、車を通らせるのもまた困難なのだ。
学校説明会が中止ではなく延期となったのは不幸中の幸いとも一瞬思ったけれど、よくよく考えるとそれは学校説明会とラブライブ予備予選がバッティングすることを意味していた。
みんなにそれを説明されて初めてそれに気付いた千歌先輩は驚きのあまり屋根から落下した程だ。
これはまた一波乱ある。皮肉にも落ち着きを取り戻した青空を睨め付け、私はどうなるか予想出来ない先行きに不安に思った。