ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
運に見放された、と言えばどうしても思い浮かぶのが津島善子ちゃんだ。
彼女の尋常でない運の無さは一日一緒に行動していれば必ずその場面に出くわす程だ。
ヒールを履けば、ヒールが側溝の隙間に挟まり、日傘を差す時に限って強風が吹き、トイレに入れば紙が無く、信号を急いで渡ろうとすると直前で赤に変わり、フラッシュを焚いて写真を撮れば目を瞑ってしまう。そんなありふれたところから徹底して運が悪い。
だからこそ、今回のこの事態をどう思っているのかを聴きたかった。
「大したことだけど、致命的じゃないわよこんなの」
「予備予選と学校説明会の両方には出られないのに?」
「そうと決まった訳じゃ無い。それに、今回の事でどちらかが駄目になると決まった訳じゃ無い」
学校説明会の今日の分の下準備が終わった後、私は善子ちゃんに電話を掛けた。
善子ちゃんは流石というか、自分の身に降り掛かった不運への対処も良く心得ている。
不運をただ嘆くのではなく、現実的に今後どうするのか?何が出来て、何が出来ないのか見極めようとしている。
そんな善子ちゃんがまだ両方に出る可能性を捨てていないあたり、私はまだ見逃している方法があるのかもしれない。
「みんなはどう?」
「気落ちしてるけど、多分すぐに立ち直る。だから私がしっかりしてないとね。みんなが立ち直ったときにすぐに行動できるようにしないと」
「何をしているの?」
「学校説明会でやるライブのセットリスト。持ち時間毎にパターン分けしているところ。あと、人数毎に担当するパートのパターン分け」
「どう転んでも良いように?」
「そう。残念だけど、私には両方に全員が参加する方法が思い付かなかったから、それはみんなに任せるわ」
普段は堕天使ヨハネを名乗り、厨二とも取れる発言で周囲を困惑させるけれど、これでいて善子ちゃんは結構常識人なのだ。
それは理不尽な不運に見舞われ続けたからこそ、その埒外のことに対抗するかのように培われたものなのかもしれない。
私は善子ちゃんのそんなところを凄いと思う。
去年の私は親の昇進という幸運により、その分の不運が私に回ってきた様に感じていた。それに対して行った事と言えば現実逃避と反抗だ。決してその全てが無意味であったとは言わないけれど、幻想の未来に縋っていただけであった。善子ちゃんの様に可否の判断が出来ていたとは言えない。今だから言える。きっとどんな手段を使っても私が埼玉から引っ越すことを覆すことは出来なかっただろう。それを認めていたら、きっと穹との接し方も違っただろう。
「学校の準備の方はどう?」
「今日ステージの材料が来たから試し組みしてみたんだけど、良い感じだったよ。デザインについては美術部と微調整出来たし、順調と言える」
「流石ね」
「うん。学校の皆凄く頑張っていて・・・そう、輝いているって、こういうことなんじゃないかって、ふとそう思う時がある」
学校説明会を成功させて生徒を呼び込む。それを本気で信じて、今自分に出来ることは何かを必死に考えて、出来る最大限のことに全力を尽くす。そんな生徒が沢山居る浦女が凄く素敵で、去年の私がそれを見ていたらきっと沼津に越してくることに前向きになれたんじゃないかと思う程だ。
「そっか。皆も本気で、私達も本気なんだ」
「本気をぶつけ合って」
「手に入れよう、未来を」
そのフレーズは既に発表済みのためラブライブでは披露することの叶わない楽曲“未来の僕らは知ってるよ”だ。
この曲は非常に力強い。ただ望むのではなく、それを自分達の気持ちで掴み取ろうと手を伸ばす、意志力を前向きに揺さぶる渾身の曲だ。
どちらともなく飛び出したそのフレーズに私達は笑い合った。
やはり、同じ音楽を共有するのは、そして同じ音楽で同じ気持ちを抱けるのはとても楽しい。
「この気持ちを少しお裾分けしなくちゃね」
「うん。じゃあまた。電話長くなっちゃってごめんね」
「電話代はそっち持ちだしダイジョウブ」
げ、と思って私は画面に表示される通話時間を見てがっくしと肩の力を落として通話を切った。
さて、と私は懐が寒くなる気持ちに蓋をしてAqoursの別メンバーに電話しようとして、ふと外から聞き慣れた声を耳にした。
学校の屋上から声の聞こえたミカン畑の方を見ると、よく知る三人の二年生、千歌、曜、梨子先輩だった。
何を話しているのか分からないけれど、やたらと千歌先輩が元気に跳ね回り、ミカンを連呼しているのだけは分かった。
確かにミカン畑にはミカンが沢山生っており、ミカンの収穫の季節が来たことを告げていた。
流石はオープニングMCのコーレスが“カンカンミカン”なだけある。どんだけあの人はミカンが好きなのだろうか。
まぁ、あの様子を見ると私が電話を掛けて励ますまでも無いだろう。
私は苦笑いしながらも、自分で元気を取り戻せる千歌先輩を頼もしく思い、彼女達に合流すべく私は屋上を後にした。
まさかこの時に千歌先輩が妙手を思い付いているとは思いもよらなかった。