ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百七話

 余所で発注を掛けると特殊衣装はかなり値が張る。その上、想定したデザインに微細な差異が生じてしまう。そのため、スクールアイドル活動するにあたり、衣装のクオリティについてはダンスや歌以上に差が付きやすい。

 衣装を作る洋裁技能を持ち合わせているスクールアイドルを抱えているグループの衣装は本当に素材の活かし方が上手いのだ。

 Aqoursがどうかと言うと、素晴らしい衣装担当が二人居るため、衣装のクオリティは全国的にもかなり上位に食い込むだろう。

 制服系の衣装が好きな曜先輩、そしてカラフルな衣装が好きなルビィちゃん、このツートップがAqoursを支えている。

 けれど、九人分ともなると二人で用意するのは時間的にも負担が大きいため、下拵えくらいであれば私も手伝ったりする。

 今回は特に九人分の衣装を二着だ。それも一方は学校説明会のための、学校の顔としての衣装という意味合いもある。なら手伝うことに何の躊躇いも無い。

 

「裁断終わりました」

 

「ありがとう。そっちの金具は取り付けたからハンガー掛けて貰っていい?」

 

「アイサー」

 

 細かい手作業はテクニックに左右されるため手伝えないけれど、サイズを測って下地となる布の裁断だとか仕付け縫いならばできる。

 地味ではあるけれど、そんな細かい下拵えでも手伝えばかなり時短となる。

 

「ルビィちゃん、髪飾りの仕分けはしたからね」

 

「うゆ」

 

 衣装についても分担は当初の予定通り、ラブライブ予備予選の分はルビィちゃん、学校説明会の分は曜先輩だ。

 曜先輩は何時も通りリラックスして作業し、ルビィちゃんは没頭して作業している。

 二人は同じ衣装担当でありながら、その作業スタンスは異なる。

 曜先輩はある意味でどんな物事にも高い数値でのフラットライン。常に楽しんで取り組むからだ。対してルビィちゃんは好きな物事には全霊で取り組む、職人気質なのだ。

 

「没頭してるね、ルビィちゃん」

 

「今回は特別だからね」

 

「それにしても、本当に九人分でいいんですか?」

 

「九人でAqoursでしょ」

 

 予備予選と学校説明会、どちらも出るというのは物理的な制約から限りなく難しい。そのため、最小限の数の衣装を準備して、パフォーマンスの練習に時間を費やすという手もあるのだ。

 

「本当に上手く行くと思います?あのきまぐれオレンジロード作戦」

 

「その作戦名言ったら多分千歌ちゃん、オレンジロードじゃなくてみかんロードだよって直すと思うよ。というか、その作戦名言ってるの星ちゃんだけだよね」

 

 けれど、曜先輩が言うように、九人でなければAqoursではないのだ。だからどちらにも全員で参加しようと千歌先輩は妙案を出し、今日はその実証をしている。

 

「なんで千歌先輩って自分のイメージカラーをみかん色って言うんでしょうね」

 

 曜先輩の言葉を聴き、ふと思った疑問を口にする。

 スクールアイドルは往々にして自分のパーソナルカラーを決めている。それはライトにスクールアイドルが好きな人にも印象で覚えて貰いやすいようにする配慮であるとともに、好きなメンバーカラーのサイリウムで応援できるようになど、活動を支えるメリットが多いことから始まっていると思われる。

 けれど、思えば千歌先輩はさり気なく自分のイメージカラーをみかん色と称し、オレンジ色と言われると頑なに訂正する。

 

「たぶん、オレンジ色は千歌ちゃんの色じゃないんだよ」

 

「どういうことです?」

 

「何て言うのかな、背番号3番は永久欠番みたいな?千歌ちゃんにとってはオレンジ色ってそういう存在なんじゃないかな」

 

 ならばオレンジ色は千歌先輩にとって誰の色なのか?それの筆頭となるのは言わずもがなμ’sの高坂穗乃果さんだろう。

 千歌先輩がスクールアイドルに夢中になった切っ掛け、始まりのグループ、そのリーダーの色。特別でない筈がない。

 μ’sのライブ映像を見ると、“Snow halation”で落ちサビの入りのソロパートでオーディエンスが一斉にブレードを色替えするのが圧巻だ。会場が心を一つにしたその景色は映像で見てすら鳥肌ものだ。

 曲のイメージを反映した白からオレンジ色に変わり、会場を染める様は穗乃果さんの圧倒的なカリスマ性を表しているとも取れる。

 多くの後続のスクールアイドルが憧れ、自らのイメージカラーをオレンジ色にしたことだろう。実際、一時期の上位のスクールアイドルグループのリーダーのイメージカラーがオレンジ一色になったこともあるほどだ。

 憧れから自分もまたそうなろうと特徴を真似るのはままあることだ。形から入るというやつだ。

 

「ただ追い掛けるのではなく、自分達の道を歩く。その結論は千歌ちゃんの中では無意識の内に最初からあったんじゃないかな」

 

「だからみかん色」

 

 スクールアイドルAqoursとして自立した存在であると示すかのようで、それは千歌先輩の本気度の表れなのだろう。

 思えばμ’sに憧れたというだけあり、一番最初に作られた衣装はμ’sの一番最初に発表された曲の衣装をモチーフにしたような出来だった。しかし、それ以降の衣装はμ’sのイメージとは離れたデザインになっている。

 μ’sの衣装は多々あるけれど、グループのジャケットイメージの衣装は赤色と白色を基調とした衣装だ。

 Aqoursはと言えば、ジャケットイメージの衣装は青系統のカラーリングだ。そして今、そんな青系統の衣装が新たに誕生しようとしている。

 

「この衣装、Aqoursらしいですよね」

 

「あはっ、やっぱり」

 

 そんな風にハニカム曜先輩は、きっとこの衣装を身に纏ってステージの上で縦横無尽に素敵なパフォーマンスをしてくれるのだろうと、私は生地の下準備をしながら期待に胸を膨らませた。

 

 

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