ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百十話

 昼食抜きで作業を進めた甲斐もあり、体育館はどうにかライブビューイングを開催できる状態に出来た。

 流石にこの季節に各窓の暗幕を下ろすことは自殺行為だ。空気が循環しなくなった瞬間に体育館は蒸し器に変わり、私達はたちまちシュウマイに変わるだろう。

 そのため可能な限りステージの奥にスクリーンを配置し、直接太陽光が差し込む窓のみ暗幕を下ろし、スクリーン周辺の暗さを最低限確保することに成功した。

 私は放送担当に連絡して会場の準備完了であることを伝えた。今頃は受験生や保護者の方々は家庭科室で在校生や教職員と会話をしながら豚汁を啜っている頃だろう。

 私も空腹感を感じるが後回しだ。寧ろこの茹だる様な暑さの時は空腹ぐらいの方が体温が上がらないため丁度いい。

 今のうちに映像の角度調整と音響テストの最終チェックを行う。

 そのチェックの間にも各校のスクールアイドルがパフォーマンスを披露するけれど、そこはやはり予備予選。実力差にかなりばらつきがある。

 審査に引っ掛からないが明らかに過去の人気グループを意識した作りの楽曲だったり、衣装を作る技術がなかったのか学校の制服だったり、ダンスが単純なツーステップを刻むだけだったり、息切れで歌えなくなったりと散々なチームもある。もっとも、このラブライブ予備予選は他校のグループと自分達を比較することで自分達の課題を見付けられる成長の場でもあるため、それは悪いことではない。今ばかりはそれに安心させて貰うしかないのも事実だ。

 

「さてさてー、ここからラブライブ予備予選も後半戦だぁああ!24番手には前回予備予選を通過し惜しくも地区大会で敗れたAqoursも居るから益々目が離せないぞー!」

 

 やけにテンションの高いメガネの司会の方が会場を煽る。もう半分が終わり、Aqoursの出番がどんどん近くなる。

 けれど、今だみんなからは合流の連絡はない。

 計算上は問題ない。けれど、参加するスクールアイドルが持ち時間一杯使うとは限らず、早く次の出番になる場合もある。そのため、想定より回転が速く、それが私を焦らせる。

 

「これから、体育館でラブライブ予備予選のライブビューイングを行います。昼食を食べた方は休憩がてらどうぞ足をお運び下さい。繰り返します・・・」

 

 私からの連絡を受け、校内にライブビューイングの案内放送が流れる。

 本当なら観覧希望者にブレードを渡したい所だが流石にそこまで手は回らない。

 ガイシホールで行われたラブライブ予選の際に用意したブレードは全校生徒各個人に配布後は個人所有になったため在庫はないのだ。

 

「お疲れ様。よく間に合ったね」

 

「やれば案外出来るものみたいです。豚汁の方は?」

 

「大好評。星ちゃんの分も取ってあるから後で食べてね」

 

「ありがとうございます。実は結構豚汁を楽しみにしてたりしてmy七味持ってきたんですよ」

 

「こだわりだねぇ」

 

 なんて家庭科室から体育館までお客様を案内した先輩と駄弁りながら徐々に受験生やその父兄の方々が体育館の席を埋めていく様を眺める。

 そして、そうしている間にもトントンとテンポ良く、いや、良すぎる位に各校のスクールアイドルのパフォーマンスは進んでいく。

 

「順当に行けばAqoursがパフォーマンスで劣っているとは思えないけど・・・」

 

「次もう順番来ちゃうけど、みんな合流出来てるのかな?」

 

 楽しそうに各スクールアイドルの活躍に胸を弾ませている受験生達とは裏腹に私達在校生は内心で冷や汗を掻いていた。

 流石に無事に合流出来ていたならば私達に連絡の1つもあるだろうが、それがないのだ。だとすると間に合っていないとしか思えない。

 そして、その嫌な想像は現実の物として姿を現す。

 

「あれ?」

 

「五人、だけ・・・?」

 

 遂にやって来たAqoursの番。ステージに現れた彼女達の中に、ここを出発したメンバーの姿はなかったのだ。一瞬嫌な予感が的中したと思った。

 けれどーーーーー

 

「いや、たぶん大丈夫だと思う」

 

 私は直感的にそれを悟った。

 何故ならば、フルメンバーではない筈の彼女達に全くと言って良いほど不安そうな素振りが無いからだ。

 更に言えば、今身に纏っている赤いロングポンチョをドレス風にアレンジした衣装が、みんなが予備予選に向けて作った、和ロックを意識したパッション溢れる和装とは違うものだったからだ。

 どんなやりとりがあったにせよ、連携した結果こうすると方向性が決まったからこその今があるのだ。心配など無用だろう。

 ステージに上がった五人の中から梨子先輩だけが少し歩みを進め、舞台袖に用意されたピアノの前に腰を下ろすと、幕を上げよと命じるかのように鍵盤を叩いた。

 

「これはーーーーー」

 

 やられた。

 始まったジャズテイストのそれに私は脱帽すると共に、リズムに合わせて手を叩いた。

 陽気で誘うようなその楽曲はパーティー用に三年生が作っていた未発表の楽曲“G線上のシンデレラ”だ。まさかこの土壇場で、この日のために作った最新曲を出さないという選択肢を取るとは思ってもみなかったけれど、この曲ならば他の曲では出来ないことができるのだ。

 もちろん、生演奏というのも凄くお洒落だ。それだけでも相当にインパクトがある。けれど、この曲の真骨頂はもっと先

 

「Shall we dance?」

 

 躍りませんか、との問い掛けに会場全体でもちりんと返す。一緒に躍ろうと。

 会場を巻き込むクラップ、そしてコーレス、楽曲が佳境を迎えるに連れ、熱を帯びるパーティーはいよいよその様相を変えるのだ。

 

「Let's dance!step with me」

 

「ーーーーーーー!?」

 

 誘われる声に惹かれて舞台袖から招かれたのは、先には居なかった残りのAqoursメンバー。

 音楽に合わせて舞台上のシンデレラ達のパートナーとなるべくステージに上がってきたのだ。

 その様に現地の会場も、こちらの会場も黄色い歓声に包まれる。

 全員が集まったAqoursのステージはパーティー会場でありながらミュージカルの一舞台でもあるようで、華やかな楽曲と鮮やかな赤いゆったりとした衣装はエンターテイメント性をそのまま表現していた。

 よくよく見ればその衣装には見覚えがある。

 

「あーーーー」

 

 この体育館に設置してあった暗幕だ。あの暗幕は裏地が鮮やかな赤色であったため、即席で改造して衣装にしたてたのだろう。生地自体が大きいため頭からスッポリと被るタイプの衣装にするのはそれ程時間は掛からない。最悪縫わなくても安全ピンと紐さえ在ればなんとかなる。

 やはり時間ギリギリの戦いだったのだろう。恐らくは後発の四人の着替える時間を確保するための措置だったのだろう。

 けれど、ステージをパーティー会場に変えた彼女達はそんな即席であるという違和感はない。本当に、心の底からダンスを楽しんでいる。けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。全員が揃ったと思ったらもう曲は後奏になってしまった。

 梨子先輩は最後の一音を弾ききると立ち上がって一礼した。そして、各メンバーと合流すると、赤い衣装を脱ぎ捨てた。

 

「メドレー!?」

 

 会場がざわつく。確かに持ち時間はまだまだある。けれど、ラブライブ出場には未発表の楽曲という制約上、1曲以上披露するグループはほぼ無い。

 けれど、Aqoursは本気だ。赤いドレスの下にタイトな和装を隠していたAqoursはフォーメーションを変える。

 この日のために用意した新曲、ルビィちゃんとダイヤさんのダブルセンターのナンバー。

 

「躍れ、躍れ、熱くなるため ひとは生まれたはずさ」

 

 新らしいAqoursの形、和ロック“MY舞☆TONIGHT” 。それが披露された。

 楽しいパーティーは終わったけれど、躍る心を無くさなければ、いつまでだって人は躍れるのだ。この曲はその残った熱を、突き動かされる衝動を歌った微熱の曲だ。

 如来のような振付とフォーメーションダンスはこれまで以上にズレを許さない精密さが要求されるけれど、それを見事に合わせる。

 これは文句なしにラブライブ予備予選を通過するだろう。私はその確信を持って会場の景色に目を移した。

 誰も彼もが食い入るようにスクリーンを見詰めるその顔が私は大好きだ。強いて言うならばブレードで光の海になっていたら尚更良かった。

 中にはスマホのライトでブレード代わりにする人も居るのには笑ってしまったけれど、みんながAqoursを応援してくれる姿に、私は一言、優勝と呟いた。

 

 

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