ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百十一話

 各部活紹介の間は私も手が空いたためキープして貰っていた豚汁をすすることにしたが、なんとも独特なアレンジをしてあった。

 柚子を入れるのはまだ分かる。けれど、ミカンを入れるのは予想外だった。それを美味しいと感じられるレベルに落とし込んでいるのだから地域性とは侮れない。

 これだけミカンに囲まれた地域で、これだけミカンを美味しく食べて育ったのなら千歌先輩がミカン大好き人間になるのも頷ける。もしかしたらミカンが好きすぎて髪の毛の色もミカン色になったんじゃないかと思うと、口の中に入れた豚汁を吹き出しそうになってしまった。流石にそれは失礼だ。

 けれど、自分の好きな色が自分の特徴と一致するのは羨ましい。

 かく言う私もオレンジ(千歌先輩的にはミカン色)は好きだ。赤程突き抜けた熱さではなく、包み込むような暖かさがある。強さの中に優しさを感じるような、そんな色なのだ。

 かの有名なμ’sの高坂穗乃果さんもイメージカラーにしているし、個人的に好きなアニメ“デジモンアドベンチャー”の主人公の一人、八神太一の勇気の紋章もこの色で輝いている。

 だからなのか私もこの色を特別な色だと感じる。けれど、同時にその色は私の色ではないとも思う。

 私の色とはなんだろうか?

 

「星ちゃん。お疲れ様」

 

「お疲れ様です。そろそろ準備ですか?」

 

「うん。綺麗に変身させなくっちゃね」

 

 準備とは私が勝手に“きまぐれオレンジロード”と称している作戦の準備だ。

 行ってしまえばこの作戦。単なるショートカット作戦なのだが、そのショートカットルートにこそこの名前の由来がある。

 本来は迂回しなければならない山道をミカン畑の貨物用レールを使って突っ切るのだ。

 貨物用レールがどの程度の積載量なのかカタログスペックは分からなかったけれど、人間九人分の容積ミカンを載せても動くらしいので多分大丈夫な筈だ。ミカンも人間も保有する水分量の比率は大差ないだろうから。

 MY舞☆TONIGHTではないけれど、諦めない心が道なき道と思っていた場所に道を見出したのだろう。

 諦めないからこそ、この地域が好きだからこそ、そして皆のことが好きで良く知っているからこそだ。他の誰でも無い、Aqoursだから、千歌先輩だから通れるビクトリーロード。

 

「星ちゃんも行く?」

 

「私は運営側を任されてますから」

 

「分かった。なら、手を引っ張ってでも連れて来なくちゃね」

 

 行ってきまーす、とクラスメートはみんなを迎えに貨物用レールからの導線への配置に向かった。

 ショートカットしたとはいえ道は長い。軽いマラソンだ。だから帰ってきても休む間もなくステージになってしまうため、道中で給水、着替えをして貰わなければならないのだ。そのため、誘導と補助のために人員を割いたのだ。

 学校総掛かりの大イベントになったのものだと思う。

 校庭で行われている部活紹介と、同時進行で進んでいる仮設ステージの調整。休日だというのに部活に所属していないような生徒までいる。というより生徒総出だ。それでいて皆やる気に満ち溢れていて、それを見ているだけで元気が貰える。

 入学した時と人数は変わらないのに活気が増えた。それはきっとAqoursが気付かせてくれたからなんだと思う。皆がいるこの場所が大切な場所であるということに。だから守りたいんだということに。

 私も随分遅くなってしまったけれど、この光景を見て、実感としてそれを得られたのは初めてかもしれない。それに感動すると共に、ちょっと申し訳なかった。皆がとっくに知っていたことを、私は本当の意味では分かっていなかったことに。

 

「ごちそうさまでした」

 

 ミカン豚汁を食べ終え、私は心の底から作ってくれた皆に感謝した。聴く人は誰も居ないけれど、しっかり手を合わせてから食器を片付ける。

 校庭に向かう途中、忙しく動く生徒の姿がチラホラある。名前までは覚えられずとも皆顔を知っているし、少ないながら会話も交わしたこともある。学校の規模は小さいけれど、だからこそこの関係性はとても心地良い。

 下駄箱横にある掲示板に貼り出した今日の学校説明会のお知らせを見ると、皆で方々に足を運んだことを思い出す。今日のために頑張ったこと、色々考えたこと。沢山の人に協力して貰ったこと。それはきっとそう、楽しかった。

 校庭に出ると、小降りながら雨が降っていた。

 

「どうしよう、雨降って来ちゃったよ!?」

 

「ブルーシートがまだ在りますから、ステージを保護しましょう」

 

「いや、でも本降りになったらできないんじゃ・・・」

 

「分の悪い賭けには皆もう乗ってるじゃ無いですか。今更ですよ」

 

 海沿い、山沿いと天候の変わりやすい条件は満たしているけれど、みんなはこっちに向かってきている。みんなが諦めないのなら私達が諦めてしまってはいけない。逆転の物語を綴ろうというのなら自分達で物語の終幕を描いてはいけないのだ。

 幸い、スピーカーは既に保護してくれていたため、私達は急いでブルーシートを広げるとステージを覆い、その下に潜り込んで既に濡れた部分を拭き取った。

 

「全校放送でお知らせをしましょう。ギリギリまでライブをするかどうか見極めるので、結果は再度放送で知らせます、と」

 

 急ぎ放送委員に連絡して全校放送を流して貰う。

 けれど時間が近づくにつれ観覧希望者が徐々に校庭に集まる。小降りとはいえ雨が降っているというのに傘も差さずに。

 それは皆が期待しているのだ。信じて立ち向かえば一見無茶に見えることも実現出来るのだと。

 開始予定まで残り五分。観覧希望者は受験生だけでなく、保護者の方もまた校庭に顔を出していた。

 Aqoursのみんなの姿はまだ見えない。けれど、もう衣装に着替えは済ませたと現場から連絡が来ている。ならば今日は決行だ。

 

「Aqoursのライブを観覧の皆さまにお知らせします」

 

 放送が流れる。けれど、その放送も無用だったかも知れない。観覧希望者はすでにステージの前に揃っている。そして空を見れば虹が掛かっているのだから。

 ステージからブルーシートを外し、スピーカーやスポットライトの電源を入れる。

 一つ一つ、ステージが整うたびに増えるAqoursコール。

 そして、息を切らせながらも彼女達は姿を現した。

 円陣を組むようなフォーメーションからピアノの音と共に始まるのは新曲“君のこころは輝いてるかい?”

 そう問い掛ける彼女達の姿は私達の目に間違いなく輝いて見えた。

 

 

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