ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
私が穹のことを穹と呼ぶようになったことに特別な意味は無い。穹の友人の誰もがそう呼んでいたし、本人もそう呼ばれることに慣れていたから気付いたら私もそう呼んでいた。
善子ちゃん達が上級生の呼び方を変えたことに気が付き、ふと思い返すと私と穹はユニットを組む事になった時には既に星、穹、と呼び捨てにしていた。いや、呼び方で言えば雑な時はとことん雑で、平然とアンタ、テメエ、クソ尼、など散々な呼び方だった気がする。そう考えると浦女の皆は随分と丁寧な喋り方だ。これが地域性というものなのだろうか?
話が逸れたが、そんな雑なやり取りさえ受け入れていたことを考えると、私達の間では呼び方で親密さを確認していた訳ではないのだろう。
「で、何で鞠莉さんと果南さんはにやにやしながらダイヤさんを遠目に見ていたのです?」
「べっつにー」
「ダイヤのポンコツ姿を見るのも久し振りですねーなんて、思ってないでーす」
Aqoursが練習場所としているスタジオのあるビル、プラザヴェルデの屋上でのことだ。
金欠であることはAqours内でも問題になっているらしく、金策に頭を悩ませているとのことだが、どうにもダイヤさんの様子がおかしいらしく、鞠莉さん達は物陰から千歌先輩達と話すダイヤさんを覗いていたのだ。
「ポンコツ?的確にアドバイスしていたみたいですけど」
私が言ったのは千歌先輩達が趣味とか理想丸出しでバイトを決めようとしていたことに釘を刺すダイヤさんの姿のことだ。
「そう。ダイヤはどうあってもちゃんとしてるのよ」
「融通が利かないってことですか?」
「ちょっと違うんだけどね。んー言葉だと伝えにくいんだよね」
「はぁ、それはそれとしてなんでそれを見てるんですか?」
「面白半分」
「期待半分」
なんだがよく分からない。三年生の三人は一時期距離を置いていたにも関わらず、そんなブランクを感じさせないくらい心が通じ合っているため傍から見ていてもその意思疎通がどんな意図なのか読み取りにくいのだ。
「ところでバイト、するんですか?」
「今はアイドルもバイトをする時代なの。スクールアイドルなら尚更」
「なら、私もちょっと仕事したいんですよね。お小遣いがもう底を・・・」
「Oh my God」
みんな揃いも揃って金欠。そんな話をしていると何だか気が滅入ってくる。
そんな寒い懐事情になんだかいたたまれない沈黙が続き、空気を変えようと果南さんが手を叩いて提案した。
「じゃあバラバラにだと練習の予定も合わせにくいし、みんなで一緒のところでバイトしようよ。星も一緒にさ」
「・・・果南さん」
「? なに?」
「ダイヤさんに気付かれましたよ」
物陰からこそこそしていたのは無意味になった。盛大に手を叩いて大きな声を出すものだから、ぎこちなく千歌先輩達と会話をしていたダイヤさんに見つかってしまった。
「果南さん、鞠莉さん、それに星さんまでこんな所でどうしたのです?」
「ダイヤさん達と同じく私達も休憩ですよ」
「またしれっとそんなことを。まぁそういうことにしておきましょう」
「ねぇダイヤ。やっぱ部費として使う訳だし、みんなで同じバイトにしようよ」
部費をバイトして稼ぐなんて響きだけ聴くとブラック部活だと思えるけれど、スポーツなんかでも自分の使う道具は自費で賄っていたりする。スクールアイドルもそれは変わらないという事なのだろう。まあ、部活は趣味的な側面も存在するため、致し方ないのだろう。それに理事長自らが所属するスクールアイドル部にばかり学校のお金を使うわけにもいかないのだろう。
「それならやはり長期より短期ですね」
「なら三津シーが良いかもよ」
「それ楽しそうだね」
ダイヤさんと共に曜先輩と千歌先輩、梨子先輩もまた会話に加わり、具体的な提案が出される。
「曜先輩、それうちっちーに合いたいだけじゃないですよね?」
「曜ちゃんうちっちー大好きだもんね」
「梨子ちゃん、それ内緒の話」
うちっちーとはセイウチをモチーフとした伊豆・三津シーパラダイスのマスコットキャラクターだ。
曜先輩はボーイッシュなファッションが好きなため誤解されがちなのだが、これでいて可愛いものに目がない。
「いやいや、曜先輩。それみんな知ってますって。恋アク事件で公然の事実になってますから」
「うぅっ」
恋アク事件とはAqoursの未公開楽曲“恋になりたいAQUARIUM”のPV撮影の時のできごとのことだ。
撮影にかこつけて曜先輩がうちっちーの着ぐるみを着てしまったのだ。それ自体は許可も貰っていたし、そこまでハメを外していなかったから・・・外していなかった?から問題にはならなかったけれど、渦中にいた私達は大混乱したものだった。
尚、うちっちーの版権の関係で恋アクは撮影したPVが公開できなくなってしまい、未発表となっている。それを利用してカメラの入れないライブなんかでは使ったりしているのだからAqoursもただでは転ばない。
「曜ちゃん家のうちっちークッション。あれは人を駄目にするよ」
「梨子ちゃんあの時は結局そのまま私の部屋に泊まったもんね」
「あ、あれはあのクッションが悪いの!私がだらしないわじゃないんだから」
曜先輩と梨子先輩はいつの間にか凄く親密になっていることに驚いた。というか、その人を駄目にするうちっちークッションが気になるところだが、それについてはまた今度だ。
「じゃあ、みんな明日までに履歴書を書いてください」
「ほぇ?」
「履歴書って?」
「ダ、ダイヤさーん!?」
千歌先輩と曜先輩の叫びにダイヤさんは盛大に溜息を吐いてこう言った。「しかたありませんわね」と。