ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百二十三話

 曲目を決めると後はひたすらに練習だ。

 基礎トレについてはAqoursメンバーに混ぜて貰って行うけれど、流石に演奏やタップダンスの練習までは一緒にできない。

 幸い家は帰宅時間程度でうるさく言われない。そもそも母親は海外で働いているし、父親もまだまだこちらに来てからの仕事に四苦八苦しているらしくいつも帰りは遅い。更に言えば父親とは現在冷戦下にある。文句を言おうものなら再び戦争だ。前回は買い換えが効く父親の私物を引っ越してくるのに乗じて廃品回収して貰ったけれど、今度はそれでは済まさない。

 八つ当たりも多分に含まれるけれど、自分の人生に人を巻き込んだのだからそれくらいは覚悟して貰わなければ困る。

 子供は親を選べないし、親は子供を選べない。親の言いなりになる子供である筈もないし、子供は純粋ではないのだ。純粋だと考えている人は自分が子供の頃を思い出すといい。

 幼稚園児の頃にはサンタの存在に半信半疑だったし、小学生の頃には悪いことと分かりながらもライターで折れた枝や葉っぱに火を付けて楽しんだりした。親が知らないだけで悪いことなど沢山しているのだ。

 なんてくだらない事を考えながら学校と自宅との中間くらいの場所にある船着き場に行くと、持ち込んだジョイント式の木目の床タイルを広げた。

 タップダンスは靴に貼ってある金属板を打ち付けて音を鳴らすため地面に傷が付きやすいのだ。だからやるときはその点に配慮しなければならない。ポータブルのタップボードは良い値段をするため、始めたばかりの頃は大きなベニヤ板をホームセンターで買って持ち運んでいた。けれど、流石に重いし邪魔であるため、最近は持ち運びしやすいこれを買ったのだ。

 このジョイント式の木目タイルならば一部傷んでも買い換えをしやすいし、持ち運びも十分可能であるので非常に重宝している。更に言えば、屋内用の床タイルのため、裏面が元の床を傷付けないクッション材であるのが非常に良い。室内での使用も十分可能なのだ。

 しっかり屈伸、伸脚、アキレス腱、腰の回転、と一つずつ動かし、体を解す。若干だが一番活動していた時期に比べて体が固い。それは追々元に戻すつもりだ。

 どうなるかは分からないけれど、もう一度“ジェミニのアカリ”としての活動を目指すならば、その時が来た際に動けないようでは困る。

 まさかこんな風に思えるようになるとは浦女に入学した当初は考えてもいなかった。

 千歌先輩が、みんなは決して私に強制はしなかった。いつだって私にはするかしないかの選択肢があった。けれど、みんなの活躍を間近で見て、私はしないという選択をすることなどできなかった。気付けばみんなの生き様に支えられている自分がいて、もう一度向き合おうと思えた。そして今、私はまた音楽を人前で披露することを楽しみに思っている。借り物の曲ではあるけれど私の音として見てくれる、聴いてくれる人を楽しませたいと思う。

 準備運動が終わってからはひたすらにタップを踏む。そんなに激しいタップは不要。今回はそういう舞台ではない。原曲を壊さない様に、聴く人がリズムに合わせて自然と体が動いてしまうようなそんなタップを。

 私自身、こんな気持ちで踊るのは本当に久し振りで、気付けば鼻歌交じりにタップを踏んでいた。

 単純にその場に留まって刻むタップ、大きくステップを踏みながら刻むタップ、汗を飛ばしながら私は踊る。心躍るままに。

 

「やるじゃない」

 

 本当に時間の経過を忘れたのは何時以来だろう?空はすでに茜色を越して紫色になっていた。

 曲を踊りきると梨子先輩が拍手し、善子ちゃんが素直じゃない賛辞をくれた。

 

「どうして、ここに?」

 

 肩で息をしながら問い掛けると、善子ちゃんが引いている自転車のかごに見覚えのあるかごが積まれていた。

 

「ライラプスの散歩よ」

 

「ノクターンよ」

 

 梨子先輩の言葉に善子ちゃんは柄悪く「ああん?」とでも言うように視線で火花を散らせる。それに一々突っ込んでいてもどうせ話は平行線だろうから、私は敢えて無視することにした。

 

「散歩なら出さないの?」

 

「梨子が怖がるのよ」

 

「ちゃんと紐を持ってくれるなら良いって言ってるのに、善子ちゃんったら全然付けようとしないんだもん」

 

「ふ、我が眷属にそのような無粋なものは不要。それに同じリトルデーモンである梨子を襲うような粗相はしない。ね、ライラプス」

 

 そう問い掛けると、かごの中から元気に犬からの返事が聞こえる。

 本当に意思疎通が出来ているかのようだ。

 

「それより星ちゃん、はい」

 

 梨子先輩はどこぞのマネージャーよろしくタオルと水を差しだした。

 私は人目も気にせずにペットボトルをラッパ飲みして一気に飲み干した。

 

「ぅあー、リビングデッド」

 

「普通に生き返るって言えばいいじゃない」

 

 梨子先輩の突っ込みを聴きつつタオルでガシガシと汗を拭く。周りに慣れ親しんだ人しか居ないとなると所詮女子なんてこんなものだ。

 

「折角だし1曲聴かせて欲しいかも。ね、ライラプス」

 

「リクエストは?」

 

「シェフのお任せで。ね、ノクターン」

 

 また始まった、と苦笑いしながら自分の中の楽曲リストをスクロールし、ハーモニカを取り出す。

 海沿い、そしてなったばかりだが夜空。それらから連想されたのはーーーー

 

「西沢幸奏で、帰還」

 

 この楽曲はアニメ“艦これ”の劇場版のタイアップ曲で有名だ。

 微睡むように始まる曲は音が連なる毎に力を増し、クライマックスの壮大さは本当に艦隊が隊列を組んでいる様を幻視する。歌手自身の力強さも相まって物凄いパワーチューンとなっている。

 当然ながら後半のドラム音を再現するのはタップだ。海をバックに奏でるとその踏み込みにも自然と力が入る。

 オーディエンスの二人と一匹は曲が終わるまで静かに聴き入っていた。

 

 

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