ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
始まりがあれば終わりはある。それは誰だって知っているけれど、決して馴れることはない。
浦の星女学院が終わる。そしてAqoursすらも瓦解する危機にある。それが私には堪えた。
この町を、学校を、皆を好きになれた切っ掛け、そして中心にいたAqoursは私の指針の一つだった。
私の見失ったものを照らしだしてくれた。諦めた心を奮い立たせてくれた。音楽が楽しいと、素直にさせてくれた。
そんなAqoursがこのような形で終わる?それは全く想像もしていなかった。終わりがあるにしても3年生が卒業して自然に活動を縮小させるものとばかり思っていた。
けれど、浦の星女学院が無くなる今、それは仕方の無いことなのかもしれない。Aqoursは浦の星女学院“の”スクールアイドルなのだ。当初の切っ掛けはどうあれ、学校、学校の皆、学校を取り巻く地域の人、そんな支えあってのAqoursで、だからそれらを盛り上げたいと、そうすることで輝きたいと願ったのがAqoursだったからだ。
そんなAqoursが終わるということは、事実上、浦の星女学院は本当の意味で終了することになるだろう。
“スクールアイドルやらない?”
悶々とスッキリしない頭を、感情をどうにか整理しようと真夜中に散歩に繰り出した私はしかし、とうとう頭がスッキリすることも、気持ちが晴れることもなく、気付けば学校に辿り着いていた。
校門を抜けて敷地内に入った私は、今は葉っぱも落ち始めている桜の程近くで、入学式の日に千歌先輩と曜先輩がスクールアイドルの勧誘している姿を幻視した。
もしもその時に戻れたなら私はその誘いにどうしただろう?
「やりません」
私は数秒考えた後、あの日のようにそう口にした。私はスクールアイドルをやりたい訳では無いのだ。
校門を過ぎ、中庭に行きベンチに腰を下ろす。
なら私は何がしたいのか?埼玉を離れ、沼津に来たことに意味を残したくないのか?この学校に来た意味をーーーーー
「あれ?先客が居るなんて」
ぼんやりと校舎の狭間にある小さな空を眺めていると気配を隠すことなく誰かが近づいて声を掛けてきた。
こんな時間に、こんな場所で誰かと会うなんて思ってもみなかった。
この人は見覚えがある。確か3年生の先輩だ。学校説明会の準備の時にやたら料理の手際が良かった事を覚えている。
「こんばんは。どうしたんですかこんな時間に?」
「こんばんは。統廃合するって正式に決まっちゃったからね。まだまだしてないこと、やっておかないとなって」
「例えば?」
「夜の学校に忍び込む、とかね」
悪戯っぽく笑う先輩につられて私も笑ってしまった。
「あれ?ごめんなさい。逢い引き中でしたか」
二人で雑談をしていると程なくしてまた別の生徒が姿を見せた。
確か2年生の先輩で、全校で一番背の高い人だ。身長から勘違いされがちだけど運動は苦手だって言っていたのを覚えている。
「乙女の花園へようこそ」
「何ロマンティックなこと言ってるの」
2年生の先輩は呆れながら中庭の木に背を当てて、頭頂部に本を載せると、その部分の幹の表面を削った。
「いや、何してんのなんて顔しないでよ」
今まで全然注目していなかったから知らなかったけれど、木にはこれまで何度となく身長を測っていたような形跡があった。
「嘘!?こんなに小さかったんですか?」
その形跡の一番下。それはクラスでも真ん中くらいの身長の私よりも10cm程も低い位置にあった。
「ホント、なんで高校に入ってからこんな伸びるのかな?」
聴けばクラスどころか学校でも一番背が低く、背を伸ばしたいと願って入学式の日にこっそりとこの木に記録を付けだしたのが始まりらしい。
しかし、急に身長が伸び出したらしく、最初は嬉々として記録を付けていたらしいのだが、如何せん伸びすぎた。最近は人目が気になり記録を付けていなかったそうだ。
「でも、学校無くなっちゃうでしょ?なら、やっぱり最後の日まで残しておかないとなってね」
この学校に自分が居た証。自分だけの証を刻みに来た。2年生の先輩の言葉を借りるならそれはとてもロマンティックだった。
「あれ?なんでこんなに人がいるの?」
そんな風に一人、二人と、どんどんと何かを求めて浦の星女学院生が中庭に集まった。
夜のテンションというのは恐ろしい。顔は知っているし、幾らか話したことはあるけど、名前を知らない誰か同士なのに、普段話さないようなこと、秘密、好きなこと、嫌いなこと、沢山皆で話した。
ある人は学校に来る坂道が面倒くさいと、今では半分寝てても登校出来ると言って皆で共感して笑った。
ある人は中学ではスクールカーストでも下位にいたらしいけれど、女子にしては人間関係がさっぱりした校風が心地良く今では人付き合いも怖くなくなったと言って皆から喝采を受けていた。
ある人は浪費癖がヒドくて周囲に何もないこの学校に入れられたとかで最初は文句たらたらだったけど、バイトは学校側が認めていることから、バイトをしたこともありお金の使い方を覚えたと言って、皆から奢れと集られていた。
それこそ空が白み、遂には青空が見える頃まで皆と沢山話をした。
皆共通しているのは、この学校でやり残した事を残したくない。そして、この学校に居た証を残したいということだった。
「それって自己満足じゃないんですか?」
「当然でしょ。でも、誰かが知っている浦の星女学院と私しか知らない浦の星女学院。その二つがあるからこそ特別なんじゃない?」
「でも、内面の部分は私達が覚えていても、上っ面の部分は皆覚えていてくれるの?すぐに忘れられちゃうんじゃないの?」
片田舎の中でも辺境の位置にある小さな学校。知る人ぞ知るそこはたった100人にも満たない生徒を最後に、消えるのだ。その存在などすぐに新しい生活に掻き消されるに違いない。関係者ですらそうなるだろうし、無関係な人はすぐに忘れる。というか、知りもしないだろう。
「そうだよ。私達が、私達だけが知っててもしょうがないんだよ」
「学校を守ろうって、盛り上げようって決めたじゃん。最後まで足掻かないと」
千歌先輩の幼馴染みである四五六トリオが声を上げた。
「守ろうって、言っても、どうするのさ」
「残すんだよ。学校を、皆の記憶に」
「どうやって」
「ラブライブで!」
そう言って見上げた屋上からは、いつの間にか声がした。良く知っている声。Aqoursのみんなの声だ。
細かい内容は分からない。けれど、悲痛に彩られたその声音からはもう、Aqoursは活動しなくなる。そんな響きを感じ取れた。
そしてーーーーー
「学校を救いたい。みんなと一緒に頑張ってきたここを・・・」
その言葉だけはハッキリと、私達全員に聞こえた。
私達は顔を見合わせて頷き合うと、姿の見えない屋上のスクールアイドル達に声を掛けた。私達の答えは、もう出ているのだから。
「じゃあ救ってよ」
「ラブライブで優勝して、学校を救ってよ」
「どうやって?学校なくなっちゃうんだよ!できるならそうしたいよ!でも・・・」
屋上から顔を覗かせたAqoursのみんなは学校を救うこと即ち統廃合を阻止することと定義付けているようで、そこから考えが進んでいない。立ち止まっていた。
私はその背中を押すことは出来ない。引っ張ることも出来ない。でも、私“達”ならそれが出来る。
「統廃合を阻止することが学校を救うの?それだけじゃないでしょ!」
「私達沢山話したよ。沢山話して、皆で出たの、答えが!」
「答え・・・?」
「千歌達に、Aqoursにラブライブで優勝して欲しい。優勝して、学校の名前を、記憶を残してきて欲しい」
「学校のーーーーー!」
「先輩達しかそれができる人はいないんです」
「浦の星女学院スクールアイドル、Aqours。その名前をラブライブの歴史に、あの舞台に、永遠に残して欲しい」
「Aqoursと共に、浦の星女学院の名前を」
「だからーーーー」
「「「「「輝いて!」」」」」
それは決して前向きなことだけで出来た結論ではなかった。統廃合という挫折があって、涙して、後ろを振り返って皆からこぼれ落ちてきたもの。後ろを向いたからこそ見付けられた別の道。
「優勝して、学校の名前を」
「ラブライブに!」
夢見た道は閉ざされてしまったけれど、新しい夢はきっと見付けられる。その道もきっと輝いている、そう信じられる。
「千歌ちゃん、やめる?」
そして一度伏せられた千歌先輩の顔は勢いよく再び上げられた。太陽のように猛々しく、野蛮な笑顔を貼り付けて。
「決まってんじゃん!優勝する。ぶっちぎりで優勝する。優勝してこの学校の名前を、一生消えない思い出を作ろう!」
無くしたものはあるけれど、終わりを諦めなければきっと続いていける。そう、Aqoursが私に教えてくれたことだ。それをこうして皆と共に本当の意味で伝えられたこと。それが誇らしい。
私はそうやってこの学校に貰ったものを返そう。そう、皆と決めた。きっと本当の意味で学校の皆と肩を並べられたのは今なんだと、そう実感した。
「「「「「Aqours集合ーーーー番号っ!」」」」
本来は千歌先輩の号令を私達が呼び掛け、私はいつものようにハーモニカを吹いた。
「1」
「2」
「3」
「4」
「5」
「6」
「7」
「8」
「9」
そして、
「「「「10」」」」
「「「「レッツゴーサンシャインーーーー!!」」」」
そして、屋上から駆け下りてきたAqoursと私達は肩を組んで歌う。
曲は“太陽を追いかけろ”、Aqoursの曲だ。とにかく前へと、元気なマーチが特徴の曲だ。
曲に歌われているように変わらない未来はない。それは良い意味でも、悪い意味でもだ。だから希望を持てる。希望を持って行くしかないのだ。
今日はファンミ(アゼ回)
後で雑記でも書きますかね