ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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お知らせ。
10/29に別ページにて短編HAPPY PARTY TRAIN TOUR編をやります。(横浜アリーナ編とは別ページにします。)今回はかなり毛色が違う作風にしました。


第百三十八話

 函館に観光に来るにあたり必ずと言って良いほど話題になるのが函館山から見る夜景だ。百万ドルの夜景と称されるそれは年頃の女の子なら必ず惹かれるだろう。だというのに、何故か今回の観光プランにはそれがない。だから機会があれば絶対に行こうと決めていたのだけれど、まさかこんな形で訪れるとは思わなかった。

 

「どう?私の街は」

 

「なんていうか、手が届きそうですね」

 

 くびれた壺型を街の灯りが綺麗に形取る。眼下に広がるそれはだが、函館山があまり高くない事もあって、その存在が隔絶されたものではなく自分と地続きなものであると、身近に感じられる。

 なるほど。確かにこの輝きの中に自分の場所があると自覚できたならずっと暮らしていきたいと思えるかもしれない。

 

「こんな所に呼び出して。何をしてくれるのです?」

 

 私は聖良さんをここに呼び出した。それは愛の告白でもなければ、別れの挨拶でもない。鞠莉さんならばきっと「ぶっちゃけトーク、する所だよ」なんておちゃらけた様子で言うかもしれない。

 生憎私にはそんな雰囲気を醸し出すことは出来ないし、聖良さんから本音を引き出すほどの話術はない。これが理亞さんなら違ったかもしれないが。

 

「セッションしましょう」

 

 私に出来ることはずっと変わらない。どこの誰とでも、どんな時でもこれしかない。

 私の申し出に、さしもの聖良さんも表情を崩し、目を見開いて驚いていた。

 

「驚きました。でもそんな話もいつだったかしましたね」

 

「告白でもされるかと思いましたか?」

 

「経験上、その可能性も想定はしてました」

 

「告白されたことあったんですか!聖良さん女子校ですよね!?」

 

「さて、どうですかね」

 

 意味深に笑う聖良さんに逆に一杯食わされてしまったが、否定しないということはあながち冗談ではないのかもしれない。女子目線から見ても聖良さんは素敵女子だ。

 

「それで、どんな曲を?」

 

「二人が知ってる曲って限られますから。ですので選曲したのは“Private Wars”」

 

「A-RISEね」

 

 私はマスクと手袋を外してポケットにねじ込むと、逆にハーモニカを取りだして構えた。

 流石に冬真っ盛りの函館の山頂。防寒していても少し屋外で待っているだけで口も手も悴んでしまったため、適当に慣らしで音を奏でると聖良さんの目つきが変わった。

 

「ハーモニカって結構変幻自在なんだね。そこまで小さな音出せるとは思わなかった」

 

「逆にキツいんですよ、大きい音出すより。それでははじめましょうか」

 

「A-RISEで“Private Wars”」

 

 テクノ風味のある楽曲が特徴のA-RISEの曲はハーモニカの単音とタップの4ビートだけでは相性が良いとは言えない。けれど、そこは私達二人の楽曲への理解力がカバーする。

 本来は三人のグループであるけれど、私達はダンスを二人でこなす。幸いA-RISEの振付は魅せを重視しているため、それ程複雑ではない。

 

“本気が苦しい そんな弱音より

涼しい顔して走りたいの

お願いはしない 諦めもしない

華麗にsuper action please”

 

 私はSaint SnowがA-RISEに影響を受けてスクールアイドルを目指したということからイメージが湧いたのは理亞さんよりも聖良さんだった。

 聖良さんは多分普段は自分のことをオブラートに包んでいる。でなければ、あんなに闘争心剥き出しだったり、迷いだったり、承認欲求のある曲を作れないだろう。

 もしかしたら私の勘違いなのかもしれないし、勘違いじゃないとしても何故そうなったのかは分からない。だから私はそのルーツを知りたい。知って、聖良さんがどうしたいのか聴きたい。

 一度は終わりを選んでしまった者として、そして、今改めてそれを撤回したいと考えている者として、Saint Snowの行く末が知りたいのだ。ただ聖なる少女は趣味じゃないであろう、この少女の口から。

 

「ーーーーーーふう、流石は振付も完璧ですね。二人での振付アレンジは理亞さんと?」

 

「そうですね。やっぱりカバーから私達も入りましたから。理亞と完璧にコピーしたものです。星さんも噂に違わぬ奇抜さでした」

 

「それ程でも」

 

 はあ、と白い息を吐き出して持ってきていたホットコーヒーを煽る。寒いこの土地にはやはりマックスコーヒーは最適だ。

 

「機会があれば貴方のパフォーマンスを、ジェミニのアカリとしてのパフォーマンスで見たいですね」

 

「約束は出来ませんが最大限の努力はしますよ」

 

 暖まったむせかえるような糖分を染み渡らせる。そして、聖良さんの言葉もまた私の内側まで響き渡った。いずれ、きっと、そうなりたいと。そうなれたらいいなと。

 

「ーーーーーそれで、私から何が聞きたいんです?」

 

「流石はお見通しですね」

 

 お見通しの聖良さんに苦笑しつつ、なら遠慮無く、と私はズバリ聴いた。

 

「聖良さんって結構カマトトぶってません?私の予想だともっとパンクな気がするんですよ」

 

「その心は?」

 

「だって由緒あるお嬢様学校でしょ。それも函館とは言え片田舎の。スクールアイドルなんてやってる人いなかったでしょ?だから白眼視されたり、内心笑われたりとか、そういう風にされてたんじゃないんですか?」

 

 最初にそう思ったのは、昼間に聖良さん達の店で善子ちゃんが失言した際の反応だ。余りにもぶれなさすぎる聖良さんの様子に、私は一つの仮説を立てた。適切な場面で適切に振る舞うのではなく、常に仮初めの姿を振る舞っているのではないかと。もちろん、だからどうしたという話なのだが。

 

「・・・間違ってないですよ。確かに、私がスクールアイドルやるって言いだしたとき、皆冷めた反応をしましたよ」

 

 懐かしむように聖良さんは語った。別に隠すような内容でも、恥じるような内容でもないのだと。

 

「スクールアイドルをやれるのは高校生のみ。だから理亞が高校生になるまでの2年間、私は一人でスクールアイドル活動をしていました」

 

 もちろん、人数が足りないから部活なんて大層なものではなく、ラブライブにエントリーする際やイベントに出る際に必要な時に学校の名前を借りるような、そんな活動だった。

 

「普段の活動実態もよく分からない同好会以下の活動。クラスメートによく『なんでやってんの?』なんて言われましたよ。それに、ラブライブにエントリーするから学校の名前を使いますって生徒会に申請出した時も先輩から鼻で笑われたりもしました」

 

 誰からも理解されず、ただ理亞さんが入学する時の下地を作るためにずっと頑張り続けた。

 

「もちろんスクールアイドルは今グループが主流の時代。ソロの私なんて予備予選通過がやっとって有様。きっと陰口だって叩かれてたんじゃないのかな」

 

 人は基本的な性質として異種を拒む。価値観の理解出来ない聖良さんなんて恰好の的だっただろう。それも女子の陰口は陰湿だ。表だっては可愛いと褒め称えても、裏ではあの子は自分を可愛いと思っているなんて言っているのが常だ。

 

「でも辛くはありませんでしたよ。寧ろ妥当な評価とさえ思っていました」

 

「酸いも甘いもあってこそスクールアイドルだと?」

 

「そうですね。それを音に乗せてこそスクールアイドルの音楽は素晴らしいのだと、そう思います。それに、完全に自己を律している私の姿を理亞も好ましいと思っているみたいだったし」

 

 だからこそ“SELF CONTROL”だ。

 自分の持つ絶対的価値観、理亞さんの求める自分、それらが噛み合った結果、今の聖良さんが作り上げられたのだ。故にこの楽曲は他人と自分との壁を如実に表しているし、自分達なりのやり方で見返そうという気概に溢れているのだろう。

 

「今年になって理亞と一緒にやり始めて本当に楽しかった。これまでため込んでいたもの、全部吐き出すような毎日だった」

 

 あっという間に北海道のトップスクールアイドルにまで上り詰めたのだからそれはもう、スカッとしただろう。

 

「でも、私は自分のことに夢中で一つ見落としていたんです」

 

「理亞さんのことですか?」

 

「厳密には違いますが、まあそうです。私達は今を追い掛ける余り、終わりのことを考えてなかったんです」

 

 頂きを目指してひた走り続けて、けれど、立ち止まるその時のことを考えていなかった二人は今、完全に今すら見失っている。そんな感じなのだろう。

 

「まさかこんな風に負けるなんてね」

 

「負けなんですか?」

 

「負けは負け。ラブライブだからね」

 

「だから止める?」

 

「分からない。でも、理亞には続けて欲しいな」

 

「理亞さんがそれを望まなくても?」

 

「そんな強要するつもりはありませんよ。でも、そっか・・・いつも当たり前のようにいたから改めて確認してなかったです」

 

 あなたはスクールアイドルが好きなのかと。

 

「ぁーあ、私駄目姉ですね」

 

 展望台の手摺りに力無く寄りかかると、聖良さんは天を仰いでそう漏らした。

 

「・・・星さん」

 

「なんです?」

 

「スクールアイドルのその先ってなんだと思う?」

 

「色々ありますよ」

 

 A-RISEはプロに転向した。μ’sはそうならなかったけれど、詳細は語られていない。その他にも音楽関係の道に進んだり、デザイン関係の道に進んだり、インディーズ活動を続けたりと千差万別だ。

 

「私達にも、Saint Snowにもそれがあるのかな?」

 

「どうでしょうね?寧ろ、私が知りたいですよ」

 

「なんですかそれ。説得しに来たのでは?」

 

「・・・強いて言うなら」

 

 私はここに来る時に、一足先にホテルを出るルビィちゃんの姿を思い出した。

 そのエメラルドグリーンの眼差しは常に無い力強さを秘めていた。

 いつもは弱々しいその小さな背中には覚悟があった。

 馴れない凍結しだした道を歩く足は覚束なかったけれど、迷いはなかった。

 

「ーーーーその答えはきっと、理亞さんが導いてくれるんじゃないかな?」

 

 遠くない未来にきっと、自分の気持ちを胸に姉の元にやってくるであろう彼女、いや彼女達の姿を幻視して、私はそう聖良さんに答えた。

 

「何ですか、それ」

 

 ふ、と笑う聖良さんは相変わらず空に向けて白い息を吐き続けていた。

 私もまたその泣き出しそうな空を見上げる。

 薄く広がる雲はだが、何の気紛れかカーテンを捲るように星空を垣間見させる。

 函館に来てから初めてまともに見られた星空は、少女の心のように深遠で、希望のような小さな光を称えていた。

 

 

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