ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百四十話

 ラッキーピエロでの会合は一端お開きとなり、私達4人は理亞さんに束の間の別れを告げて、急ぎホテルに戻りみんなと合流した。

 今日は当初の予定なら旅行最終日。だから飛行機のキャンセルやみんなへの説明をしなければならないのだ。

 

「残る!?」

 

「理亞ちゃんがまだ元気がないずら」

 

「だから少しでも気が紛れればと思って」

 

 けれど、クリスマスイベントでライブをやるために残るとは言えない。言えばみんなは手伝ってくれるだろうけれど、今回の計画は理亞ちゃんを励ますだけではない。ルビィちゃんを初めとした私達が、私達だけでもやっていけると、頼りになるだけの力があるのだと証明することもまた含まれているのだ。

 

「もう少し布教してから帰るわ」

 

「もう少し、あの二人のその先を見てようと思います」

 

「善子ちゃんはともかく、偶にはそういうのも良いんじゃない」

 

「ヨハネよ!最近扱い雑じゃない!?」

 

 言っていて理由になっているような、なっていないような微妙な言い回しになってしまったと思ったけれど、何かを察したのか千歌先輩が後押ししてくれた。

 

「でも泊まるところはどうするの?」

 

「理亞ちゃんの家にお邪魔しようと思うの」

 

「居心地良かったもんね」

 

「ルビィ。くれぐれも粗相の無いように、ちゃんとするのですよ」

 

「うゆ」

 

 言葉だけ聴くと、落ち着きの無い妹に注意を促しているようにも聞こえるが、信頼を向けたダイヤさんの視線には注意するというよりも、頑張りなさいと、そう激励しているように思えた。

 ダイヤさんも何も知らないだろうけれど、何かしらを感じているのだろう。私達が何かをしようとしていると。

 

「それじゃ、先に」

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

「なんか変な感じだね。函館まで来てこうやって見送られるのって」

 

 ホテルの前で私達は別れ、荷物を片手に喫茶菊泉に向かう。

 

「まさか冬真っ盛りなこの時期に北海道で過ごすことになるなんて」

 

「スクールアイドルやってなかったら今頃善子ちゃんは生配信する毎日ずら」

 

「ズラ丸こそ、お寺でお経でもよんでいたんじゃないの?」

 

「ところがオラは聖歌隊に入ってるからこの時期は歌の練習ずら」

 

「あんた、ホントごった煮よね」

 

 確かに花丸ちゃんは中々謎の多いプロフィールをしている。

 寺の孫娘で、聖歌隊で、文学少女で、食いしん坊。これだけ聴くと人物像がまるで浮かばない。

 

「それを言うなら皆そうずら。春には新しい知り合いとたわいのない嘘に笑って、夏にはお盆休みやお祭り、秋には仮装したり美味しいものを楽しんで、冬にはクリスマスを過ごしたと思ったらお節料理を食べているんだから」

 

 けれど、花丸ちゃんの言うように日本人はそんなものだ。プロフィールで見える人物像なんてたかが知れていて、だからこそ触れあうことで新しい一面を垣間見ることができるのだ。

 入学式のあの日、千歌先輩にスクールアイドル部への勧誘を受けていなかったら、もしかしたら花丸ちゃんと私はただのクラスメイトで、お互い良く知らぬまま過ごしていたかもしれない。

 

「でも、いいの?お寺のお孫さんが嘘ついちゃって」

 

「解釈の違いずら。オラには理亞ちゃんにはまだまだ元気が足りないように見えるずら」

 

「うゆ」

 

 些かファンキーなところがあるのも愛嬌というやつだ。

 ともかく私達は無事にみんなを丸め込むことが出来たのだから。

 

「そうだ、一つ言っておかなくちゃいけないんだけど、曲作りにはーーーーー」

 

「うん。分かってる」

 

「不干渉だって言いたいんでしょ」

 

 それをするのは穹とのケジメがついてからだ。その誓約は今回も変わらない。

 

「その分、きっちり働くよ」

 

 クリスマスまでの短い期間で楽曲を製作するとなるとほぼかかりきりになるだろう。その間、店の手伝いを出来ない理亞さんの穴を埋める必要があり、その役目を果たすのに私という人材が最適なのだ。

 

「ごめんね、星ちゃん」

 

「そういうのは言いっこなしだよ」

 

 私が肩入れしているのは私の個人的な心情からなのだから、ルビィちゃんが気にする事では無いのだ。

 

「さて、着きましたな」

 

 函館国際ホテルを出て、今日既に一度通った海沿いを歩くこと約10分。函館の名所である八幡坂を荷物片手にえっちらおっちら上り、函館西高前を右に曲がると、先日伺ったばかりの喫茶菊泉に到着した。

 

「御免下さーい」

 

「いらっしゃいませ」

 

「いらっしゃい。こっちよ」

 

 暖簾を潜ると、聖良さんと理亞さんが待ち構えていた。

 既に理亞さんが話を付けてくれたのか、聖良さんはニコニコと笑顔で通してくれた。

 理亞さんの後を追って客間を通り抜けて細い廊下を抜けて突き当たりまで移動した。

 

「いい?好きに使って良いけど勝手に物に触ったりしないでよ」

 

「振りですね、分かります」

 

「アンタは部屋に入れないから」

 

「冗談だって。勝手にベッドにダイブしたりしないから」

 

「星ちゃん、そんなことしようとしてたんだ」

 

 理亞さんは一々反応してくれるからついボケ倒したくなるのだが、反面、話が進まなくなってしまう。

 ともかく気を取り直して部屋に入れて貰うとそこは小綺麗に纏まった物の少ない部屋だった。

 

「あまり物を置かない主義なの?」

 

「いい?タンスは開けちゃだめよ」

 

「ははぁ、ワカリマシタ。ゼッタイニアケマセン」

 

「姉様ー。黒松さんだけ沼津帰るってー」

 

「ちょ、理亞さん!?冗談だって。宿無しだけはご勘弁を!」

 

 そんな茶番を見守っていたルビィちゃんだが、ふと、溢れた言葉に私達は一時停止を余儀なくされた。

 

「なんで理亞ちゃんと星ちゃんはお互い“さん”付けなの?」

 

 そう言われると確かに私は“さん”付けしている。けれど、それはほぼ初対面であるし当たり前のような気もする。下の名前なのはお姉さんである聖良さんが居るのだから仕方ないとして、それ程疑問に思われるような事なのだろうか?

 

「それを言うならルビィちゃんも花丸ちゃんも善子ちゃんもみんな最初は“苗字+さん”だったけど?」

 

「いきなり馴れ馴れしくは呼べない。そういう友達学校にも居ないし」

 

「まあ呼びやすい言い方で良いよ。なんとなく気になっただけだから」

 

 私がみんなを“苗字+さん”付けから下の名前で呼ぶようになったのはそれなりに親しくなったと思ってからだ。それに私達の名前は個性的な名前が多く、名前がそのまま愛称になっている。もっとも、善子ちゃんはヨハネをゴリ押ししてくるけれど。

 では穹はどうだったかと言われると、穹はコンビを組む前から穹だったし、クラスの皆もそう呼んでいた。感覚的なものだけれど、明里と読む日本的な呼び方よりも穹というキーワード的な呼び方の方がイメージに合うのだ。それにその響きは実に穹に良く似合っていた。だから皆穹を呼ぶ時、その単純な響きを好んでいた。

 そう思いだし、私は理亞さんを改めて目詰めてみる。そして、どちらで呼ぶ方がイメージに合うか考えるまでも無く答えは出た。

 次に呼ぶときは、さり気なく言ってみようと、そう思った。

 

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