ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
新年最初の更新です。(ついでに雑記も更新しました。)
奇跡の時間はあっという間に終わりを告げた。
やるべき事を終えた私達は翌日には沼津に帰る。だからこの夜が函館で過ごす最後の夜となる。だからやり残すことのないように、最後の夜を過ごさなければならない。
気付けば天気も良くなり、地上だけでなく夜空にも星明かりか輝き出した頃、クリスマスイベントは無事に閉幕した。
私達はみんなで喫茶 菊泉へと戻り、パフォーマンスをしたメンバーは着替えに、穹はカウンター席に待たせて、私はお茶を入れるために厨房に入った。
「Saint Snowはこれでおしまいにするそうです」
お湯を沸かしていると一早く着替え終わった聖良さんが手伝いに厨房に顔を出し私にそう言った。
「でも、スクールアイドルは続けるそうです。Saint Snowに負けない新しいグループを作るって」
「それが理亞ちゃんの答えなんですね。聖良さんはその答えをどう思うんですか?」
聖良さんは私の問い掛けにただ笑顔を見せるだけだった。理亞ちゃんが考えて考えて、自分の意思で決めた事ならばどんな結論であろうと笑顔で見守ろうと、そう言っているかのようだった。
「星さん。あなたはこれからどうするんですか?」
「答えは出ています。だから後はそれを形にするだけ」
私の答えを聴いて、聖良さんはまた微笑みを返すだけだった。それは先程私に向けた笑顔に比べちょっと心配そうな、そんな顔をしている気がした。
「さて、じゃあ急須は13人分ですから星さん。手伝って下さいね」
「いやいや、ちゃっかりお盆一杯に載せないでくださいよ。私の細腕には全部一片に運べませんって」
なんて言いつつ、結局半分ずつ持って厨房から客席に出ると、まだみんなは着替え終えていないのか穹しかいなかった。
「すみません、お邪魔することになって。自己紹介が遅れちゃいましたが、明里穹です」
「バタバタしてこちらこそすみません。鹿角 聖良です。これだけ人数がいるんですから今更一人増えても変わらないので気にしないでください」
お互いに軽く挨拶を終えると聖良さんは感慨深げに私達二人を見やる。
「まさかこんな形でジェミニのアカリのお二人とお会いすることになるなんて、何が起きるか分からないものですね」
私が居る時点で関係者には“ジェミニのアカリ”として音楽活動をしていたことが知られていようと少しは予想していたであろう穹はだが、意味を図りかねたのか探るように私を見た。
「私が紹介するまでもなく、聖良さんは私達のこと知ってたよ」
「・・・まさかそんな人が居るなんてね」
「カバーとはいえ素晴らしいパフォーマンスまで生で見られたのは良い収穫でした」
Saint Snowはおしまい、と先程言った言葉はどこへ言ったのやら、聖良さんは少しうずうずするようにそう言った。まぁエントリーできるラブライブが無い期間というだけで、卒業まではスクールアイドルでいてもなんらおかしなことではないしもしかしたら・・・なんて思いを馳せている間に聖良さんと穹は意気投合していた。
「それで、二人の本気のパフォーマンスはいつ見られるの?」
その質問に私も穹もお互いに顔を見合せ、数秒の沈黙の後どちらともなく気まずくなり顔を逸らした。
「まぁ、こうして二人ともコンタクトが取れているみたいだし大丈夫だとは思いますけど、時間は有限ですからね」
分かってますね、と真剣な表情で釘を刺してきた。
時間は有限。その言葉は三ヶ月後には卒業を迎える聖良さんだからこそ重みがある。
私だって早くしなければとは思っている。曲作りだって少しずつ進んでいる。けれど、何故だろう?完成する確信はあるのにそれは今ではないと、そんな予感があるのだ。今ではまだ足りないのだという確信が。
「私は最大限譲歩しているつもりです」
穹が極力感情を隠して返答している。情けないけれど私も穹の言葉に同意だ。
穹は私が何も告げずに消えた理由、何も告げなかった理由を知らないのだ。知らないのにそれを一時棚上げにしてくれているのだ。これが譲歩出なくて何だと言うのだろう。
「ラブライブ決勝」
「はい?」
「あなたたちはそれまでに決着をつけなさい」
「何でそんなこと貴女が決めるんですか?」
「あら?大なり小なり音楽家なら自分の音楽を製作するのに目安程度に期限を決めている筈ですよ?それに、もともとラブライブで音楽活動するつもりだったんでしょ?」
確かにそれは図星だった。話の切り出し方としては強引だったけれど、悪い案ではない。むしろ第三者からこうして定められた方が、曖昧にならない。
「私はそれでいいよ」
「星・・・まぁそうね。一朝一夕で出来たもので私が納得するかって言われたら多分しないしね」
「なら、次に会うのはラブライブ決勝の日」
「場所はアキバドーム」
そこが次に私達が会う場所だ、とまるでお互いにラブライブ決勝に出場するかのように私達は拳を軽くぶつけ合い、健闘を祈った。聖良さんは満足そうにそれを見てお茶を啜っていた。まるで口を出しすぎたとでも言うように。
「あっつーい」
「まさか函館でこんなに汗だくになるなんてね」
着替えが終わった千歌先輩達が連れ立ってカウンターまで出てきた。
顔が少し赤らんだままだが、汗は一通り拭いて制汗スプレーでも掛けたのだろう。微かに柑橘系の良い香りがした。
「今日はありがとうございました」
「いいんだよ」
「今度は沼津に是非いらしてください。歓迎致しますわ」
ダイヤさんと聖良さんの視線が絡み頷きあう。今回主体となって動いた妹達の姉として、お互い共感する部分があるのだろう。それは二人にしか分からないことで、私には推し量れないことだ。
「必ず行くわ。だらけてたら承知しないからね」
「うん。ちゃんと頑張ルビィするから」
「何それ。面白いの?」
「真顔であしらうのは酷いよ理亞ちゃん!?」
見てくれは相変わらずのちんちくりんの二人。けれど、二人はきっとこの街で出会った数日前から遥かに成長している。だからこそ今、こうして相容れなかった二人は笑いあっている。
AqoursとSaint Snow、水と雪の結晶。お互いのグループを象徴するそれらは本来、どちらかに寄るしか存在を支えられない。けれど0から1への揺らぎは水と氷が両立する唯一の温度域なのだ。
理亞ちゃんの流した熱い涙は一度雪の結晶を溶かした。けれど、ただ消えるしかないそれをAqoursが受け皿となり、交ざりあったそれは今、再び形を取り戻した。
氷の結晶は一つとして同じ形はないけれど、一度溶けたって何度だって絆が繋ぎ会わせてくれるのだ。
「絶対に理亞と一緒に沼津に行きます」
「約束だからね」
ふふ、と理亞ちゃんとルビィちゃんが笑いあう。沼津と函館。遥かに遠いその距離はけれど、二人を阻む壁にはならないだろう。
ふと穹と目が合う。
私達の距離はAqoursとSaint Snowからすれば近所みたいなものだ。けれど、その距離は未だ遠い。それはきっと穹もそう思っているみたいで、私と穹はどちらともなくお互いに視線を逸らした。
「その時は今後のAqours・・・いえ、野暮なことは聴かないでおきます」
「いえ、折角の機会ですから、ここで少しだけ言っておこうよ」
今後のAqours、つまり、ラブライブ決勝が終わった後のAqoursのことだ。
「私はダイビングのインストラクターのライセンスを取りにオーストラリアに留学。深い海も良いけど、広い海もちゃんと知りたいんだ」
もちろん、それはまだ決めていないことで、だけど避けては通れない話題でもある。
だから、まずはその考える機会を作ろうと果南さんは切り出した。もしかしたらずっとその機会を伺っていたのかもしれない。
「私は東京の大学に進学が決まりました。一度地元を離れてどこまでやれるか、把握しませんとね」
「私はイタリアの大学に留学。みんな沼津を離れるなんてね」
「私達ったら、また相談もせずに勝手に決めちゃって」
「ホント懲りてないね」
なんて三年生の三人は言うけれど、それはもう、伝えなくても大丈夫だという思い込みではなく確信があったからこそなのだろう。
「そういう訳で私達、卒業したらそんなeasyにみんなとは会えないから」
お茶目にウィンクをする鞠莉さんに穹が一言。
「ドタバタで飽きないね、このメンバーって」
空気を読んでか、読まなかったかはさておき、ホントそれ、とみんな穹の言葉に同意するのだった。