ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百五十話

 冬に恋、とはよく言ったもので、冬の函館はとてもロマンに溢れていた。会う機会の無かった聖良さんや余り絡みのなかった理亞ちゃんとも交流できた。何よりいつか自分が実現しなければならない夢をSaint Aqours Snowのお陰で見ることができた。

 美味しいものは勿論沢山あったけれど、それ以上に思い出でお腹一杯な気分で私はみんなと共に羽田に帰ってきた。

 帰りの便から見た函館の景色からは来る時とは違った印象を受けた。

 来る時は未開の地に到着したと、そんな気持ちだったけれど、気持ちの上ではもうすっかり馴染みの街だ。本物の函館市民から怒られそうだけれど、それほど居心地が良かった。それは鹿角姉妹が良くしてくれたこともあるけれど、どこか沼津にも通じる空気感があったからこそなのかもしれない。

 うってかわって羽田空港は相変わらず慣れる気がしない。ここはどこか旅立ちの象徴でもあるような気持ちになる。

 覚えきれないほどの路線があり、一歩間違えば隣に居た人もすぐに見失ってしまいそうな、そんな錯覚を覚えるのだ。

 

「楽しかったね、函館」

 

「はい。とても」

 

 羽田に到着すると穹はライダースジャケットに着替えにトイレに行ったため、トイレ付近で待っている間に曜先輩か感慨深げに言った。

 

「やっぱり港町はいいよね」

 

「曜先輩は船が好きですもんね」

 

 曜先輩は今時にしては珍しくパパっ子だ。非常に尊敬しており、いつか船長になろうと夢見ている。ふと、でもそれは何故なのだろうと私は思う。それはきっと私が去年の出来事を切っ掛けに父と確執があるからなのだと思う。父を尊敬するとはどんな気持ちなのだと。

 

「なんで曜先輩はそんなに船が好きなんですか?」

 

「何でかぁ・・・何でだろ?ちっちゃい時から当たり前のように港に行ってたからね」

 

 当たり前過ぎて分からない、というのであれば確かに私にも覚えがある。私にとっては楽器があって遊び道具にしていたからだ。よくもまぁ飽きないものだとは思うけど。

 

「それに多分なんだけど、私って基本的に人が好きなんだと思うんだ。だから、沢山の人を運ぶ船が好きになったんだと思う」

 

 その分析を聞いてなるほど、と思った。

 よく曜先輩はスクールアイドルとしての自己紹介の際に「アイドルの海に飛び込んだら君に会えて幸せ」と口にしている。その一言に曜先輩らしさの全てが集約されているのだから秀逸の一言だ。

 

「いつかみんなでまた旅をしたいね」

 

「それなら曜先輩が操縦する船で海外とか」

 

「それじゃあ私が遊べないじゃん。それに、そんな遠い先じゃなくてもいいでしょ」

 

「とりあえずラブライブ決勝が終わったらみんな落ち着くでしょ。星も私も」

 

 黒いライダースジャケットに身を包んだ穹が不敵に笑いながら曜先輩の言葉に続いた。

 

「それにマリーさんって車の免許持ってるらしいじゃん。どこでも行き放題でしょ」

 

「Of course!今日も帰りは私のバスよ!」

 

「そうなのですか!?」

 

 どうやらダイヤさん以外のメンバーは鞠莉さんのバスに乗ってきたらしいけれど、表情が曇っているのは何故だろうか?

 

「まぁ、そういう訳だから。星」

 

「うん。ラブライブ決勝で会おう」

 

「なんだか私達がラブライブに出るみたいじゃん」

 

「出てたら決勝行ってたかな?」

 

「あんたのルックスがもう少しマシならあったかもね」

 

「穹の隣にいたら大半の人は見劣りするわ。それにこれでもかなり盛ってるんだけど」

 

「分かってるよ。会う間隔が開いたからかな。会うたびに可愛くーーー」

 

「そうでしょ。可愛くなってるでしょ」

 

「可愛く盛れてるなあって」

 

「・・・まあいいけどさ」

 

「ほんとのホントに、こうしていつまでも喋っている訳にはいかないし、もう行くわ。クリスマスももう終わるしね」

 

 じゃ、と穹はさばさばとした様子で手を振ると回れ右をして立ち去ろうとする。

 

「穹ちゃん。待って。一つ忘れてる」

 

 梨子先輩が穹を呼び止めると、穹は背中を向けたまま顔だけ此方に向ける。けれど、その表情には心当たりなどまるでなさそうな様子だった。

 

「ラブライブ決勝、私達のこともちゃんと見てよね」

 

 果南さんが不敵にそう言うと、穹も私も合点が言った。

 

「勿論楽しみにしてます」

 

 そう言い残して、穹は今度こそ私達の前から姿を消した。

 次に会うのは冬末、ラブライブ決勝の日。

 

「星もこれでもう後がないよ」

 

「何言ってるんですか、果南さん。Aqoursだってそうでしょ」

 

「なら言い換えましょうよ。先しかないって」

 

「OK.それならポジティブね!」

 

「じゃあ私達も帰ろうか、沼津に」

 

 広大な羽田空港を迷う様子もなく進む鞠莉さんの背中を私達は追った。

 流石に全世界をまたにかける女といったところだろう。普段沼津で見る姿とはどこか違って頼もしさが垣間見られた。

 

「鞠莉さんはどうして車の免許を?」

 

「来年にはイタリア生活だし自分で何でも出来ないとね。海外の距離感は日本のそれとは違うのよ?」

 

「まさか鞠莉が運転する車に乗る日が来るなんてね」

 

「そうやって人は成長していくものですわ」

 

 それは何て事のない日常会話。けれど、そう時の経過を感じる事を三年生が口にするとどうしても考えざるを得ない。三年生卒業後の事を。

 

「三年生がいなくなった後、Aqoursはどうするんですか?」

 

 私は小声で千歌先輩に尋ねた。結論はまだでも何となく考えてはいるだろうと思ったからだ。

 勿論、私がAqoursの活動に対しどうこう言う資格は無いし、言ってしまえば活動的には関係ないのだ。けれど、千歌先輩から始まった今のAqoursのことをずっと見てきたのだ。気にならない筈がない。

 

「今は考えてない。ラブライブが終わるその時まで考えちゃいけない気がするんだ」

 

「それは考えた上での棚上げですか?」

 

「うん。だって、その時にならないとどうしたいのか、どうして欲しいのか分からないと思うし」

 

 それは残る側の気持ち、去る側の気持ちを汲んだ上での保留だった。

 

「あ、あの車だよ」

 

 曜先輩が指差した先にあるのはピンク色のワーゲンワゴン。なるほど、あれならばこの人数で乗り込むことも可能だろう。

 

「昔はちょっと遠出するだけでも親の目を盗んでたのにね」

 

「そう言えば、いつだったか流星群の日に三人で展望台まで行きましたっけね」

 

「あれ親が凄く探してて、帰ったら拳骨貰ったんだよ」

 

「あの日は結局雨が降って、何も見えなかったんだよね」

 

 車に全員乗り込むと鞠莉さんは危なげなく車を発進させた。駐車場から外に出ると、丁度鞠莉さんの言葉の再現かのように雨が降っていた。

 

「そこまでして流星群見たかったのは何故です?別に淡島からでも良かったんじゃないですか?」

 

 私のふとした疑問に鞠莉さんは何も答えなかったけれど、果南さんがいたずらっぽく笑って代わりに答えた。

 

「願い事、したかったんだよね」

 

「ずっと一緒にいられますように、ですね」

 

 それは本当に幼い願いだった。

 ずっとなんて事はそうそうない。小さな事ではあるけれど、誰にだって覚えがある筈だ。

 ずっと親友だと言っていた友人と疎遠になったり、生涯少年誌を読み続けると思っていても新規連載を読まなくなったり。

 実際、鞠莉さん達は一度疎遠になった。それは、その当時星に願いを掛けていたとしても避けては通れなかったのだろう。

 けれど、だからこそ今、こうして再結集した鞠莉さん達は心が通じ会えているように傍目からも見える。

 

「もう一度、星に願いを掛けに行ってみる?」

 

「ずっと一緒にいられますようにって?来年にはバラバラなのに?」

 

「だからですわ」

 

「叶わないから願う、か」

 

「でも、雨が・・・」

 

 運転している鞠莉さんの顔は私からは見ることは出来ない。だからその現実を口にする鞠莉さんがどんな事を思っているのか、それを推し量ることはできない。

 

「大丈夫だよ」

 

「千歌っち?」

 

「雨を止ませることはできないけど、雨が止むまで待つことはできる。一人なら夜は長くても、九人ならあっという間だよ」

 

「・・・そうね。沼津につく頃にはきっとーーーー」

 

 私達は眠気がどこへ行ったのやら、夜通しで喋り続けた。運転出来るのが鞠莉さんだけだったから、鞠莉さんが眠くならないように、所々で休憩も挟んで。

 だからだろうか。長い時間を掛けて沼津に帰った頃には、空も心も晴れていた。

 

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