ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百五十四話

 人間欲望に忠実というか、なんというか。時間が出来たと知るやいなやみんな入場門の復旧のみならず各々の出し物の方にも追加修正をし出した。

 その逞しい精神に流石のダイヤさんも笑っていた。というか、ダイヤさん自身も自分の衣装を調整しているのだからちゃっかりしている。

 そんな訳で、日が暮れる頃には入場門は無事に復旧し、今は与えられた夜の学校という時間を皆が皆満喫している状況だ。その上、

 

「美味しいずら」

 

 高海家からの差し入れでみかん鍋が振る舞われているのだからいたせりつくせりだ。

 なんでもしいたけ乱心事件は、千歌先輩の真ん中のお姉さんがしいたけの散歩中にリードを離してしまったらしく、それで学校に迷いこんできたとの顛末だったのだ。みかん鍋はそのお詫びだと振る舞ってくれたのだ。

 家庭科室では花丸ちゃんを筆頭に皆美味しい鍋に舌鼓を打ち、私達は今という時間を楽しんでいた。

 窓から校庭を見れば何処から持ち出したのか花火で戯れている生徒が数人いた。

 流石に学校でこうも堂々と花火で遊んでいるのは蛮勇が過ぎるとも思ったけれど、打ち上げたりはしていないし、多目に見られているのだろう。

 

「何を見てるの?」

 

「ちょっと小さな花が見えましたので。曜先輩はもう準備は終わったんですか?」

 

「うん。あ、花って花火のことだったんだね」

 

 曜先輩もまた窓から校庭を見やると私同様に花火をしている様子に気付いたようだ。けれど、些かタイミングが遅かったらしく、すぐに花火が尽きてしまったようだ。

 

「・・・なんか不思議だね。学校の中はこんなに賑やかなのにね」

 

 慎と静かに戻った校庭を見て曜先輩はしみじみと言った。

 

「学校って一種の異界らしいですよ」

 

「何それ?」

 

「世間とは隔離された空間で独自のルールで動く場所だから」

 

「そっか。異界か・・・・でも、だからこそ今みたいに出来ることがあったんだろうね。だって、普通学校を救おうなんて真剣に考えたりしないもん」

 

「ですね」

 

「それにアイドルをしようなんて大それたこと考えられないし」

 

 そんな大胆で無謀な事を考えられる場所、それが許される場所はこの学校という世界以外では絶滅したのではないかというほど限られる。

 夢を追うこと、真剣に何かをすることは見下され、俗にいう社会的に認められた価値観が跋扈する世界。リアリストを気取って諦めを受け入れる理由にしたり、小狡く生きたりする現代でこの学校だけが異質だ。

 もちろん、スクールカーストという言葉があるように学校によっては秘密警察の真似事が横行している学校もあるようだけれど、この浦の星女学院は聖域と言えるほど純情だ。

 

「私ね、この学校で良かったと思う。千歌ちゃんと果南ちゃんと同じ学校で、同じことを出来て・・・それって凄く私には大切なことだったんだ」

 

 曜先輩はいつしか言っていた。千歌先輩と果南さんと同じことをしたかったと。でも、それはきっと言葉以上の思いがあるのだと思う。

 

「私って結構何でも出来ると思われやすくて・・・実際器用な方だとは思うけど、でもそんなことなくて。出来ないことは誤魔化して上手く立ち回ってるだけなんだ。果南ちゃんはそこら辺は割りきりが凄くて、出来ないこと、出来ることはきっぱりと分けてるの。逆に千歌ちゃんは出来ないことは多いけど諦めないんだ、絶対に。挫けることもあるし、めげることもあるけど諦めないの。私はそんな二人みたいになりたいってずっと思ってたんだ」

 

 幼馴染だからこそずっと昔から変わらない二人の軸。それは奇しくも曜先輩には無いものだった。だからこそそれに憧れた。人からはなんでも出来て追いかける対象だと思われている曜先輩は、その実追い掛けている人だったのだ。

 私はその告白を聴けて嬉しさを覚えた。

 だって、本当に曜先輩って器用で、多分一人でも生きていけるような、そんなタイプの人だと思っていたから。そんな人から理由は分からないけれど本音を語って貰えたから。

 

「だからスクールアイドルになれて、同じ目線で舞台に立てた。それが本当に嬉しかったんだ。星ちゃんはこの学校で良かったって、そう思えてる?」

 

「最初はそれこそ呪ってましたよ。でも、それはきっとどこの学校でもそうだったと思います。 音ノ木坂学院に入学できなかった時点で、穹と離れ離れになったことで。でも今は良かったと、心の底から言えます。それを教えてくれたのはみんななんですからね」

 

 そう言うと照れた様子で曜先輩は私に向けていた視線を窓の外に逸らした。

 

「あ・・・・・・」

 

「何かありました?」

 

「ちょっと行ってくるね」

 

 そう言って曜先輩はそれとない様子で家庭科室から抜け出した。

 何を見つけたのかと思って外を眺めていると程なくして曜先輩が入場門の近くまでやって来た。

 そして、その脇に片付け忘れられていたであろう、放置されている段ボールの側まで行くと、片付けるのではなく、そこに乗っかって何やら呼び掛けている様子だった。

 その景色に私は見覚えがある。その時は曜先輩はまだ、その小さな小さな舞台には上っておらず、そこには千歌先輩が立つのみで、曜先輩は傍らで手伝っていただけだった。

 けれど、今、曜先輩は在りし日のようにそこにいる。それは曜先輩がさっき言っていた“同じ目線で舞台に立てた”ことを意味しているのだろう。

 

「あれって曜ちゃん?」

 

 絵画を眺めているような気分でいると、今度は梨子先輩がいつの間にか私の横に居た。

 

「何してるのかしら?」

 

「たぶん、夢を見ているんじゃないかと思います」

 

 誰もやっていない、何をすれば良いのかも分からない。ただ輝きたい。そんな願いだけで始まった千歌先輩の挑戦。それに惹かれるように始めたスクールアイドル活動は、器用でそれなりのことが出来てしまう曜先輩ですらも思うように成果が出ず、だからこそ同じ立場でいられる場所となったんだと思う。だから曜先輩はずっと夢を見続けているんじゃないかと、そんな気がした。

 

「夢・・・・・・そうね、夢のような毎日だった」

 

「過去形ですか?」

 

「ううん。ずっとだと思う」

 

「ずっと?学校が無くなるのに?」

 

「うん。だってこの毎日を忘れることなんて出来ないもの。その思いが私を、私達を動かす力になるのなら、それってずっと夢を見続けているようなものなんじゃないかしら?」

 

 その台詞はどこか自分に言い聞かせるように、私に伝えるように、そして視線の先にいる曜先輩に言っているかのように思えた。

 見れば曜先輩の呼び掛けに惹かれたのか、千歌先輩が曜先輩の側に寄り談笑し始めた。

 

「終わらない夢を見て、か・・・」

 

 もしかしたら千歌先輩と曜先輩もまたそんなことを話しているのかもしれない。

 いや、他にも同じようなことを語らってこの前夜祭のような時間を過ごしている人がいるかもしれない。

 微かに耳に響く生徒達の声や活動音をBGMに私と梨子先輩は千歌先輩達が戻ってくるまで心地よい無言の時間を楽しんだ。

 

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