ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
冬の空は湿気が少ない分景色が良く見える。だから小高い丘の上にある浦の星女学院から内浦の海越しに見える富士山は絶景の一言に尽きる。
富士山と燦々と輝く太陽に見守られる今日という日ほど、終わりを悔いなく笑顔で迎えるためのお祭りの日として相応しい日はないだろう。
今日は遂に来た閉校祭当日。私達は朝イチで教室から体育館に集まり、今か今かと始まりの時を待っていた。
「皆待ちきれないって感じね。それでは長い話は抜きにして、これより閉校祭を開幕します」
体育館に集まった百人に満たない全校生徒を前に鞠莉さんが理事長として宣言すると、私達は万雷の拍手でもって閉校祭を華々しくスタートさせた。
「さて、それじゃあゆっくりと回りますか」
出し物がある人は自分の仕事に、そして手の空いている人は最高に楽しもうと、意気揚々と体育館を出ていく。
私の場合は主催して、というのではなく便乗しているため基本的には手が空いている。
さて、どこから見て回ろうかと閉校祭の栞に目を通す。栞の末尾には無事に閉校祭のテーマソングの歌詞も掲載されているため大満足である。それに加え、閉校祭期間中は時々テーマソングが校内のBGMとして流れるため、今日浦の星女学院に居る人は自然とリズムを覚えられるだろう。
さて、今回は皆がやりたいことをやるというテーマから個人出展が多く、文化祭の定番とは少し趣が異なる。それが故に、それぞれ出展内容も栞には書かれているのだが、行ってみなければ想像しにくく、却って興味をそそられる。
取り敢えず上から攻めて、徐々に下っていけば昼時には中庭の出店で食事を摂れるだろうと、大雑把にルートを決めて、私は校内の階段を上る。
校内は賑やかだ。生徒は言わずもがな、始まったばかりだというのに、近隣の人も既に来校している。
普段は掲示物よりもボードの面積の方が圧倒的に広い掲示板には所狭しと閉校祭関連のチラシが貼っているし、本当に学校が閉校になるなんて嘘ではないかと思ってしまう。
けれど、終わると言うことは案外そんなものなのかもしれない。
引退を表明した歌手のCDが急に売れ出したり、生産をやめることとなった定番商品の買い占めが起きたりなんてのはワイドショーなんかでも良く見る光景だ。
そしてそれはきっと私自身も例外ではないだろう。今は当事者の一人としているからこそ学校が好きだと言えるけれど、もしこの学校が閉校になるなんて問題が起きていなかったら、それでも絶対に学校が好きだと言える自信はなかっただろう。本当に、私も皆も調子がいいと思う。けれど、それでいいのだと思う。
そんな事を思いながら、私は歩調軽く階段を上っていると、一瞬だけ冷たい風が頬を撫でた。それはこれまでなんども感じたことのある風だ。階段の一番上、屋上の出入口が開いた時に舞い込む風だ。
屋上で出し物は確か無かったし、今日はAqoursの学校での屋上練習も無かった筈だ。
では誰がと思い、私は屋上へ行くと、そこには想像だにしない景色が広がっていた。
テント、テント、テント、といつの間に持ってきたのやら所狭しと複数のテントが広げられていた。
「ゆるキャン△?いやいや、この数は全然ゆるくない」
取り敢えず誰か居るだろうかと、手近なテントの中を覗いてみると、更に私は驚愕に落ちた。
「ガスボンベ?」
余りにも予想外過ぎてもう思考が停止しそうだった。
だって屋上に難民キャンプもかくやという数のテントがあって、中には身長の半分くらいの大きさはある無骨な銀色のガスボンベが何本もあるのだ。もう訳が分からない。いつからこの学校は統和機構の影響下になったのかと、けったいな妄想をしているとーーーーーー
「見ーたーなー!」
「ひゃい!?」
背後から肩を叩かれて変な声を上げてしまった。振り替えると、そこにいたのは四五六トリオ先輩だった。
「な、何してるんですか?テロですか?テロなんですか!?」
「落ち着きなよ」
「これを作ってたの」
そう言って見せてきたのは色とりどりのゴム袋。まだ空気を入れていない風船だ。
「風船でアーチを作ろうって決めてたんだけど、直前じゃないと空気抜けちゃうでしょ?」
「それに、空気入れても固定するまでは飛んでかないようにしなきゃいけないから」
「ああ、だから
「ご明察」
「でもまさか今日という日に人が来るなんてね。サプライズにしようとしてたんだけど、こっちが驚いたよ」
苦笑いしながら、けれど自慢げに設計図を見せてくる。
アイデアの元ネタは色々あるだろうけれど、私は映像で見たμ’s主催の通称スクールアイドルフェスティバルでの会場にあったバルーンアートのアーチを思い出した。流石に自信があるだけあってかなり手が込んでいるのが見てとれる。
「空気を入れるくらいなら手伝いますよ。三人じゃ時間掛かっちゃうでしょうし」
「いいの?」
「だって今日は皆の願いが叶う日ですから」
そんなこんなで午前中はひたすら風船を膨らませることに専念したわけだけれど、その甲斐もありアーチは無事に昼には完成した。
「浦女ありがとう、ですか。なんでまた風船でアーチを?」
「んー・・・去年、皆でスカイランタン飛ばしたじゃん?」
「“夢で夜空を照らしたい”の時ですね」
「もう一度飛ばしたいなって思ったんだ。何度だって、やればどこにだって飛ばせるんだって」
それはどこか寂しそうで、でも挫けない芯の強さがあった。
「私達ってこんな前向きじゃなかったのにね」
浦の星女学院の屋上に半円を打ち立てた四五六トリオはどこか誇らしげに言って、アーチを見上げていた。
手伝いを終えた私はその後、四五六トリオと別れて各出展を見て回った。
黒澤姉妹のスクールアイドルクイズ大会、果南さんの作る内浦の海の世界、鞠莉さんの創作料理“シャイ煮”、善子ちゃんの占いの館、千歌先輩のクラスの大正ロマン喫茶、その他にも、学校一背の高い人の出展である身体測定対決、いたずら好きな生徒の考えた使用不可になった机を活用した机への落書きコーナー、普段は入れない所にも入るチャンスがあるスタンプラリー、出店では焼きみかんなど、本当に多種多様で、キワモノもあったけれど、楽しいお祭りだった。
顎が外れてしまうのではないかというくらい笑い通して、日が暮れると四五六トリオにより屋上のアーチは解放され、風船は夢のように空へと溶けていった。
そこから先は後夜祭だ。祭りの余韻は最後の最後まで覚めないのだ。
校庭の中央に大きなキャンプファイヤーを燃やして、私達は輪になって踊って歌った。
“マイムマイム”、“オクラホマミキサー”と言った定番。果てはAqoursが考案した盆踊り“サンシャインぴっかぴか音頭”と何時までも続けられるのではないかと錯覚するほどに。揺れる炎の熱に負けないくらいに熱く、全力で。
誰一人として浦の星女学院が閉校になって嬉しい人などいないだろう。けれど閉校になって、それですら良かったねと言えるような日を作れたのではないかと、そう思えるような1日だった。
天高く燃えていたキャンプファイヤーも徐々に背が低くなっていく。それはお祭りの終わりをゆっくりと、だが、確実に終わるのだと宣言するようだった。
「これで浦の星女学院閉校祭を終わります。今日集まった人を見て、私は改めて思いました」
そのキャンプファイヤーを背に学校を代表して鞠莉さんが終わりの挨拶をする。
「この学校がどれだけ愛されていたか。どれだけこの町にとって、皆にとって大切なものだったか」
この日のために全力で準備した生徒の顔が、閉校祭に訪れた人達の顔が思い浮かぶ。その誰もが今日という日に自分の中にある感情を出し尽くして今ここにいる。それが、普段は余人に対して本音を見せない鞠莉さんの本音を表に出す。
「だから、この閉校祭は私にとって何よりも幸せて、私にとって何よりも温かくて・・・・・・ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。もう少し頑張れれば、もう少しーーー・・・」
こんな筈は無かった。無かったのに幸せになれてしまう皆の温かさに居たたまれなくなってしまったのだろう。鞠莉さんは頭を下げて謝罪した。私達に、いや、ここに居る人だけではないだろう。浦の星女学院を愛する全ての人に謝罪した。守れなくてごめんなさいと。
けれど、それは受け入れられないのだ。
確かに楽園は失われるだろう。頑張りは報われなかっただろう。けれど、だからこそ今の私達があるのだ。失ったものと引き換えに、手にしたものが確かにあって、それは掛け替えのないものだ。
だから鞠莉さんの謝罪に対して皆からの答えはなかった。代わりにーーーー
「アークーア・・・アークーア、アークーア」
巻き起こったのはAqoursコール。
浦の星女学院を背負って立つ最後の砦。
浦の星女学院の名を永遠のものにする可能性という名の希望。
皆のAqoursコールはそんな願いが込められているんじゃないかと思った。
「みんなーーーーーありがとう。じゃあ、ラストにみんなで一緒に歌おう。最高に明るく、最高に楽しく、最高に声を出して」
思わぬ感情の発露があったけれど、最後はみんな笑顔で一緒に歌えた。このみんなの願いが集い、それが私の願いと合わさってこの日のための音楽へと昇華した。
「「「「「「「「「「勇気はどこに?君の胸に!」」」」」」」」」」
それは問い掛け。まだ一歩を踏み出せていない誰かへの。
それは語り掛け。自分の初めての軌跡を。それでも続ける今への軌跡を。
それは誘い。楽しさもあれば涙もある。迷いだって消えるわけではない。けれど、行こうと高らかに出発を謳う。
みんなの思いが紡いだ歌はそんな歌だ。
“何度だって 追いかけようよ 負けないで
失敗なんて 誰でもあるよ
夢は 消えない 夢は 消えない
何度だって 追いかけようよ 負けないで
だって 今日は今日で だって
目覚めたら 違う朝だよ”
勝つ、ではない。負けないのだ。負けなければ夢はいつまでも続いていく。形は変わっても、願いが変わっても、その根本にある熱は変わらずに。
“やり残したことなどない そう言いたいね
いつの日にか
そこまではまだ遠いよ だから僕らは
頑張って挑戦だよね”
それは永遠を手にする可能性だ。
その答えに辿り着けた浦の星女学院に感謝を込めて、私達はキャンプファイヤーが消えるまで全力で歌った。