ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
花丸ちゃんもまたラブライブ決勝前。けれど、誰よりも達観している花丸ちゃんは恐らくはとっくのとうに自分の心の整理が付いていたのだろう。一人の時間を満喫するためか、私に別れを告げると駅に向かっていった。
私は貰ったガリガリ君を齧りながらぼんやりと空を見上げた。この電気街口前の広場は少しだけ開けているため空模様も少しだけ拝める。
今日は快晴、見える範囲は少ないながら雲一つ無い文句なしの快晴だ。
この空みたいに穹の心にも曇り無い状態で私と対峙してくれるのを願うばかりだ。ちょっとなげやりな願望だけど、自分でどうにも出来ないことなのだから、それくらいの力加減でいいのだろう。もしみんなと話をしていなかったら、今花丸ちゃんと会ってなかったら、また違う印象になっていただろう。それこそ曇ってでもいたなら、晴れろと念じているくらいに。
花丸ちゃんの言う通り、少し力みすぎていたと思う。けれど、こうやって一人一人に感謝を告げていくことで、私は自分を調律している。
「あら、花丸に先越されちゃったかしら」
「策士策に溺れる前に活躍の場そのものが奪われたって感じですね」
チャオ、とイタリア風に声をかけてくるのは駅の改札から現れた鞠莉さんだ。
思えば鞠莉さんの印象は当初余り良くなかった。 人に対してアグレッシブに干渉しようとするのが鬱陶しく思っていた。けれど、そのお節介は悪いことだけではなかった。結果論かもしれないけれど、それに救われたことも事実なのだ。
「どちらに行ってたのですか?」
「ちょっと卒業旅行の手配にね」
「いいですね旅行。どこ行くんですか?」
「私の先祖の生まれ故郷、イタリアよ」
「ゴージャスですね」
もともと世界を飛び回っている人とはいえ、高校生だけで海外旅行に行くとは、その行動力には舌を巻く。
「見たことのないものを見て、知らない言葉を聞いて、会ったことのない人と会う。世界を回るのって凄くexcitingなの・・・って言っても私はイタリアに何度も行ってるんだけどね」
「だからライブも好きなんですか?」
「そうかもね」
「私にもそういう側面があるのかもしれません」
知らない人に音楽を届けて、一緒に楽しんで、次の音楽を生み出す。そう捉えるなら私も鞠莉さんも似た者同士とも言えるだろう。
音楽的なことだけではない。鞠莉さんに悪い印象を持っておきながら、私も何だかんだで人に干渉してたりするのだ。そう考えるとその印象は同族嫌悪だったのかもしれない。
「今までーーーー」
「ごめんね、とは言わせませんよ。人を巻き込む分、沢山見てもらってたことは分かってますから。だから、ありがとうございます」
「・・・OK.なら私から言えるのは一言だけ。Thank you,FRIENDS!!」
自分達の大一番の直前だというのに、こうして私に気持ちを向けてくれるところは本当に相変わらずだと思う。
嵐のように見送ってくれる鞠莉さんに感謝の気持ちを込めて手を振り、私は広場を抜けて高層ビル“UTX”の歩道橋の階段前まで進むと、そこには曜先輩が待合せでもしているように手道無沙汰に佇んでいた。
「美少女がこんなところで佇んでいたらスカウトされちゃいますよ。秋葉原はスクールアイドル激戦区ですからね」
「星ちゃん」
「どうしたんですか?」
「スクールアイドルになる切っ掛けになった思い出を辿っててね。ここなんだ、私達の始まりは。千歌ちゃんと私だけが知ってる、浦の星女学院スクールアイドルの始まりの場所」
高層ビルUTXはそのビジネスビル然とした見た目とは裏腹に高校となっている。そしてそこは初代ラブライブ王者“A-RISE”の出身校だ。
建物からしてもそうだが、数多くの先進的な試みで人気の高校で今でもスクールアイドルの強豪校だ。
そのプライドがあるからなのかUTXの街頭ビジョンには暇さえあれば歴代の優秀な成績を修めたスクールアイドルのPVが流されている。
千歌先輩はそこに映し出されたμ’sの映像を見てスクールアイドルを始めたという。その時に隣にいたのは曜先輩だけだった。それが今では九人になり、こうしてトップスクールアイドルを競う立場になったのだから感慨深いものがあるのだろう。
「曜先輩って、要所要所で大切なこと話してくれますよね」
「そうかな?」
「そうですよ。曜先輩の言葉で何となく考えが纏まったり、本音を出しやすくなったりしたんですから」
常日頃の付き合いとしてはわりとフラットだけれど、曜先輩は私のことも仲間として見てくれているのが伝わるのはそういうところだ。それはきっとAqoursのメンバーにとっても同じことなのだろう。
「だから曜先輩と話をするのはとても好きなんですよ。ありがとうございます」
「なんか照れちゃうね。でも、私のやってることは千歌ちゃんや果南ちゃんの真似だよ。二人ならどうしてるかな?何て言ってくれるのかなって」
「でも、それが曜先輩の曜先輩らしさを作ってるってことでしょ?そんなに謙遜することないですよそれに、曜先輩だってみんなと一緒に歌ってたじゃないですか。真似じゃないーーーー」
「オリジナルのHEART WAVE・・・・・・そうだね」
「そうですよ」
沢山の言葉や思い出が今を作るのなら、曜先輩の中に根付いた果南さん像、千歌先輩像だって立派な曜先輩の一部だ。
「ありがとう、星ちゃん。お礼に良いもの見せてあげる」
そう言って曜先輩が取り出したのはいつか見たことのあるA4用紙だ。
Aqoursが招待された東京のスクールアイドルイベント。その際の順位と得票数の結果が書かれたものだ。
「出場グループ30組中Aqoursは30位、最下位で、得票数0」
「とても悔しかった。でも、ある意味でもう一つのスタートになった」
その用紙はだから一種の象徴のようなものだ。宝物、というには重苦しく、呪いというには余りにも多くをくれた。
「因縁、ですね」
「うん。だから持ってきた。今日はこれを千歌ちゃんにもう一度見てもらおうと思って」
「やっぱり曜先輩も千歌先輩が迷ってることに気付いてましたか」
「みんな気付いてるよ。だからこそもう一度ね。多分、これが最後だと思うけど」
千歌先輩が迷いを乗り越えた時こそ、この紙との因縁もまた越える時なのだろう。
だからこれが最後、と曜先輩は言ったのだ。
「星ちゃんも千歌ちゃんに話したいことあるんじゃないの?迷ってることも、星ちゃん自身のことも」
「流石ですね」
「行ってきなよ。千歌ちゃんの所に」
「・・・・・・ではお言葉に甘えさせて貰いますね」
私は曜先輩に改めてお礼を述べて歩道橋を上がる。程なくして歩道橋を上がりきると、真っ直ぐ先に見える街頭ビジョンの下に見覚えのある姿を見付ける。
太陽のように暖かなミカン色の髪をした女子高生、高海千歌その人だ。
「千歌先輩」
「星ちゃん、どうしたの?」
「私も千歌先輩と同じですよ」
千歌先輩はラブライブ決勝、そして私は穹との決着。規模は違えど人生を懸けているのは同じだ。そして、それを目前に控えている今、私たちは束の間の対等な関係にあると言えるだろう。
「迷ってます?」
「正直に言えばね。でも、優勝する。その決意は間違ってないってのも分かってるんだ。なんて言うのかな、こう、ね?」
千歌先輩との付き合いももう一年弱になる。それもかなり濃い付き合いをしてきたのだ。千歌先輩の人となりはそれなりに把握している。この人は一人では力を出せない人だ。だからスクールアイドル μ’sに憧れた。彼女達が九人だから、みんなだから輝けたグループだったから。
「ねぇ、星ちゃんはどうやって迷いを乗り越えたの?」
「みんなが乗り越えさせてくれたんですよ。私一人じゃドン詰りだった」
きっと千歌先輩達と出会えなければずっと燻っていた。そして、千歌先輩達の誰か一人欠けてもそうだっただろう。みんなが居たからここまで辿り着けた。それは千歌先輩と同じだ。
「みんなと話してみると良いですよ。そしたら迷いだって乗り越えられる。どこまでだって跳んでいける」
同じならば私も千歌先輩も乗り越え方も同じはずだ。
私一人では力が足りない。みんなでなければ足りない。だから私が出来るアドバイスはこれだけ。酷薄に見えるかもししれないし、薄情にも思える。けれど、これは経験談だ。これ以上なく、頼りになるみんなから貰った宝物だ。
「・・・そうだね。Aqoursの“ours”は一人じゃないって意味だしね」
だから千歌先輩はたらい回しのような返答も受け入れてくれる。これがこの一年弱を過ごして得た私のベストアンサーだということを千歌先輩も分かっているから。そんな千歌先輩だから一緒に歩いてこれた。 だから余計な言葉はいらない。
「千歌先輩」
「ん?」
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
ただただ感謝の言葉を口にする。千歌先輩はお互い様だと、同等の言葉でもって返した。でも思うのだ。千歌にとって、Aqoursにとって、私が居なかったとしても何とかなったのだろうと。それでも、こうして対等に感謝を交わせたのであれば私という存在も無価値では決してなかったと、そう思う。
「次に会うときはーーーーー」
「私はステージから」
「私は客席から、会いましょう」
「うん。会場のみんなの顔、ちゃんと見えてるから!絶対に星ちゃんのことも見付けるからね!」
「言質取りましたからね」
「それじゃあ、また」
「はい。また」
私はするべきことを終え、そして千歌先輩はこれからするべきことをしに、それぞれこの場所を離れた。次に会う約束を交わして。