ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
果南先輩への届け物が完了した事を学園長に報告しに戻ると、学園長室には学園長こと鞠莉さんとダイヤさんが何やら話している様子だった。
「果南さんに黒松さんをけしかけたのは何故です?」
「もう知ってるんだ。でも、けしかけたってのは心外ね」
ダイヤさんは強い口調で詰め寄るも鞠莉さんは飄々としていた。だが、鞠莉さんの口調がエセ外国かぶれの喋り方ではないためシリアスな会話であることが窺えた。
「何かが変わるかもしれない。そう思って」
「らしくないですね。鞠莉さんなら自分でいつも動いていたのに」
「それだけ私が本気ってこと」
どうにもダイヤさんと鞠莉さんはお互いの人となりを理解しあっている仲らしい。話しぶりからはそんな様子が窺える。また、どうやら鞠莉さんの狙いは果南先輩であることも。復学以上の狙いがあるのだろうがそれと私にどう関係があるのか?
「でも何故黒松さんを?」
「あの子も迷いがありそうだから、お互いに良い方向に転べばいいなってね」
「黒松さんが迷う?ルビィ達と楽しそうにしていますけど。いや、でも」
なにやら話が私の面白くない方向になりつつあるため私は学園長室をノックして返事も待たずに入室した。
「ちわーす、三河屋でーす」
「あら、お帰りなさい黒松ちゃん」
私が立ち聞きしているのを気付いていたのか分からないが、鞠莉さんはシリアスモードのまま応対する。空気を読んで帰れとでも言いたいのかもしれないがそうは行かない。
「騙しましたね鞠莉さん。果南先輩のどこがデンジャーなんですか」
「デンジャラスビューティーの方よ。それより果南はなんか言ってた?」
「鞠莉は何も言ってなかったの?って言ってましたよ。お互いに腹の探り合いをするくらいなら、腹割って話したらどうですか?」
なんて自分のことを棚上げにして言ってみる。だが、実際に彼女達の関係性はどうあれお互いになにがしかの関心があるのだから話をする以外に溝を埋めることは出来ない。それが出来なくて手遅れになった私が言うのだから間違いない。
「参考にさせてもらうわ。ところでお駄賃なんだけど」
「ああ、いいですよそんなの。その代わりに約束してください」
私が態々二人の会話に介入した理由を片付けなければならない。そのため私は鞠莉さんの言葉を遮って忠告させてもらった。
「私のことをあまり詮索しないでください」
不本意ながらも来てしまったここは私のことを誰も知らない、ある種の楽園だった。だから私のことを掘り返そうなんてことを認められる訳が無いのだ。
「私を利用するのは勝手ですが、私のことに深入りするなら私は鞠莉さんとは仲良く出来ませんよ」
そんなことにさせないでくださいね、と私は普段人にあまり見せない微笑みでもって威圧し学園長室から立ち去った。
変な時間の帰宅となってしまったが、バス停に行くと曜先輩が一人でバスを待っていた。
「珍しいですね、お一人なんて」
「水泳部に顔出してたからね。変な時間になっちゃったよ。そっちは?」
そう。曜先輩はスクールアイドル部と水泳部を兼任しているのだ。何でも高飛び込みでは相当な実力なんだとか。
「学園長からのパシリです」
「うわ、面倒くさそう」
全くです、と言うと二人して笑ってしまった。学園長が人を振り回すのが得意な事は就任してから間もないのにもう周知の事実となっているのだ。
「曜先輩こそ兼任なんて大変じゃないですか」
「私は二つとも好きでやってるの」
曜先輩は本当に今を楽しんでいるのだろう。スッキリとした顔で宣った。
「曜先輩って高飛び込みの優秀な選手だと聞きますけどいいんですか兼任で」
「いいの。私ね、今まで千歌ちゃんと一緒に何かをしたことってなかったから、今一緒にスクールアイドルをやれて本当に楽しんだ」
“私は楽しいよ。星と音楽をやれて”
曜先輩の言葉がかつての親友の言葉と重なる。
学園長室での出来事もあり動揺のあまり動悸がしそうになるのをぐっと堪える。
「曜先輩は千歌先輩が本当に好きなんですね」
曜先輩は私の言葉に珍しく動揺し赤面した。
「今の顔可愛いですよ」
いつもは飄々とした余裕のある雰囲気があるため中々こんな顔は見れない。
「じゃあ、私からも質問」
曜先輩は顔を赤くしたまま誤魔化しに入った。
「星ちゃんは音楽も好きで人前で演奏するのも好きなのに何でスクールアイドルやらないの?」
学生の音楽人は路上で気ままに演奏するよりもスクールアイドルとして売り出した方が人の関心を引きやすい。そのためガールズバンドでグループを組んだりしている人なんかはスクールアイドルのコンテンツに乗っかって活動しているところも少なからずあるという話だ。
かくいう私もかつては相方と共に音ノ木坂に入り、スクールアイドルのバックミュージックをしたり場合によってはスクールアイドルとして表にでようとも考えていたことがあった。今は昔の話になってしまったが。
そう、昔の話なのだ。私にとってスクールアイドルとはもう消えてしまった流れ星のようなものだ。かつて見た夢も、頑張ったことも、全て私の嘘が塗り潰して消えてしまったのだから。
「今の私は気儘な吟遊詩人ってところですから。何かを目標にってよりもその時その時を楽しみたいって感じなんです」
私の現状を表すならこんな感じになるのだろう。嘘ではないが、本当にそうなのか最近は自分自身でも判断がつかないところだから悩みは尽きない。
「星ちゃんが入ってくれたら素敵だと思うんだけどな」
「私なんてヴィジュアルが良くないですよ」
実際、Aqoursの面々はそれぞれ違うジャンルだが容姿は整っている。そこに私が加わってみろ。公開処刑と人は呼ぶ。
「そうかな?星ちゃん大人っぽい雰囲気あるし、Aqoursに足りない部分だと思うんだけどな」
「私は髪型と化粧で誤魔化してるだけです」
容姿だけが全てではないとはいえ、容姿が良い方が見栄えがいいのは事実だ。
私は顔の造形に関しては若干バランスが悪い。ただ極端に悪い訳でも無いのでキモいとか言われないが可愛いとも言われない、素の状態だとそんな容姿だ。
この容姿問題は私が音ノ木坂を目指していた時にぶち当たり、髪型を試行錯誤したり先生にバレないメイク術を磨いたりでなんとか人前に出ても恥ずかしくない程度には誤魔化せるようになった。
よくμ’sを普通の女子高生と表現するのを聴くが、それはプロのアイドルに比べてガチメイクをしていないだけだ。素の素材は寧ろ全員が一級品だから勘違いしてはいけない。
「謙遜して」
「そんなことないですが、まぁ皆さんにはメイクなんて最低限で平気ですよ」
先にも言ったが皆容姿は整っているのだ。彼女達らしさを出すには寧ろメイクは最低限で十分。そこにカモフラージュしてバレにくくしているとは言えガチでメイクしている私が入ったらバランスが悪い。それに男の目はメイクをカモフラージュ出来ても女は目敏い。似たテクニックを持つ相手にはメイクしていることなどすぐ分かる。
「とにかく私はAqoursには入れません」
Aqoursに私は異物だ。リンゴの木に腐った実が付いていたら他のリンゴも駄目になってしまうようにきっと私は良い影響を与えない。
私は太陽を見上げるだけのイカロス。高望みはしてはいけないのだ。