ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
空高く舞い上がった紙飛行機。
紙飛行機とはそもそも自分で飛ぶ力は無く、誰かに飛ばされて、風に乗るしか揚力を得られないのだ。
その在り方はどこか私達に似ていると思った。
自分の力だけでは道を切り開けないけれど、誰かに背中を押してもらえば前に進める。そんな私達の姿を重ねて、舞い上がった紙飛行機を見上げた。
「どこまで飛ぶのかな?」
太陽の光を受け白く輝くその躯体を見ていると何処へでも連れていってくれそうな気がした。
「追いかけようよ」
「うん!」
その行き先は何処へ?ちょっとした好奇心と、この偶然への期待と、よく分からないけれど何かが起きるという予感が私達の足を動かした。
「行ってらっしゃい」
私達は千歌先輩のご家族に見送られながら紙飛行機を追って海岸線を走った。この一年弱で幾度も通った道を。
無感動に通った日もあった。
友達と会話に花を咲かせていた時もあった。
笑ってる日も、涙を流す日もあった。
鼻歌混じりに踊っている日だってあった。
沢山ありすぎて全てを覚えていられないほど通った場所。けれど、もう通ることはないとも思っていた場所。
「千歌先輩」
「何?」
「私達いいんですよね、ここを通って」
思い出の中に閉じ込めて、大切に大切にしようとしていた。けれどもしかしたらそれは私が欲しかったものとは違う形だったのかもしれない。
「ーーーーいいんだよ。だって、全部の道は繋がってるんだよ。通っちゃ行けない場所は無いよ」
千歌先輩は段々と歩む速度を上げながら私に背中越しに答えた。
空が繋がっているのと同じ。どの道だってこの道に繋がっている。繋がっているなら無関係じゃない。
「思い出はいつも綺麗だけどそれだけじゃお腹が空くわ」
「ジュディマリの“そばかす”?」
「正解」
「それ私の芸風だからね」
穹はそんな私達をほんのちょっぴり茶化しながら、けれど言わんとしていることはちゃんと理解してくれた。
大切にするだけでは道は拓けない。大切にしてそれをどうするのかが重要なのだ。
「私ね、なんか段々私が分かってきたかも」
私達は紙飛行機を追いかけて今では小走りに海岸線を駆けている。
一足先に走り出した千歌先輩に私と穹は追い付き、三人で並走しながら千歌先輩の言葉に耳を傾ける。
「同じことだったんだよ。同じことを繰り返してようやく掴みかけた」
浜辺で見掛けた時の千歌先輩はもう居なかった。今の彼女はそう、スクールアイドルとして耀きを追いかけ続けていた頃の高海千歌だった。
「挫折して、自問自答して、助けて貰って、走り出して・・・・・・そうやって何度もやって来た」
「これからも?」
「何度でも!だから確かめに行くんだ。それが間違いじゃないかって」
「何処にです?」
「
私達の選択は私達のものだ。だからこれは運命なんてことじゃないと思う。
選んで、出会って、そんな偶然を幾重にも重ねて、千歌先輩の飛ばした紙飛行機は丘を越え、浦の星女学院に吸い込まれていった。
急勾配の坂道に心臓の鼓動が早くなる。けれどその胸の高鳴りは単なる疲労によるものとは違う、期待が多分に含まれていた。
その先に見えてきたのはつい数日前まで通っていた母校、浦の星女学院。
「開いてる?」
みんなで閉じた校門は何故だか少し開いていて、私達は誘われるように校舎の中に入ることにした。
そんな私達を受け入れるように玄関口も当然のごとく鍵は掛けられていなくて、けれど校舎内には人の気配は無いし、下駄箱にも誰の靴も入っていない。
静寂に包まれながら耳に入るのはいつしかのざわめき。 心の中にあるいつかの風景が私達にそれを感じさせた。
「二年A組、高海千歌です」
「へー・・・ここが星達の学校」
「そうだよ。ここでねーーーーー」
私と千歌先輩は唯一、浦の星女学院の思い出のない穹にここでの日々の出来事を語りながら閉じられた校舎を少しずつ開きながら巡った。
挨拶を交わした下駄箱、学校説明会の案内を貼った掲示板、各々の教室、各部活の音が心地よく聴こえる図書室、並んでパンを買った食堂、呼び出され無茶振りされた理事長室、そしてーーーー
「到ちゃーく」
みんなで練習したり、私が演奏していた屋上。
私達が飛ばした紙飛行機はその屋上の真ん中で一先ず役目は終えたと言うように羽を休めていた。
「ここはね・・・」
「うん」
「ここ、は・・・ーーーーーっ」
つうっと涙が頬を伝い、言葉が続かない。
楽しかったこと、悩んだこと、この一年弱の多くがここにはあった。
千歌先輩と一緒に穹に語って、思い出の箱を開けてその時の感情が私の中で色を取り戻した。
「ぁあ、駄目だ私」
浦の星女学院の思い出は笑顔で閉じる。そう意気込んだ約束は守れそうに無かった。
思い出も気持ちも、誰かと共有して、誰かに伝えて、そうやって耀きを増すのだ。過去を今と未来から切り離してはならない。繋がなければ今も未来も輝かない。少なくとも私はそう思うのだ。
閉じこめていては駄目だった。その失敗は中学時代に経験していた筈なのに、私はまた同じことを繰り返しそうになっていた。
「私は嘘つきだ」
そして千歌先輩もまた紙飛行機を手に空を見上げ、その細められた目から熱い雫が零れ落ちていた。
千歌先輩もまた同じ思いがあった筈だ。もちろん全部が全部同じな訳はない。けれどこの一年弱、道は違っても共に走ったのだ。共有する感覚はきっとそこにはある。
だからこそ閉校式の日には見せなかった千歌先輩の涙は、こうして人の目に触れることになった。
「ーーーーー」
嬉しいなら笑えばいい。
悲しければ我慢する必要なんてない。泣けばいい。
そしてそんな気持ちを誰かに届けたい。私の目指す音楽とは誰かのための音楽なのだから。
目を閉じれば甦る景色。みんなの顔、そして呼び掛ける声ーーーーー
「ーーーーーー?」
呼び掛ける声、が微かに風に乗って聴こえた気がした。
「千歌先輩・・・」
「聴こえた、よね?」
私と千歌先輩は顔を見合わせて頷き合うと、夢か現か、定かではない声に向かって走り出した。
運命なんて言葉は好きじゃない。だから私はこの出来事を偶然であるとそう信じる。
だって私がこうしているのも、穹がここにいるのも、千歌先輩と一緒に走っているのも、全部みんながそれぞれ自分で選んだことなのだから。
「遅いよ、千歌、星」
屋上を後にし、校舎を駆け、渡り廊下を抜け、体育館に入ると、そこには在りし日の再現のようにみんながいた。浦の星女学院のみんな。全校生徒100人にも満たない数のみんなが。
「みんなーーーーでもどうして・・・?」
「私達だけじゃないよ」
じゃーん、と四五六トリオの合図と共に幕の上がるステージ。
その幕の裏側から姿を表したのは千歌先輩を除くAqoursメンバーの八人だった。
「みんな!」
「夢じゃないよ千歌ちゃん」
みんなの選択の末に重なりあった偶然を何と呼ぶのか私は知っている。人はそれをーーーーー“キセキ”と呼ぶのだ。
「千歌」
「もう一度歌おう」
「うん!」
「「「「「「「「「一緒に!」」」」」」」」」
とても驚くべき出来事の末に不思議な偶然を重ね、巡りあった素晴らしいキセキの物語。Aqoursの未発表の集大成の曲“WONDERFUL STORIES”
“全力で輝いた
それはAqours、そして浦の星女学院のみんなと穹とで紡ぐ、みんなで奏でる物語。
“いつも いつも 追いかけていた 届きそうで 届かない ミライを”
叶ったことも叶わなかったこともあった。
“特別な何か探す冒険 そしてここに来て やっとみつけた!”
けれどそれらは全て無意味では無かった。
“夢を駆けてきた 僕たちの 物語 いっぱいの思い出からは 流れるメロディー あたらしい夢が聞こえる 遠くへまた行こうよDREAMING DAYS”
「分かった。私が探していた耀き。私達の耀き。足掻いて足掻いて足掻きまくってやっと分かった。最初からあったんだ、初めて見たあの時から。何もかも、一歩一歩、私達の過ごした時間のすべてが、それが耀きだったんだ。探していた私達の耀きだったんだ」
“青い鳥 探してた 見つけたんだ でも カゴにはね 入れないで 自由に飛ばそう YES!”
幸せとは遠く彼方ではなく此方にこそある。けれど、それは永遠ではない。だからこそまた見付けるために青い鳥には飛んでもらわなければならない。幸せはここにあったという思い出と未来の幸せもきっとあるという架け橋になってもらうために。
“あたらしい夢が聞こえる いつかまたはじまるんだよ 次の DREAMING DAYS”
そして私は、私達は確信するのだ。
夢は終わらない。どこまでも、いつまでもと。
あとがき。
長いことお付き合いいただきありがとうございます。
これにて私が描くラブライブ!サンシャイン!!テレビシリーズの二次創作小説が終幕となります。
ラブライブ!シリーズはアラサーである私が新しいもの、新しい価値観、初めての体験など、多くの出会いをもたらしました。
幾つになっても楽しいものはあるし、挑戦は何時だってしていいのだと勇気をもらったこの作品に感謝の意を込めて、少しでもラブライブ!シリーズを知ってもらう切っ掛けを作ること、その扉を用意しようとここまで書き続けてきました。
もちろん、正直に言えば書き始めの頃はそこまで考えてはいなかったでしょう。けれど、作品を深く調べたり、現実世界のAqoursのライブを通して出会ったラブライバーさんの“俺はここが堪らなく好き”、とか“ここの描写ってこうにも考えられる”など、感想や考察に触れたりする内に自然にそう思えるようになりました。
数少ないと分かってはいますがここまで読んでくれている人が少なからず居ると信じて問いかけます。
ラブライブ!は好きですか?または自分にとって夢中になれるほど好きなものはありますか?
その自分の好きなものと上手く付き合っていけばきっと楽しいものとまだまだ出会えると私は信じています。
みなさまの好きなものを大切に、そしてたまには迷惑にならない程度にそれを誰かに伝えていただけたらと思います。
それでは。