ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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本編を再始動します。
劇場版編です。
再始動の理由は活動報告にて。


第百七十話

 輝かしい時間はあっという間に過ぎてゆき、次々に今が舞い込んできては過去が積み重なっていく。でもそれは悲しいことではなくて、大切なことだ。積み上げれば積み上げるほどに重みが増すし、積み上げるからこそ遠く先まで景色が広がる。

 中学の頃、引っ越しのことを穹に黙っていたことも、沼津に来てもう一度やり直したいと思ったことも、全部があるから今がある。今があるから明日を夢見られる。

 

「とても素敵な学校だね、星」

 

 歌唱はできずとも初見の曲を抜群のリズム感で踊った穹は、浦の星女学院全校生徒の拍手と喝采に包まれながらそう言った。それは私にとって、いや、私達にとって最大の賛辞だ。

 

「うん。今なら自信を持って言える。浦の星女学院に入学して良かったって。でも、ごめんね」

 

 穹との約束を、 音ノ木坂学院に入学するという約束を反故してしまった末に言う台詞ではないと自覚はある。だからこその謝罪だ。

 

「あーあ、羨ましいなー。私もこっち来たくなっちゃったじゃん」

 

「あんたがそれ言うとやりかねないから怖いわ」

 

 廃校した筈の学校で、集まる筈のないみんなと共に歌って私達は満ち足りていた。きっと明日も輝けると。

 

「でもどうして?」

 

 浦の星女学院生全員が集まるのも人数を考えれば不可能ではない。けれど、そこに沼津を発った筈の三年生の三人までここにいるのはどうしても疑問だった。

 

「あのね、伝えたいことがあるの。千歌と」

 

「みなさんに」

 

「私達三年生とAqoursの未来についてのお話でーす」

 

「未来ーーーー」

 

 繰り返すようだけどこれからとは、これまでがあってこそ紡がれる。故に、この曲“僕らの走ってきた道は”はこう始まるのだ。これまでを肯定する言葉ーーーーーー“そうです”、と。

 

“耀きたくて 始まりたくって 仲間に出会いながら 走ってきた道”

 

 何度も振り返る。くどいくらいに。一見それは無意味に写るかもしれないけれど、これから飛び立つには助走がいるのだ。だから私達は、いや、この曲に倣って言えば僕らは必要な分だけ過去を見て、その辿った道を駆け抜けて明日に飛び立つのだ。

 

“さあ幕が上がったら ずっと歌っていたいね 終わらない夢見ようーーーーー”

 

 虹の向こう側に想いを馳せるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね」

 

 何度でも幕は上がる。そう元気付けてくれたみんなに感謝したのも束の間だった。分かってはいるけれどキセキはずっと続くものではない。すぐに現実が私達の目の前に飛び込んでくる。故にこうして私達は卒業旅行に行く三年生を沼津駅まで見送りに来たのだ。

 三年生3人の背中が見えなくなるまで改札前で見送り、バス停前で次のバスを待っていると千歌先輩がちょっぴりの寂しさを滲ませて言った。

 

「うん。私たちも戻って練習しよっか」

 

「そうね。6人で新しい学校に行ってもAqoursを続けていく」

 

「そうだね。それがみんなの答えなんだもん」

 

「やる気が出てきたずら」

 

「ぎらん」

 

「相変わらず空気が読めないずらね」

 

「喧しいわ」

 

 大切なのはその向き合いかたなのだ。Aqoursは三年生が抜けてもAqoursとして続けると方針を打ち立てた。帰ってきた三年生と、残るみんなとで話し合われ、浦の星女学院のあの場所で発表されたのだ。

 相変わらず凄い速さで進むAqoursを見て、私達も負けてはいられないと思った。

 

「そんじゃ、私達も便乗しようか。ラブライブ優勝したAqoursの練習がどんなものか、ちょっと気になるしね」

 

「穹は学校は?」

 

「テストは終わってるし、多少休んでも問題ないよ」

 

 浦の星女学院は統廃合による準備期間のため早めの春休みだが、 音ノ木坂学院は違う。まだ春休みには少し早いのだが、当の穹はそう軽く言うのだから、この女は本当に見た目詐欺だ。

 黙って伏し目がちにしていれば深窓の令嬢のようなのに性格はGoing My Wayなのだ。

 まぁ私達2人がどうしていくかは練習しながら話し合うかと考えているとルビィちゃんが思い出したように小さく声を上げた。

 

「あっ」

 

「どうしたの?」

 

「練習、どこでするの?」

 

「どこでって、何時もの・・・・・・あ、そっか、学校は使えないんだ」

 

「駅前の練習スペースは?」

 

「あそこはラブライブが終わるまでって約束で」

 

 浦の星女学院が廃校になり、統廃合先の静真高等学校にはまだ入学していない今、私達は非常に宙ぶらりんな存在だ。

 よくよく考えると現在の私達には居場所が無いのだ。

 

「そんなに練習場所困る?」

 

「私達は2人だったからね。多少周りが開けてればどこでも平気だったけど、9・・・6人だとそれなりに周りに気を使わないとね」

 

 穹が疑問符を浮かべているのを苦笑いしながら私が答えた。

 私と穹のダンスは余り横に大きく広がらない。動く範囲としては小さく纏まっている。それと違いAqoursのダンスの売りはフォーメーションダンスにある。6人で空間を広く使って魅せるため、それなりのスペースとフラットな地面であることが好ましいのだ。

 

「私がこっち居る間はともかく、今後の練習どうしよっか?」

 

「だよねぇ」

 

 埼玉県から東京都まで電車で約一時間。そして新幹線に乗らないルートでは東京都から沼津まで約三時間もの時間が掛かる。それを毎回穹に強いることはできない。それは穹のバイクが直ってからもだ。

 

「え、じゃあどうするずら?」

 

「鞠莉にでも聞いてみる?何処か宛はないかって」

 

 善子ちゃんの発言に千歌先輩は逡巡しつつもこう告げた。

 

「自分達で探そう。なんかね、頼ってたらダメな気がする。この6人でスタートなんだもん。この6人で何とかしなきゃ・・・・・・でしょ」

 

「うん」

 

 新しいAqoursは自らの力で道を拓く。それはとても力強い決意のように思えるのだが、何故だろう?少し今の彼女達は弱々しく映ってしまう。

 

「閃いた」

 

「はい。曜ちゃん」

 

「新しい学校に行ってみるってのはどうかな?私達が春から行く」

 

「新しい、学校」

 

 未だ行ったことすらない学校だけれども、これからは私達もそこの生徒になるのだ。学校に行くことに問題は無いだろう。

 

「今まで考えても無かったけど、部活動なら新学期前に統合先の子達に混じってやっても良いかもしれませんね」

 

 新学期始まってから合流するよりも早く一緒に練習した方がよりチームワークに磨きを掛ける時間が出来る。浦の星女学院の生徒だって部活動をする場所がなければ体が鈍るというものだ。

 

「どんな学校なんだろうね」

 

 私達はちょっとした好奇心に背中を押され、行き先を静真高等学校に定めて間も無く来たバスに乗り込んだ。

 

「え!?電子マネー使えないの?」

 

「驚いた?」

 

「今時そんなのあるんだね」

 

「あるんだよ・・・・・・って、穹ちゃん!両替はバスが止まってる時じゃないと駄目だよ」

 

「はーい」

 

 千歌先輩に注意され、「いけね」と顔に出した穹は座席に戻ると、そう言えばと付け足した。

 

「電車もさ、PASMO使って来たんだけど、何故か改札通過出来なくてさ。分かんなくて窓口で精算してもらったんだよね」

 

「あー、それね。なんか区間が途中で切り替わっちゃうんだって。改札前に精算機あるからそれでも確か精算出来た筈だよ」

 

「へぇー」

 

 とは言え同じJRで全国で使える電子マネーがワンクッション置かないと使えない理由をイマイチ理解出来ていなかったりするのだが、それはまあこぼれ話だしいいだろう。

 

「やっぱり遠出は良いもんだね。こういう発見があるから楽しいよ」

 

「穹さんは旅行とか結構するんですか?」

 

 花丸ちゃんの質問に穹は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

 

「バイク乗れるようになってからは結構走りに行ってるよ」

 

「かっこいいずら」

 

「でしょ。今秋名の峠で最速は誰かって話になったらみんな私だって言うくらいに走らせているよ」

 

 物知りな花丸ちゃんならすぐ気付くだろうが、今のは穹のどうでもいいジョークだ。

 元ネタは言わずと知れた公道最速伝説の走り屋達の物語“頭文字D”だ。

 秋名山はその作品の主人公のホームグラウンドなのだが、実在しない山だ。一応モデルとなったのが榛名山なのだけれど、魔改造しているとはいえあのトライアルバイクでぶっ飛ばしてというのはイメージが合わない。

 

「へぇ。あの峠ならシューマッハにだって勝てるって噂の豆腐屋の親父さんよりも速いって?」

 

 あ、善子ちゃん知ってるんだ。

 

「気になるなら今度私の後ろ乗る?」

 

「命の保証はしないわよ?」

 

 挑発的に言うけれど、不運な善子ちゃんがそれを言うとマジで洒落にならない気がする。

 

「伊豆半島は走りがいがあると思うよ」

 

「だよね。くねくねしてるし、海も近いし、最高だよね。前回高速使って失敗したなって思ってたんだ」

 

 躊躇いがちだったけれどルビィちゃんも会話に加わり、元々心配はしていなかったけれど穹がみんなと上手くやれそうな様子に少しだけホッとした。

 そんな風に会話に花を咲かしていると、わりと早く静真高等学校前のバス停に到着した。到着したのだがーーーー

 

「へ?」

 

「か、過去ずら」

 

「曜!間違ったんじゃないの?」

 

 そこにあったのは入り口にKEEP OUTとテープが貼られてもおかしくないレベルの廃屋だった。

 木造二階建てのこじんまりとした校舎は噂に聞くマンモス校の静真高等学校とはイメージがかけ離れている。校舎として考えれば浦の星女学院の方が千倍は良いだろう。

 

「でも学校から送られてきたメールだよ」

 

 善子ちゃんがここに案内した曜先輩に詰め寄るけれど、曜先輩が見せるスマホの画面には確かにここが指し示されていた。

 

「あああああ!見て!?」

 

 そして、それが間違いでないと裏付けるかのように新しい事実が見つかった。

 

「分校!?」

 

 施設名を示す古い木札に新しく書き加えられていた白い文字にはこう書いてあったのだ。“浦の星女学院 分校”と。

 

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