ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
初春の気温とは言え、日が落ちる前には流石に下着も乾き、途中からみんなの基礎練習に付き合った。
やはりAqoursが6人しかいないことにどこか違和感を拭えない様子はあったけれど、積み上げたものは嘘を吐かない。みんながスクールアイドルを始めた頃に比べれば圧倒的に体力もあるし、歌唱力もある。
穹もそれにしっかり着いていけているあたり流石だ。
「そろそろ日も暮れるしここら辺にしようか」
「はぁ、くたくた」
「今日のご飯は少し多めにしようかな」
千歌先輩が終了の合図をすると私達は言われずとも自然にストレッチをしながら雑談を始めた。
お腹もいい具合に減っているので今日は美味しくご飯を食べられるだろうと献立を考えていると千歌先輩が思わぬ提案をしてきた。
「そうだ星ちゃん」
「なんです?」
「今日穹ちゃんのこと借りてもいいかな?」
「一週間のご利用ですか?」
「貴方いつから蔦屋に改名したのよ」
善子ちゃんの突っ込みはさておき最終的に決めるのは私ではなく穹だ。
どうする?と穹を見ると、丁度穹と千歌先輩がお互いに見つめあっていた。それは数秒の短い時間だったけれど、何かしらのやりとりが成立したのか穹は千歌先輩の提案に乗ることにしたらしい。
「じゃあ今晩はお世話になりますね、千歌さん」
「しっかりおもてなしさせてもらうね」
「期待してますよ」
「なら私は曜先輩と梨子先輩をお借りしていいですか?」
「そこでそういう流れ!?」
「というか私達じゃなくて千歌ちゃんにそれ聞く!?」
呆れてというか慌ててというか、そんな様子で声をあげる二人に私はしれっと言ってのける。
「だって2人とも千歌先輩の相方でしょ」
「いや、まぁ」
「間違いじゃないけど、ねぇ」
曜先輩と梨子先輩はお互いに顔を見合わせて照れ笑いする。
幼少の頃から千歌先輩の親友である曜先輩。
千歌先輩がスクールアイドルを始めようと志した矢先に引っ越してきた梨子先輩。
2人は千歌先輩を中心に出来た間柄で、ある意味で三角関係とも呼べるだろう。
一時は曜先輩が千歌先輩と梨子先輩の関係に悶々とすることもあったけれど、今では2人ともとても意気投合している姿がしばしば見受けられる。全然タイプの違う2人がこうして繋がれたのは千歌先輩がいたからだけでなくスクールアイドルという活動を通して過ごした時間がやはり重要だったのだろう。
「今日は私の相方が取られて寂しいのでたまには両手に花を囲って愛でるのも悪くないかなと。いや、むしろ良い」
「いや、良くないでしょ」
「私もなんにも準備してなかったしパスかな」
なんて、2人とも断るあたり本当に以心伝心だ。
そんな本気でも冗談でもあるやり取りを重ねながら私達は帰路に付き、それぞれ一人、また一人と解散していった。
穹が泊まるだろうという想定は崩れたため晩御飯のメニューも考え直しだ。
一人分の、それも自分のためだけの食事などわりと適当でいいかと食材の残りを思い出す。
基本的に汎用性の高い米、じゃがいも、ニンジン、ネギは自宅に切らさずに置いている。この食材があればカレー、肉じゃが、シチューなどちょっと食材を買い足すだけで作れるメニューがそれなりにあるためかなり重宝している。もっとも、カレーやシチューは仕様上多めに出来てしまうためあまり好んで作ってはいない。
「チャーハンとジャガイモの味噌汁かな」
大筋のメニューを決めるた頃には自宅に到着する。中に入ればしっかりと玄関をダブルロックするのはもう無意識でもできる。
本当はチェーンも掛けたいところだが、チェーンは取り外されてしまったため掛けられない。
私は靴と靴下を脱いで洗面所に向かい、残りの服も脱いで洗濯かごに放り込んだ。
自宅では裸足、そして部屋着で過ごすことがポリシーなのだ。
自分の部屋に向かうついでに洗濯機の底から私のものではない生乾きの洗濯物を鷲掴みにすると、私の使っていない部屋、つまり父親の部屋に生乾きの洗濯物を投棄した。洗濯してやってるんだから干すのくらい自分でやれという話だ。
私の生活などつまるところこんなものだ。
自宅の生活を回す。けれどそこに父親の分は勘定に含まれていない。もちろん父親の分を除外するほうが労力が掛かるのならばさっきの洗濯物のようについでに処理することもある。けれど、ついでの範囲に収まらないのならば絶対にやらない。
家庭内別居とは何も夫婦間だけとは限らないのだ。
コミュニケーション?それは無意味だ。言葉は散々投げ掛けた。けれどその結果がこれなのだならもはや語る言葉は私には無い。もちろん必要最低限の情報伝達には返答する。完全に無視するのも存外エネルギーが必要だからだ。
いずれは経済的に自立してとっととこの家から出ていくつもりだ。幸い沼津でならそれなりに顔も広くなっている。就職先にはそれほど困ることはないだろう。勿論、大学には行きたいのでそこは奨学金を頼ることになるだろうが。
「次の週末か」
穹にはああ言われたけれど、やはり頭に過る想いはあって、思わず私は暗い笑みを一人浮かべていた。