ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
イタリア。それは日本から海を越え、山を越え、そのさらに先にある西欧諸国の一つ。目も眩む程に距離の離れた場所だ。
ヨーロッパの内海こと地中海に面する細長い国、と言われればなんと無く世界地図のどの辺りか思い浮かぶだろう。
けれど、知識では知っていたとしても当然ながら私も、穹も、現Aqoursのみんなも行ったことは無い。そんな遥か彼方の世界。そこでの日常が私達の非日常となる反転世界だ。
「それにしても」
「うん。パスポート作ってて良かったね」
そんな異世界だから行く理由とは裏腹についつい浮かれてしまうのも致し方ないというものだろう。
まぁ、鞠莉さん達と連絡が取れない、なんて眉唾な話だとなんとなくみんなも察しているのだろう。
「ラブライブに優勝したら海外に行けるかも、なんて千歌ちゃんが言ったときは何で?って思ったけど」
「結果オーライだったずら」
そして浮かれる理由は全員無事に渡航できる条件が揃っていたことだ。
通常、パスポートを発行するとなると早くても一週間は要する。生憎とそこまでの猶予はなく、パスポートを所持していなければお留守番確定という状況だったのだが、千歌先輩の勇み足が上手く状況と噛み合った。
「だって、私もスクールアイドルとして世界に出でパフォーマンスをしたかったんだもん」
きっと千歌先輩はμ’sという前例を考えていたのだろう。
μ’sはラブライブ優勝後、スクールアイドルのPRのためにアメリカに渡航してパフォーマンスをした。それはラブライブ運営からの依頼で、渡航費用は経費で落ちるという垂涎ものの待遇だった。
もちろん、スクールアイドルを流行らせるか廃らせるかの過渡期にあってのイメージ戦略のために大盤振る舞いをしたのであって、以降はそんな待遇のスクールアイドルは存在しないのだが。
「遊びに行く訳じゃないのよ千歌ちゃん」
「分かってるよ。鞠莉ちゃんたちに先ずは会う」
「うゆ。それにしてもお姉ちゃん達、なんで音信不通になったんだろう?」
「案外あのお母さんと喧嘩してんのかもね」
「見ての通りお転婆娘って感じだもんね」
家庭内の話に巻き込まれるのは些か不愉快ではるけれど、まだそうと決まった訳でもない。私は余計なことは考えずに海外に思いを馳せた。
「じゃあ、穹は今日予定通り一度帰らないとね。何がなんでも」
「流石にパスポートは持ち歩いてないからね。荷物は全部持ってるし、このまま駅まで行くよ」
「そっか」
「何?寂しいの?函館と沼津に比べれば埼玉と沼津なんてご近所でしょ」
やはりバイクという足があると活動範囲が広くなるみたいで思わず苦笑する。
「理亞ちゃん達もイタリア行く?」
折角なのだからと私は軽い調子でそう聞いてみた。勝手に言っているけれど鞠莉ママさんのあの様子なら頼めば手配してくれそうだし。
「私達は流石にパスポートを持っていないので」
「それに、忘れてないでしょうね?貴方たちは帰ってきたらライブあるんだからね。練習サボらないでよ」
なんてストイックな姿勢を見せるけれど、理亞ちゃんはこれからどうするのだろう?
たった一人のスクールアイドル。それも引っ込み思案の理亞ちゃんは今後どうしていくのだろう?
仲間が集まらないならいっそソロとしてやっていくのも手段の一つだけれど、それは理亞ちゃんが目指すスクールアイドル像とはきっと違う。
「理亞ちゃんはどうするの?」
「続けるよ、スクールアイドル。それでSaint Snowに負けないグループを作る」
相変わらず意識が高い。けれど、どうしてだろう?それだけではなく、こう、頑なな印象を受けてしまうのは。まるでそうしなければいけないのだと言い聞かせるみたいな、そんな印象を。
「星だって一人で頑張って今を掴んだんでしょ?なら私だって」
「私は、いや、なんでもない」
一人ではなかった。今だから分かる。Aqoursのみんなが助けてくれたから、私は一人ではなかった。
けれどそれを今の理亞ちゃんに言ってどうする?函館に戻れば物理的に一人になってしまう理亞ちゃんに言っても嫌味にしか聞こえないのではないか?そう思うと言葉を続けることは出来なかった。
「みんな再スタートをきる前で立ち止まってる。変な話、それに安心しちゃった自分が嫌になる」
「それで浜辺を駆け出しちゃった?」
「茶化さないで。あれはそういう年頃ろなのよ。ともかく、私はそんな自分を納得させるためにもスクールアイドルを続けなくちゃいけないの」
「そっか。なら新しいグループが出来たら函館に行こうかな」
「良いわ。歓迎するから」
「とか言って。実際の歓迎は聖良さんがしてくれそうな予感しかしないんだけどね」
「星!」
なんてみんなでじゃれているとあっという間にバスは沼津駅に着いてしまった。
「じゃあ私達はこれで。イタリアで何かしらの発見があることを祈っています」
「はい。必ず、2人が驚くようなスクールアイドルとして帰ってきます」
「じゃ、私も一旦帰るね。次は成田空港で合流、かな?」
「それが効率的だね」
「言った通り、少しは家族のこと、考えなさいよ」
「・・・・・・」
「ったく」
やれやれ、と肩をくすめると穹は手をひらひらと振り、Saint Snowの2人と連れだって沼津駅の改札を潜っていった。
「それじゃあ、各員、イタリア行きの準備をして明日ここに再集合。それじゃあ、解散」
みんな悩みを抱えて、もがいて、答えを探している。でもまさか海外までそれを探しに行くとは私も思わなかった。