ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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折角の劇場版の見せ場ですので追記しました。
やっぱりあの楽曲は素晴らしいですので、カットするなんてもったいない。


第百八十五話

 迷路のような細い路地裏を月さんは迷いなく進む。それに着いていく私達はさながら勇者のパーティーのようだ。

 主人公勇者 月さん、アタッカー 千歌先輩、万能キャラ 曜先輩、サポーター 梨子先輩、サブメンバーの一年生組ってな感じだ。

 私は何だろうな、とぼんやりと考えながら歩いていると、程なくして目的地に着いたようだった。

 

「あれだよ」

 

 月さんの指差した先には外から丸見えの石造りの螺旋階段が高くそびえる灯台みたいな建物だった。

 そして、その一番の望楼のような部分から下を見下ろしている人の中に見覚えのある三人の姿があった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「鞠莉ちゃん!果南ちゃん!」

 

 ルビィちゃんが歓喜の声をあげると共に駆け出して螺旋階段を駈け上がる。

 私達も心を弾ませながらその後を追うように走った。

 たったの2週間弱。会っていない時間はたったそれだけだ。だというのに姿を見ただけで、顔を会わせられると思っただけでこの喜び様。それだけ私達にとって3年生三人の存在は身近で、生活の一部だったのだと改めて思った。

 本当は会って色々と相談したり、話をしたりと考えていたのに今はただ会いたいと、その気持ちばかりが先行してどんどんと足を進める。

 みんなと一緒にした基礎トレーニングの甲斐もあり私達は一気に駈け上がると、三人は待ってましたと言わんばかりにこちらを注目して迎えてくれた。

 

「お姉ちゃぁああん!」

 

「よくここまで来ましたわね、こんな遠くまで」

 

 一番乗りしたルビィちゃんはダイヤさんの胸にすっぽりと収まって喜びを分かち合っていた。

 みんなが笑顔だった。私もまたそうだった。

 そして気付かされる。私がどれだけ三人のことを頼っていたのかと。ただ会っただけでこの様。正直、今になってから急に恥ずかしくなってきた。

 三人と会っていない間に私は、私達はただ迷って、悩んでばかりで見違えるような成長をしていないことに。

 どうすれば良かったのか?これからどうするべきなのか?それを話さなければ、と思い出すけれど、どうにも鞠莉さん達には鞠莉さん達の事情があるようで、

 

「良かった。三人一緒だったんだね」

 

「Of course.ずっと一緒だよ」

 

「どうして行方不明に?」

 

「ん?」

 

「行方?」

 

「不明?」

 

「え?」

 

 やはりと言うべきか、三人は首を傾げている。

 そして珍しく鞠莉さんが愚痴っているのが新鮮だった。

 

「やっぱり!そういうことになってるのねぇえ!」

 

「鞠莉のお母さんは千歌達になんて言ってたの?」

 

「特には」

 

「ただ、行方不明になって心配だからって」

 

「いや、千歌先輩。実は鞠莉さんのお母さんって行方不明とは一言も言ってないんです」

 

 音信不通、とは言っていた。だから私達は音信不通=行方不明、と意訳していたのだけれど、やはりそんなことは無かったらしい。

 上手いこと出汁にされている気配がしてしょうがない。もしかしたらこれは何かしらの罠なのではと思わず私は周囲を見回した。

  ダイヤさんもその可能性を考慮してか、初めて会う月さんに警戒の色を見せているけれど、月さんが持ち前の人当たりの良さで曜先輩の従姉妹だと告げるとすぐに打ち解けた様子だった。

 

「誘きだして捕まえようって魂胆ですわね」

 

 そう言ってダイヤさんが呆れたように出したビラには泣いている鞠莉さんの写真とデカでかと書かれたMISSINGの文字、そして今にもワシワシとしてきそうなダイヤさんと果南さんのコラ写真が掲載されていた。

 まさか鞠莉さんの母親がこんなものまで作っていたとは予想の斜め上を行きすぎて笑うしかなかった。

 どうにもそのビラはこの辺り一帯に貼り出されているらしく、立ち話をしている間にこのフロアにいる他の客達が私達を見てひそひそと会話する姿が徐々に増えていった。

 

「ここであまりLong stayは無理ですね」

 

 鞠莉さんはそう言うや否や、バッグからボーダー柄のポロシャツを取り出すと、一番観光客で賑わっている集団に向けてそれを放り投げた。

 

「何をーーーー?」

 

「「制服ーーーー!!」」

 

 それは一瞬のことだった。

 宙を舞う、ポロシャツ(後で知ったことだが、ヴェネチアでのゴンドラの船頭の制服らしい)、それに飛び付く曜先輩と月さん、慌てて避ける観光客の集団、このフロアの一堂の驚きの視線。それがスローモーションのようにも感じた不思議な一瞬だった。

 その隙を突いて3年生の三人は階段を一気に駈け降りていた。

 望楼から顔を出すと、三人はあっという間に姿が見えなくなってしまったのだけれど、その姿を見て私は思った。

 

「何か、解き放たれてるって感じだね」

 

 ふと思い出すのは何時しか戯れに見せてくれた三人で活動していた旧Aqoursの時のPV。その楽曲“逃走迷走メビウスループ”では上手くいかない現状に頭を悩ませるようなセンチメンタルな歌詞を底無しに明るく歌っているのが印象的だった。

 

“ずっと自由に生きてたいって

  Oh yeah 気がついたんだ急いで

  逃げちゃおうか? そう逃げちゃえ!

  邪魔しないでよ Bye-bye”

 

 三人の背中からはそんな風に歌っているような、そんな印象を受ける。三人には旅行が終わったらバラバラになるなんて、そんなことに微塵も不安に思っていないような、そんな達観と、何と言うか溢れ出るパッションがあった。

 もう一度会ってちゃんと話をしたい。三人のあの姿を見て私達はそう深く感じた。

 

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