ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百八十七話

 よくよく考えると鞠莉さんがあんなメッセージを残しているということは、私達が鞠莉さんの母親から囮にされていることに気付いていたのだろう。だからこそ私達だけに手掛かりを残していた。にしてもだ。

 

「なんだかダ・ヴィンチ・コードみたいだね」

 

「あの暗号文のこと?そういえば結構ハマってたよね星は」

 

「うん。やっぱり実在の舞台ってので緻密な描写は物語に説得力があったし」

 

 ダ・ヴィンチ・コードはダン・ブラウンの長編推理小説シリーズの一作だ。歴史上の人物、実在の場所、それらを題材に暗号的に謎をちりばめ、各地を巡って事件を解決する。その“ありそう感”が人気を博し、映画化されて世界的なヒットとなった。

 けれど流行った理由はそれだけではないと私は思っている。あの作品にはなんというか冒険感があるのだ。

 平成以降、世界に未開の地は無いという風潮があり、あらゆるジャンルから一時期冒険活劇が減少した。

 そこに現れたこの作品は、現実にある土地が舞台ながら、史跡などにより非日常の雰囲気を上手く切り替えて描かれていた。そのためまるで自分達の知らない世界に入ったような、そんな感覚があったのだ。今まさに日常から離れている私達のように。

 ヴェネチアから直通列車に乗り、私達は次なる目的地、ヨハネの守護する地というフィレンツェに向かっていた。普段沼津で生活している私達にすればあまりにも非日常だ。

 私は流れる景色を見てそんな風に思ったのだ。

 

「鞠莉ちゃんどうしてお母さんから逃げてるんだろう?」

 

 私の対面の席で、私と同じように景色を見ている千歌先輩がぼんやりとそう呟く。

 

「高校生にもなれば親との関係なんてある程度ドライなものだと思いますけど?」

 

「それは星ちゃんの家でしょ?家は違うよ」

 

「家業で絡みが多いからですか?」

 

 千歌先輩の家は旅館だ。それも由緒ある旅館で、かの太宰治が長期滞在して執筆していたとの逸話もある。

 当然のように千歌先輩も旅館の手伝いをしているし、家族で話す機会が多く達成しなければならない共通の仕事があるならば良好な関係を築いているのも頷ける。

 

「それ言うなら鞠莉ちゃんだって家の仕事をいつかは継ぐんじゃないの?」

 

「確かにそうですね」

 

 実際、浦の星女学院の理事長をしていたのだって経営者 小原家の力を使ってのことだ。私情はあれども家業の力を使うことに躊躇いがないところを見るにいづれは継ぐつもりがあるのだろう。

 

「そう言えば鞠莉さんの家ってお父さんが仕切ってますよね?」

 

「たぶんね。実際、統廃合の時とかに鞠莉ちゃんが頼み込んでいたのもお父さんだったみたいだし」

 

「なら、両親それぞれで方針が違うのかもしれませんね。それで鞠莉さんが父親側で母親側と対立している、とか?」

 

「なんにしても直接聴くしかないよね」

 

「そうですね」

 

「・・・・・・ねえ、星ちゃん」

 

「なんです?」

 

「星ちゃんはどうしてお父さんと仲悪いの?」

 

 ああ、と私は千歌先輩がその話をしたかったのかと納得し、それと同時に内心苦笑した。相変わらず千歌先輩はスッと心に近付いてくる。まるでそうするのが自然のように。いや、千歌先輩にとってそれは自然なことなのだろう。そんなところが頭が上がらないのだ。

 

「私が父親を許せないからです」

 

 私の人生を大きく揺るがす出来事を作ったのだ。そんな簡単な話ではない。

 

「どうして許せないの?あ、別に許せって言っている訳じゃなくて、どうしてなのかなって」

 

「どうして?」

 

「だって、全部が全部悪かったの?」

 

「違います」

 

 穹に黙っていたのは私だ。そしてあくまでも結果的にだけれどAqoursのみんなと出逢えた切っ掛けでもあるのだ。悪いことばかりではなかったのは事実なのだ。

 

「分かってます。でも、許す必要もまた無いんじゃないですか?」

 

「そうかもしれない。でも、それは星ちゃんにとって壁なんじゃないかな?」

 

「壁?」

 

「うん。だから星ちゃんは鞠莉ちゃんの件、よく見てなきゃいけないと思うんだ」

 

 人のふり見て我がふり直せ、ということなのか?

 千歌先輩はそれで話は終わり、と窓の外をまた眺め始めた。

 私の隣にいる穹はずっと黙っていた。たぶん余計なことを言う必要もないと思ったのだろう。

 私も黙って流れる景色を見る。

 穹も千歌先輩も私が父親と和解するのを望んでいる。でも私はそれを望んでいない。でもみんなの気持ちは無下にはしたくない。

 

「星ちゃんも色々、だね」

 

「月さん」

 

「悩みなよ沢山。悩んで悩んで、納得出来るまで悩むの」

 

「それってゴールにたどり着けるんですか?」

 

「さあねぇ。でも、ゴールにたどり着くことと納得することは同義じゃない。でもまあ、とりあえず当面の目的地には着いたみたい」

 

 後ろの座席から顔を覗かせて声を掛けてきた月さんはそう言って立ち上がった。

 私も月さんに向けた視線を外に戻すと、沢山の線路が集束していく様が見えた。十数車線くらいの線路があるようで、かなり大きな駅だ。

 フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅。ここから10分ほどでヨハネが守護する地たとやらに到着するらしい。

 

「ふふ、ヨハネ、ヨハネ・・・・・・くくっ」

 

 善子ちゃんがぶつぶつと不気味に呟いているのを私を含めみんながスルーしているのはご愛嬌だ。

 

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