ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
津島善子がどこまでキャラバレせずに済んだか気になる結果発表。
昼休みまで?それとも帰りまで粘りきれた?それぞれオッズをしていたと思うが私はある一点賭けだった。それは朝のホームルームまで。そしてその予想は的中だった。
クラスメートの皆がやっと登校した津島さんに興味津々で話し掛けていたときのことだ。彼女が占いが趣味だと話したところまでは良かった。まだ普通だった。だが、そこからがいけなかった。
誰が想像出来ただろうか。学校に魔方陣の描かれたクロスや黒装束を持ち込んでいるなどと。ロウソクまで準備しているなどと。
彼女はその魔方陣のクロスを広げると黒装束を纏い、ロウソクに火を付けて占いを始めたのだ。
止める間もなかった。いや、嘘だ。だが、皆あっけにとられてしまったのだ。
私も正直その時まで彼女のことを侮っていた。だがそれは大きな間違いだった。こいつはガチな奴だったのだ。伊達や酔狂で堕天使を語っている訳ではなかったのだ。
いち早く再起動したのは花丸ちゃんだった。花丸ちゃんはロウソクの火を吹き消してその占いという名の黒魔術お披露目会は終わった。
幸いにしてクラスメートはその件について苦笑いする程度で特に津島さんを避けたりするような事は無かった。
それはそれで私は納得出来た。津島さんのあまりにも堂に入った様は有無を言わさぬ力があった。下手に弄ってはいけない本気さが皆に認められたのだ。もっとも本人はそのことに気付いていないだろうが。
「どうしよう。なんとかしてよ」
そんな事があった日の放課後、私は屋上に行こうとしたところを津島さんに連行され、気付けばスクールアイドル部の部室に来ていた。何故だ。
「そもそもなんでそんなものを学校に」
梨子先輩の言うことはもっともである。だがハーモニカを学校に持ち込んでいる私にも分からない気持ちではない。
「それは、ヨハネのアイデンティティっていうか、はっ」
「なんか心が複雑になっていることは良く分かった」
相変わらず堕天使が顔を覗かせる様を見て梨子先輩は非常に面倒くさそうな顔をした。
人の癖などなんとかしろと言われてもそうそうなんとか出来ないのだから当然の反応である。
というか私個人的にはなんとかする必要はないと思うんだけど。
「私は津島さんのヨハネの時の感じ結構好きなんだけど」
え、とスクールアイドル部一同が私を見る。いや、マジでそのウーパールーパーを初めて見た人みたいな顔するのやめてくれない?
「可愛い」
いや、ただ1名違う反応の者が居た。千歌先輩だ。
千歌先輩はルビィちゃんが開いたインターネット上の善子ちゃんの占い動画のページを見ていたのだが、どうやら惚れ込んだようだ。これはあの流れが来る。そう思ったのは私だけではないだろう。
「津島善子ちゃん。いや、堕天使ヨハネちゃん。スクールアイドルやりませんか?」
「はい?」
案の定、津島さんの頭にはクエスチョンマークが浮かび上がっていた。
話も一段落したところで解散、とは問屋が卸さず、乗りかかったタイタニック号とでも言わんばかりに私はスクールアイドル部から解放されることはなかった。
屋上での練習ではスマホで練習動画の撮影や、メトロノーム代わりにリズムをとり、筋トレではストップウォッチャーをやったりとマネージャー活動をする羽目になった。
腹いせに練習の最後に私の演奏のもと、μ’sのこれからのsomedayを踊らせたのでそれなりに満足だった。
「あんた鬼ね」
律儀にもそれに付き合っていた部外者は私だけではない。津島さんもまた最後まで見学していたのだが、ジト目で私を見てそんなことを言うのだから甚だ心外だ。
「何言ってんの。スクールアイドルやるならμ’sの代表曲は振り付けくらいは覚えてないと」
「だからって覚えるまでやり直しとか鬼以外のなんと言えば」
「堕天使とか?」
「堕天使なめんな」
もし他に例えるとしたら、魔法少女でも魔女でも無いし、悪魔とでも言うしかない。なんてね。
「人はそれをブラック松と言うのです」
「ルビィちゃんはもう一曲、踊りたいの?」
そういうとルビィちゃんは小さく悲鳴を上げて花丸ちゃんの背中に隠れた。
「星ちゃんはよく覚えてるね」
「一般常識です」
「それどっかで聴いたことがある」
「でもあながち間違いじゃないですよ。スクールアイドルが好きな人は結構覚えちゃうんですよ」
だって私がそうだったから、とは続けない。というか私は音楽全般か好きでどれか一つのジャンルに傾注はしていないつもりだ。ただ、スクールアイドルは相方と音ノ木坂を目指していた時の影響で覚えているものが多い。その中でもμ’sはやはり特別だ。
楽曲そのものの良さについては古今東西のスクールアイドルの中でもトップクラスだが、歌やダンスの技術的な面で言えば、実はμ’sよりも上手いスクールアイドルは大勢居る。それでも彼女達が特別であり続けるのは理屈では語りきれないものがある。理由を述べようと思えば幾らでも出てくるが、そのどれもが正しく、それらだけでは足りない。千歌先輩なんかは輝きと表現するし、私なんかは最初の頃は熱と表現していた。
「好きなものってさ、そんなつもりがなくても自然と覚えちゃうよね。私もそうだったし」
「千歌ちゃんはじめの頃は毎日μ’s、μ’sって大騒ぎだったもんね」
「もう、曜ちゃんそれは言わないでよ」
千歌先輩と曜先輩はクスクスと笑っている。ちなみに言うがμ’s、μ’s言っているのは今も変わらない。
「ねえ、皆はμ’sみたいなスクールアイドル目指してるんでしょ?なら堕天使キャラなんて方向性が違くない?」
津島さんは練習の見学をしながらずっと考えていたようだ。なぜ自分を堕天使ヨハネとしてスカウトするのかと。
第三者から見ればなんとなくだが誘った理由は分かる。しかし、それを千歌先輩は上手く理解しているだろうか?千歌先輩は感覚派だから直感的にスカウトした可能性は否めない。
「他のスクールアイドル調べてみても堕天使アイドルってなかったからいいと思うんだよね」
ほらやっぱり。多分誘った時はそんな事知らなかったのだからもっと根本的な理由があるはずだ。
「想像してみて。皆が堕天使っぽい衣装を着てステージで踊ればきっと可愛いよ」
「確かに」
千歌先輩の言うようにステージに立つ姿を、ついでに言えば自分がセンターに立つ姿を想像したのだろう。にへら、という擬音が似合うやってはいけない類いの笑い方を津島さんはしていた。
「任せなさい。皆を素敵な堕天使にしてあげるんだから」
何故だか津島さんがやる気を出すことに凄い不安に感じた。