ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百九十話

 結論から言うとサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂には鞠莉さんら3人の姿は無く、この場所そのものには手掛かりは何も無かった。

 鞠莉さん達が残した謎なぞを解くには厳密な場所は必要なく、その条件が一致していれば事足りたのだ。

 

「まさか本当に合流できるなんてね」

 

 その条件とはフィレンツェの景色を望める高さだ。

 “ヨハネが守護する地を見下ろす時”というメッセージは文字通りの意味だった。続きの“妖精の導きが行く先を示すであろう”についてはドゥオモから実際に景色を眺めて気付く仕掛けだった。

 木々の生い茂る小高い丘の中から赤い光が輝いていた。ガイド役の月さんによるともともとドゥオモから見える景色の中にそんな光は無いとのことで、その光こそが妖精の導きなのだろうと察しがついたわけだ。

 結構大胆に存在感を出しているけれど、自分は動かず人を動かして漁夫の利を狙うだけでは分からない仕掛けだ。

 私達は尾行にだけ気を付けて移動し、赤い光が丘とでも言う所までやって来たのだ。

 どうやら別荘地帯となっているようで、その中の一軒、立派に門を構えた別荘に鞠莉さん達は潜伏していた。

 どうやら鞠莉さん個人の知り合いの別荘らしく、小原家の伝手で捜索していたらまずバレない場所とのことだ。

 日本の一般家庭からすれば想像もつかないような高い天井の大きな部屋に通された私達はようやく鞠莉さん達とゆっくり話す時間が出来た訳だ。

 

「今度はつけられなかった?」

 

「大丈夫。何度も道を変えたりしてここまで登ってきたから」

 

 実際、通行量が少ない道に入るとなんとなくだけれど私達がつけられているのとが分かった。付かず離れずの距離でずっとバイクの音が響いていたからだ。だからある程度の場所で私達は一度分散して再集結し、ここにたどり着いたのだ。

 全く、こんなスパイごっこするはめになるとは思ってもみなかった。

 

「ママからは何か連絡あったの?」

 

「ううん。特には」

 

「一体何があったの?お母さん」

 

「うん。ちょっとね」

 

「ここまで来たんだよ。教えてよ鞠莉ちゃん」

 

「確かに千歌さん達が可哀想ですわ。このまま隠しておくのは」

 

「でも」

 

 言い淀む鞠莉さんの様子に果南さんは溜め息を吐くと、あっさりとその理由を暴露し出した。

 

「実はね。鞠莉が結婚するの」

 

 それは理由を知らない私達からすれば聞き間違いじゃないかと疑うような内容だった。

 思わず寸劇を挟みながら聞き返したほどだ。

 

「えー結婚!?」

 

「いつの間に?」

 

「誰と誰と誰と誰が!?」

 

「wait.しないよ」

 

 怒濤の質問攻めに鞠莉さんは冷静に待ったを掛け、ほれ見たことか、と非難の視線を果南さんに送った。

 

「え?」

 

「果南。ふざけないで」

 

「でも、実際このままだったらそうなっちゃうんでしょ」

 

「だからそうならないようにしてるんでしょ」

 

「もう分かんないよ。どういうこと!?」

 

「つまり縁談の話がある、ということですわ」

 

「しかも相手は一度もあったことのないような人」

 

「どうして?」

 

「鞠莉の自由を奪いたいから」

 

 どこか怒りを孕んだ声で果南さんがそう言いきった。

 私はその言葉に頭が真っ白になり、次第に黒い感情が沸き出してきた。

 人の自由を奪うこと。それは私が最も忌諱し、軽蔑する行為だ。それをしようとする者がいたなら私は徹底的に交戦するだろう。

 あの時のことをフラッシュバックしたように思い出す。まだ埼玉にいた頃、沼津への引っ越しを押しきられた時のことを。

 

「鞠莉さんのお母様は昔から私達のことを良く思ってないのですわ」

 

「それまで素直に言うことを聞いていた鞠莉が私達と知り合ってからどんどん勝手に行動するようになって」

 

「高校も勝手に浦の星に戻って。理事長にまで就任して。スクールアイドルに対しても良い印象は無かったのかも」

 

「だからって」

 

 公平な視点からかダイヤさんと果南さんがこうなってしまった理由らしいことを口にするけれど、だからといって今回のこれは行き過ぎだ。

 いくら自分の子供だからといって道理に反さない限りその人間関係も、選択も、強制して良い理由などないのだ。

 

「じゃあ、もしかして卒業旅行も」

 

「そ。ママに分かって貰おうと思って書き置きしてきたの。私はもうあの時の私じゃないって。自由にさせてくれないなら戻らないって」

 

「計画的犯行じゃない」

 

「まさかここまで必死に追いかけてくるとは思わなかったけど」

 

 三行半を突き付けたはいいものの、やはり一方的なものはトラブルの元ということだろう。

 業腹ではあるものの、どこかしらで鞠莉さんは母親と直接対峙して負かしてやらなければならないだろう。

 

「これからどうするか。千歌達も巻き込んじゃったんだからちゃんと考えないと」

 

「ですわね」

 

 現在は時間稼ぎしている、といったところなのだろう。

 もちろん私としては鞠莉の自由のために協力を惜しむつもりはない。

 問題はどうやってこちらの土俵で鞠莉さんの母親と対峙するかだが、と考えを巡らせようとした矢先のことだ。

 

「うえ!?」

 

「ま、ママ!?」

 

 背丈を軽く越える大きな両開きの扉が勢いよく開かれた。それはもう、とても良い音を発てて。

 そして、そこに居たのは鞠莉さんの母親に他ならなかった。

 

「こんなところに隠れているとは、またハグゥの入知恵ですか」

 

 開口一番そう口にするところ、鞠莉さんの母親はハグゥこと果南さんのことを目の敵にしていることが伺える。

 

「違うわ。私が考えたのママがしつこいから」

 

「しつこくしてこなかったから、こうなったのです。小学校のころ、家から抜け出した時も、学校を救うためにこっちの高校をほったからして浦の星に戻った時も、パパに言われてグッと堪えてきました。しかし、その結果がこれです」

 

「これって」

 

「分かないのですか?何一つ良いことは無かったではないですか。学校は廃校になり、鞠莉は海外での卒業の資格を貰えなかったのですよ」

 

 もの凄い剣幕だけれど、しかし内容は確かに説得力があり感情的になっているだけではないことが分かる。けれど、だ。

 

「待って。でもスクールアイドルは全うした。みんなと一緒にラブライブは優勝したわ」

 

 一番叶えたかった望みは確かに叶わなかった。でも、だからこそ誇れるものは手に入れた。

 

「それが?一体、スクールアイドルとかいうのをやって何の特があったのです?くだらない」

 

 それをこの人間は吐いて捨てた。

 私の中でプツリ、と感情を縛る縄が切れた。

 

「くだらない?」

 

「お前ーーーー!」

 

 私と千歌先輩がその言葉に噛み付こうとしたところをダイヤさんが無言で制止した。

 そこには有無を言わさぬ凄味があったけれど、ダイヤさんの視線は鞠莉さんから動かなかった。

 それは私達が噛み付かなくても、鞠莉さんならばしっかりと母親と話をする度量があると信頼しているからなのだろう。

 

「こういう人なのです」

 

 それを証明するように鞠莉さんは諦めたようにそう言葉を続けた。そこにちょっぴりの悲しみを滲ませて。

 

「だから私達が鞠莉を外の世界に連れ出したの」

 

「シャラップ!」

 

「とにかく鞠莉の行動は私がーーー」

 

「くだらなくなんかない!」

 

「鞠莉?」

 

 無理矢理に、と鞠莉さんの腕を取った母親に鞠莉さんはハッキリとそう意思表示する。

 その姿を見て、私は違う、と思った。

 鞠莉さんは違うのだ。あの時、引っ越しを強制されて怒りに身を任せたままの私と決定的に。

 だって鞠莉さんの瞳に映っているものは、怒りだけじゃなくて、こう、理知的な光があるのだ。

 

「スクールアイドルはくだらなくなんかない。もし、スクールアイドルがくだらなくなんかないって、凄く素晴らしいものだって証明できたら・・・・・・私の好きにさせてくれる?ママの前でスクールアイドルが人を感動させることが出来るって証明出来たら私の今までを認めてくれる?」

 

「縁談なんかやめて」

 

「私達と自由に会うことを認めて頂けますか?」

 

 負かすのではない。ただ、分かってもらう。その手段を選択できる強さを、私は見た。

 理論的に、実績を数字にしてマウントを取ることも出来ただろう。けれど、そうはしなかった。

 だってスクールアイドルをして、ラブライブを優勝をして得たものはそんなものでは決して伝わらないのだから。

 それをみんな分かっているから、みんなは無言で鞠莉さんの後ろに立った。

 

「いいでしょう」

 

「ママ」

 

「ただし!駄目だったら私の言うことを聞いてもらいます」

 

 そう吐き捨てて鞠莉さんの母親はこの部屋から出ていく。

 鞠莉さんの母親からすれば自分の思い通りになれば決着の付け方はどうでもいいのだろう。

 

「ありがとう、鞠莉さん」

 

「星?」

 

「私、少し話てみようと思います」

 

 私はそんな鞠莉さんの母親の後を着いて屋敷を出た。

 

「何故着いてくるのです?」

 

「んー、表向きには監視です。貴方がちゃんとスクールアイドル 小原鞠莉のことを見るかどうか、チェックしないとフェアじゃないですから?」

 

「なら裏は?」

 

「親ってなんですかって、聴きたくて」

 

「・・・・・・いいでしょう」

 

 鞠莉さんの母親はそう言うと屋敷の前に停めてあったバイクのシートの中からヘルメットを取り出して放り投げてきた。

 私はそれを受け取ると、ヘルメットを被り、バイクに跨がった鞠莉さんの母親の後ろに座って、夜のツーリングと洒落込むこととなった。

 

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