ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百九十六話

 沼津に無事に戻った私達は一旦、3年生の3人と別れた。そして、残った私達はそれぞれ帰宅する前に静真高等学校 浦の星女学院 分校と名付けられた廃屋に向かった。廃屋などとは失礼な言い方かもしれないけれど、立ち入り禁止レベルの建物なのだから過言では無いだろう。

 何故分校に向かったのかと言うと、四五六トリオ先輩たちと合流するためだ。

 どうやら千歌先輩が小まめに連絡を入れていたらしい。Aqoursがライブをやるということも相談していたようで、ライブ運営のために浦の星女学院生を纏めていつでも動き出しを掛けられるようにしたり、ステージデザインなどの素案はおおよそ固めてくれているらしく、今日は調整をしたいとのことだったのだ。

 

「ごめんね。私達のライブなのに任せちゃってて」

 

「ううん、いいの。こういうのやっぱり楽しいし、学校のみんなも乗り気だし」

 

 分校の教室で三人とおちあって、私達は浦の星女学院生の現状を聞く。

 こういう催し物の準備は学校説明会や閉校祭を思い出す。それは私だけじゃないようで、みんな嬉々として協力してくれているらしい。

 既に必要性のある機材や資材の手配はしてくれているらしい。本当に仕事が早いというか、もはや学生かどうか疑わしい手腕だ。

 そして、改めてそれを実感したことで気付いた。この感じこそ本当の意味で浦の星女学院らしいんだってことに。

 誰かのためにみんなが全力で力を貸せる。そんな他に類を見ない魅力が浦の星女学院の良さだ。

 そう思い至ると少し肩が軽くなった。

 きっと学校の統廃合問題はすんなり上手くいくだろうと本能的にそう思えるようになった。

 

「もうステージのイメージも出来ちゃってるんだ」

 

 わざわざ見えないように布を被せてあった黒板から3人はじゃーん、と口にしながら布を取り外した。

 そこには本当に作れるのか疑わしい程に凝ったデザインのステージがカラフルに描かれていた。

 Aqoursらしい青を基調とした海のようなステージ。そしてメンバーカラーをモチーフにした虹。

 

「凄い」

 

「でもこんな立派なステージ、とてもじゃないけど間に合わないんじゃ」

 

「私も言ったんだけどさ」

 

「何かみんなに言ったら、絶対Aqoursに相応しい凄いステージ作って浦の星だってちゃんと出来ること証明してやるって」

 

「でも、ライブの音響のスタッフとか人手不足ではあるんだけどね」

 

 やる気と活気という美点、けれども人手不足というのはやはり廃校になるだけの理由たりえる欠点だ。

 

「こんにちは」

 

「はじめまして」

 

 人員の運用で人手不足をどうにか出来るかと思案していると教室に見慣れない女子生徒3人がおずおずと入ってきた。見慣れないのは当然で、その女子生徒達は静真高等学校の制服を身に付けていたからだ。

 一体どうして?誰が?と思い、すぐに手配した人に思い至った。

 

「僕のところに相談しに来てくれたんだ、まだ一部の保護者の反対もあるけど協力したいって。でも、まだ少人数だけど」

 

 月さんがそう言ってあくまでも自分が主体では無く自然発生した協力者であると言った。

 驚いたことに月さんが煽動している訳ではないらしい。しかし、よくよく月さんの性質を考えると納得でもある。

 月さんはどちらかと言えば主体的なタイプではなさそうだからだ。

 部活説明会の件だってもともと曜先輩が相談していなかったら枠を設ける交渉などしていなかっただろうし、イタリアに帯同していても行動はあくまで補助に徹していた。

 

「ありがとう」

 

 千歌感謝の言葉の通り、静真高等学校の生徒が協力してくれることにみんな喜びの声を上げていた。例え少しだろうとも自分達と上手くやっていきたいと思っている人が居ることが素直に嬉しいのだ。

 ふと、私は思う。人手不足の浦の星女学院が静真高等学校のように部活が盛んで人数の多い学校が合わさったら欠点が無くなるのではないかと。

 なんて、単純計算の最強理論は脇に置いておく。

 

「もしかしてヨハネちゃん?」

 

「違います!」

 

 ここに来た静真高等学校の生徒の内の一人が善子ちゃんを見てそう呟くと、善子ちゃんはいたたまれないような声を上げた。

 

「私、中学一緒だった」

 

「いつもネットで見てるよ」

 

「う、あう・・・・・・」

 

「「「ヨハネ、降臨」」」

 

 普段の自分とネットでの自分は別人格で通している人は少なくない。だからこそリアルで遭遇するとなんとも言い様のない気恥ずかしさを覚えるものだ。

 見事にヨハネポーズを決める3人を前に善子ちゃんは逃亡を計ったけれど、梨子先輩と花丸ちゃんに捕獲され、挙げ句の果てには撮影会が行われた。

 私達はそれを微笑ましい気持ちで見守った。

 一時は堕天使キャラを止めると言った善子ちゃんのパーソナリティーがこうして受け入れられていることになんとなく安心した。

 新しい学校でもやっていける。反対だって覆せる。そんな小さな希望がここにあるのだから。

 

「よーし、やるぞー」

 

 千歌先輩も気合いたっぷりにそう声を出す。

 

「でもあのときと違って鞠莉ちゃん達は居ないずら」

 

 なんて花丸ちゃんは言うけれど、その声音には一切、心配そうな色はなかった。

 

「できる。できるよ」

 

「ルビィちゃん!」

 

「私もできる」

 

「千歌ちゃんも!」

 

「うん」

 

 千歌先輩やルビィちゃんだけじゃない。曜先輩も梨子先輩も、善子ちゃんも花丸ちゃんももう大丈夫と言うように笑った。

 きっとみんな沼津を一時離れて得たものがそれぞれあって、イタリアに行く前からほんの少しだけ変わったのだろう。かくいう私もその一人だ。

 

「僕たちも頑張らないとね」

 

 主体的ではない月さんの、そんな呟きが少しだけ新鮮に感じた。

 どうやらイタリアに行って変わったのは私達だけではないみたいだと、そう思った。

 

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