ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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みなさんSaint Snowはお好きですか?
私は大好きです。それ故、普段の倍の文量になってしまいました。ご了承ください。


第百九十九話

 暦の上では春だけれどもまだまだ肌寒い。

 しかしながら、私はライブに向けての準備を急がなければならなかった。もちろん、私自身のライブではない。AqoursとSaint Snowの二組だけのラブライブだ。

 私はその幻の対決の片棒を担ぎながらワクワクする気持ちが沸々と心の底から沸いていた。

 気分まま鼻唄を歌いながら作業すれば寒さなどどこ吹く風だ。

 この感覚はやはり良い。こうでなければ私、明里穹は星とコンビなんて組んでいなかっただろう。

 星はしばしば「穹には振り回されている」とか、「穹は天才だ」なんて言っているけれど、本当は逆だ。いつだって星が面白そうなことを思い付く。けど、思い付いた本人はそれを出来ないことだって思い込んでいるものだからすぐに言ったことを忘れてしまうのだ。

 私はただそんな星が思い付いたことを実現しているだけだ。天才、ということについてはまぁ否定はしないけど。

 だから星が私の前から居なくなった時は本当に驚いた。

 また私の予想もしていなかったことを、今回は私に話すこともなく実行した星を恨んだ。そして段々と怒りが沸いた。相棒気取りで私は星のことを全然把握していなかったのだから。星の勝手さと共に自分の迂闊さに怒ったのだ。

 けど怒りってのはとてもエネルギーがいる。一週間、一ヶ月、三ヶ月と時が経つに連れ、疲れて別のことを考え出した。

 私達は楽しいことを沢山したし、思考実験みたいな話も沢山した。けれど、素朴な悩みだとか、不安だとか、そう言ったことは話していなかったのではないかと。

 楽しいこと、私の思い付かないことはいつも星が発案だ。だから星と一緒にいれば退屈しない。そんな風にどこか星のことを自分より上の存在のように思っていたのかもしれない。けど、本当は違ったんだと気付いた。そう思うと。ストン、と小康状態の怒りから別の方向に向けてエネルギーが湧き出した。

 星と話そう、探そうと。そうして探しだして、けどまだ星は自分自身に折り合いがつけられていなかった。星は折り合いを付けることは無理かもしれない、なんて顔に書いてあったから私はそんな星に乗っかった。

 いつたって星は発案で現実的にするのは私なのだから今回もそうしたのだ。

 私の課題に応えて行くことで星は自分自身に折り合いが付けられてようやく今に至るのだ。楽しまなければ損である。

 

「よし、即席にしては上出来でしょ」

 

 私はバイクのライトの前に取り付けた簡易映写装置をゆっくりと回す。映写装置は本当にちゃっちい。自撮り棒に中心を刺された円盤状のピニールシートに青と紫で雪の結晶の絵柄を描いたものなのだが、バイクのライトから光を通すとうっすらとその色の模様が写し出される。円盤をゆっくりと回してやればまるでスクリーンセーバーのように模様が一定の流れを描く。

 私は背景となる旧函館区公会堂に映る様子を見ながらバイクの位置を微調整して準備を終えた。

 今回の急造ライブは都合によりスマホのカメラでの撮影になる。そのため見えるのはSaint Snowの二人を中心とした狭い背景のみだ。だから急造といってもちょっとした工夫さえすれば映る範囲くらいは演出のしようがある。

 聖良さんには函館に到着前に楽曲を提供してもらい演出のタイミングは整えた。

 あとは光度の高い懐中電灯を収束仕様で使えばスポットライト代わりに出来るだろう。これは出だしでやるだけだから手作業だ。

 私はホッと一息吐いて束の間の休憩をする。

 結局函館まで来ても突貫作業。理亞ちゃんにバレないように聖良さんと場所を打ち合わせ、場所を提供していただいた旧函館区公会堂さんとの交渉を行い、閉館までに細かい資材を買い、閉館後に準備をしたのだ。だが、そのお陰もあり間に合った。

 Aqoursと聖良さんの取り決めた対決の時間である夜明けに間に合ったのだ。

 なぜそんな時間を指定したのか伺ったところ、理亞ちゃんは毎朝ランニングをする時間であり、余計な人目を気にせずに話せるタイミングだと言うこと。そして、このライブが理亞ちゃんにとって転機となるような、そんな願いを込めて夜明けにしたらしい。

 

「はぁ、これでお終いか」

 

 たぶんだけれど、星とこうやって何かを出来るのは春休み中ではこれが最後となる可能性が高い。そして、その後はしばらく私達は会えない。

 どうしたって距離の問題、日常生活の問題があり、私達はコンビとして濃密な活動をすることはどう考えても不可能なのだ。

 そんなこと最初かは分かっていた。

 星が自分で出来ないと思っていることを現実的にしてきた私だ。すぐに結論は出ていた。でも星はその結論を出そうとしなくて、だから私は待った。

 

「ーーーーーー」

 

 そんな風に物思いに耽っていると、間も無く聖良さんがやって来た。

 彼女は青みの強い紺を基調とした高校の制服に身を包み、その手にライブ衣装とマイボトルを持っていた。

 

「お疲れ様です。それとありがとうございます。こんなに寒いのに」

 

 聖良さんはそう言ってマイボトルを渡してくれたので私はありがたく中に入っていた熱々の玄米茶を啜った。

 

「良いってことですよ。この後は遠慮なく鹿角家に ご厄介になりますから」

 

 今回の発端となった聖良さんはそれでも申し訳なさそうに首を振った。

 

「本当は姉妹のことなんて姉妹で解決することなんです。ですが、私はスクールアイドルとしてはそれなりに優秀でも一人の姉として、それほど優秀ではないみたいなんです」

 

 聖良さんは懺悔するように語った。

 理亞ちゃんが姉離れ出来ないこと、人に強くあたってしまうこと、本当は臆病なのに強がってしまうこと、それを分かっていながら欠点を克服させられなかったのだと言う。

 

「そうですか」

 

 私はAqours面々ほどSaint Snowの二人とは交流が無い。だから聖良さんの言葉にどう返したものか分からない。分からないけれども一つ言えることはあった。

 

「欠点を克服させられなかったのかとしれないけど、長所は伸ばせたんでしょ?理亞ちゃんが望んでいた、スクールアイドルとしての理亞ちゃんという存在を一度はラブライブ決勝にまで到達出来るくらいに引き伸ばしたんでしょ?なら、何も出来なかった訳じゃないと思いますよ」

 

 ここに来るまでにSaint Snowのライブ映像は全て目を通した。

 そこには姉妹だからこその全幅の信頼感があったし、楽曲には二人三脚で走ってきた説得力があった。

 認められ頂点に立ちたい渇望、暗中模索の心砕かれるような葛藤、例え昨日までの自分から外れても歩みを止めない覚悟。それは二人の生き様だった。どうしようもなく姉妹のリアルそのものだった。

 信頼のない、ダメな姉と問題を抱えるだけの妹が出来るものでは決してなかった。私はそう感じている。

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 聖良さんはふっと、力が抜けたように笑ってくれた。

 それから間もなくして、遠くで誰かが叫んでいる声が聞こえた。その声は今にも裂けてしまいそうな悲しい響きがあった。聞き覚えのある声、理亞ちゃんだ。

 おそらくはランニング前後に何かあったのか、その感情の爆発は文字通り走り出し、お誂え向きにも私の居るこの旧函館区公会堂前の前の通りまで彼女は来た。

 理亞ちゃんのことはランニングから帰ったらここまで来るように仕掛けをしていたのだが、ちょっと予想していた展開とは違うけれども、理亞ちゃんが来たのだから後は実行あるのみだ。

 

「では行ってきます」

 

「ご武運を」

 

 聖良さんはスマホで千歌さんと通話状態にして、息も絶え絶えな理亞ちゃんの元に向かった。

 

「姉様。その格好、どうして?」

 

 聖良さんの登場とその格好に驚く理亞ちゃんに聖良さんはスマホのカメラを静かに向けるのだった。説明はこれで十分だとでも言うように。

 

「それでは!これよりラブライブ決勝、延長戦を行います。」

 

「え?」

 

「決勝に残った二組を紹介しましょう。浦の星から現れた超新星!初の決勝進出ながらその実力はトップクラス。スクールアイドル Aqours!」

 

「おー」

 

「そして、もう一組は北の大地が生んだスーパースター Saint Snow!」

 

 テレビ電話の声が私のところまで響いてくる。

 実況しているのはどうやら月さんのようだ。

 スクールアイドルイベントで人気の司会のお姉さんのようなノリだ。

 

「今から私達だけのラブライブ決勝を行います。もし決勝の舞台に立てたら、この衣装と、ダンスと曲だって決めてましたね」

 

「姉様」

 

 聖良さんから渡される衣装に戸惑いの表情を浮かべる理亞ちゃんはぎゅっとその衣装を胸に抱いた。それを着たい。でもその資格が自分にあるのかと。

 

「もし、Aqoursと競うことになったら、決勝のステージに立つことが出来てたら、あなたに伝えようと思っていた」

 

「ーーーーー姉様」

 

「泣いてる場合じゃないですよ」

 

 直接的に言わなくても伝わる。

 戦う舞台が変わっても、今から立つステージはラブライブ決勝なのだと。

 ならばやることは一つだと。

 理亞ちゃんもそれが痛いくらいに、痛すぎるくらいに分かって涙する。

 

「一緒に進もう、理亞ちゃん。甘えてちゃダメだよ。理亞ちゃんや花丸ちゃん、善子ちゃんと出逢えたからルビィも頑張ってこれたんだよ。ラブライブはーーーーー遊びじゃない!」

 

 見る人が見ればただの茶番。栄光も称号もないこの戦いは得られるものなんて何もない。誇りと夢を除いては。

 

「ふふ」

 

「歌いましょう、二人でこのステージで、Aqoursと全力で」

 

 だから遊びじゃない。その誇りとそして夢を賭けて全力で二人はこの夜明けを彩るのだ。

 

“きっとひとりじゃない 夢の中へGo

迷いながら Ready?Go!”

 

 響く重低音、歓喜に彩られる力強い理亞ちゃんのラップが間も無く来る夜明けを告げる様に空に高鳴る。

 

“強さを求めたら 弱さも受け入れてみようよ”

 

 その聖良さんの歌は彼女の答えだ。

 ストイックさを突き詰め、それでも獲られなかった頂点の座。足掻いて、足掻いて、その先に向き合った自分達の弱さ。それを知ったからこそ新しい自分が見えた。

 言葉の端々から見える。彼女のこれまでが。言うなればLove Live daysが。

 

“Believe again すべてを抱きしめながら

Believe again また始まるんだ Shout my song!

本気だって言わなくって きっと伝わるよ

何度でも熱くなれ 自由になれ

Believe again また始まるんだ (Yeah)Yeah!(Yeah!)Ah 冒険は終わらないよ Let's go”

 

 もう一度信じて!

 それは自分自身に言い聞かせるように、そして目の前の大切な人に言い聞かせるように力強く木霊する。

 突き出された拳と拳。それはもう一度羽ばたく誓いのように私には思えた。

 私もまた心の中で拳を突き出しながらSaint Snowのパフォーマンスを彩る。

 これは紛れもなくラブライブ決勝だった。そしてこの楽曲は優勝を賭けるに相応しい、紛れもなく渾身の一曲だった。

 ならばそのパフォーマンスに相応しい、演出を私はするのだ。

 決して派手な仕事ではない。けれども、私はこの演出を出来て誇らしかったーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のこの瞬間は決して消えません。Saint Snowは、私と理亞のこの想いは、ずっと残っていく。ずっと理亞の心の中に残っている。どんなに変わっても、それは変わらず残っている。だから、追いかける必要なんてない。それが伝えたかったこと」

 

 間も無くパフォーマンスを終えた聖良さんが理亞さんに伝える想い。伝えたくてでもその機会が失われてしまった想い。

 それは確かに伝わったのだろう。ここに来たときの悲痛さの声はなく、涙に濡れた表情でもなく、笑顔と嬉し泣きの混じったとても素敵な表情を浮かべる理亞ちゃんを見ればそれが分かった。

 それを見守りなから私は思った。

 星の答えを聞いたとき、私はどんな表情をするのだろうかと。

 私は夜空に上っていく紫色の羽を見送りながらそう、思ったのだ。

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