ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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お待たせしました。
お陰さまでラブライブ!フェス最高でした。


第二百一話

 あのライブ以降、理亞ちゃんから私達に連絡は一切なかった。語るべき言葉は歌として既に届けたとでも言うように。実に理亞ちゃんらしい。

 でも実は私は知っている。理亞ちゃんは無事に元気を取り戻したらしく、一皮剥けたというか、開き直ったというか、とにかくスクールアイドル活動に前向きに取り組んでいると穹からこっそり連絡があったのだ。

 穹はせっかく函館まで来たのだから今度こそ観光してから帰るとのことで、鹿角家を拠点にして数日間、函館を楽しむらしい。

 私達はこれから自分達のライブの準備だ。

 とは言え、去年浦の星女学院の学校説明会のために特設ステージを組んだからノウハウはあるし、手配する資材なども分かっているため非常に順調に準備が進んでいる。

 四五六トリオ先輩が手配関係や人員の確保に奔走してくれたからこそだ。

 浦の星女学院の良いところはやっぱりこういった総力を挙げて取り組めることだろう。そんな素敵な学校にもう通えないことに一抹の寂しさを感じながらも、これから通う静真高等学校の人にそゆな素敵なところを分かってもらい、共有できるようになれば良いなとちょっとした希望を感じている。

 そう。小さいながらも今の私達には目標があるのだ。そして、そのための原動力になるものが何なのか、もうみんな分かってる。

 週末に控えたAqoursのライブ。そして私と穹の今後についての話。昔ならそれを心配に思ったりしただろうけれども、今は少し楽しみに思えるようになった。

 そして、私は自分に残った課題にようやく手をつけた。

 私は父親と向き合おうと決めたのだ。

 鞠莉さんが母親と向き合ったように。

 Aqoursがこれからの自分達と、そしてこれまでの自分達と向き合ったように。

 Saint Snowが過去の悔いと向き合ったように。

 穹が私と向き合ったように。

 私は私の問題に蓋をすることを止めた。

 だけどやっぱり私は臆病で、面と向かってはとても冷静に話せる気がしないからこうして今、私は手紙を書いている。

 これまで交流を極力避けていたのだから寧ろこれくらいの方が距離感としては正しいのかもしれない。直感的に言ったにせよ果南さんのアドバイスは的確だった訳だ。

 もともと短くなる筈がないと分かっていたが、書き始めてみると筆が進むものだ。

 事の始まり。穹との関係。描いた未来。実現を拒まれた悲しみ、怒り。穹との別れ。沼津での生活、浦の星女学院。Aqours、Saint Snow。書けば書くほど私はこれまで伝えてなかった情報量の多さに驚かされた。これほどまでに私は父親と断絶していたのかと。

 だからといって私のことを伝えないことには意思表示ができない。

 私は次のライブの準備の傍らひたすら手紙を書き続けた。

 

「進んでる?」

 

「お陰さまで」

 

 暫定的に宛がわれた静真高等学校 浦の星女学院分校の校庭の片隅にある木陰で休憩がてら手紙を書いていると同じく休憩していた千歌先輩が顔を覗かせてきた。

 よっ、と私の隣に腰を下ろす千歌先輩に私は手紙を書く手を一旦止めた。

 

「ごめんね。邪魔しちやったかな」

 

「いえ。本来は家でやるべきことですから」

 

「間に合いそう?」

 

「手紙自体は。でも人の都合なんてそう易々と変えられませんから」

 

 私は週末のライブにできれば父親に来て貰いたいと希望するつもりだ。それは私が関わった事柄を伝えるとのだから。

 でも分かっている。社会人の、それもそれなりの立場がある人はそんな急に休みなど取れないことくらい。

 だけど、私は私が大切にしているものに父親を招く。その行為は今の私にならなければできなかったことだと思っているから、例え無謀でも、来られなくても招くのだ。

 

「楽しそうだね」

 

「そうですか?」

 

「うん。初めて会ったときと目が全然違うもん」

 

「どんな目をしてたんです?」

 

「驚いてた」

 

「そりゃいきなりスクールアイドルに誘われたらそうなりますよ」

 

「だよね。でも、単純な驚きだけじゃなくてすごく複雑そうだった。怯え、とか?あと諦めとか。なんとなくね、スクールアイドルと、μ’sと出会う前の私に似ているなって思ったの」

 

「私が、千歌先輩と?」

 

「私は星ちゃんみたいに劇的なことは無かったよ。でも、なんか色々とね、悩んでた時期があったから。何か夢中になれるものはないかって、色んなことを試してみた。でも、なんかピンとこなくて・・・・・・そんなことを繰り返してたら疲れちゃって、私ってなんもないのかなーって思ったりして」

 

 千歌先輩は苦笑いしながらそう言った。

 才能とか、そんなちんけなものとは根本的に違う。ただひたすらに夢中になれるものは何かを探す日々。慣れないことに常に身を置き、けれども続けられずにその時の仲間と距離を置くことを繰り返すのはどれ程の心労だったのだろう?

 けれども、その挑戦の日々は間違いなく今の千歌先輩を作り上げたのだろう。不意に不屈の精神の源を垣間見たようで私は少し呆気に取られた。

 

「・・・・・・千歌先輩ってホント人の事を考えてますよね」

 

「それ褒めてる?」

 

「どう受け止めるかはお任せしますよ。それよりも千歌先輩達の準備はどうなんです?」

 

 Aqoursは今回披露するセットリストも既に決まっているからなのか、練習にのみ注力するのではなくステージの設営なども手伝っている。

 手伝ってくれるのはありがたいのだけれど、パフォーマンスの方は大丈夫なのか気になるところなのだ。

 

「準備は出来てる。きっと三年生が卒業してからずっと準備の時間だったんだと思う。だから、準備は出来てるよ。それに、ちょっとは肩の荷も下りたしね」

 

 千歌さんは微笑ましそうに校庭でステージの仮設作業に取り組むみんなの姿を見る。その中にはAqoursの面々や浦の星女学院の生徒だけじゃない、静真高等学校の生徒もちらほらと見受けられた。

 

「週末のライブでのパフォーマンスどうこうって問題はたぶんもう無いと思うんだ。だから私達は、私達のこれまでと、そしてこれからのことを見せたいんだ」

 

 ラブライブ決勝延長戦の日から日を追うごとに静真高等学校の生徒の協力者が増えていった。

 どうやら月さんが無断であのライブの様子を投稿したらしく盛大にバズったのだ。

 本気を、スクールアイドルは遊びじゃないと伝わったからこそ、きっと自然発生的に協力者が増えていったのだろうと思う。もっとも、無断投稿はかなりやらかした行為でSaint Snowは勿論らAqoursはそれそれラブライブ運営から勝手なことをするなとお叱りを受けたのは余談である。

 だから当初ライブをしようとしていた目的は既に達成されつつあるのだ。

 

「月ちゃん言ってたんだ。Saint SnowとAqoursのライブを見て自分達も気付かされたって。部活をする理由の根っこ部分は同じだったって」

 

「だからこれだけの人数が来てくれたんですね」

 

 浦の星女学院も静真高等学校もそれぞれ生徒達の間にはもう壁は無い。今は身に付けているジャージや制服もバラバラだけど、向いている方向は同じだと、何も言わなくても伝わってくる。

 

「Aqoursとして何かを背負わずに純粋にライブをするのは初めてかもしれませんね」

 

「そうかも。楽しみだね」

 

「はい。楽しみですね」

 

 いつだってAqoursのライブは自分達だけの、自分達のためのライブでは無かった。

 スクールアイドル活動を賭けるため。

 廃校を阻止する大望のため。

 何かの催し物を盛り上げるため。

 浦の星女学院の名を残すため。

 母親との確執を取り除くため。

 今回はだからある意味でAqoursにとってのファーストライブ、いや、First Love Liveなのだろう。

 

「客席からみんなのこと見てますよ」

 

「うん・・・・・・ねえ、星ちゃんはライブが終わったらどうするの?」

 

「続けますよ。私もーーーーーラブライブを」

 

 それはAqoursの活動とは違う形となるだろう。けれどもそれだってラブライブだ。

 私の答えに満足したのか千歌先輩は休憩を終えて作業に戻った。

 私もまた、父に宛てた手紙の続きに戻った。

 

 

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