ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
時間は二組合わせて7分。幼稚園児の7分となるとかなりの長時間だ。割り振りはされていないため各持ち時間は要相談。
ステージは幼稚園の屋内。当然園児サイズのステージだからそれ程の広さはない。
「7分ってまた中途半端だね」
「平均的な曲なら一曲と半分ってところね」
幼稚園児からすれば長時間でも高校生からすれば短い。お遊戯会がメインで私達はあくまでもゲストであるためしかたがないが、それをどのように活かすのかが今回の肝だ。
「自己紹介はごく簡単に高校名とグループ名、曲名までかな」
「曲はどうする?カバーよりオリジナルをやるべきだよね」
私達は現在スクールアイドル部の部室で協議している訳だが、私はあまり口を挟まない。腹の虫が収まらず、話しをする気にならないのだ。それに正直自分の中ではもうベストと思われる結論が出ているのだ。だが、それは私の越えてはいけない一線を越えた結論だ。だからベストと分かっていても私からそれを提案することは出来ない。
もしかしたらこの状況すら鞠莉学園長は見越していたのかもしれない。どこまであの人は私を困らせれば気が済むのだ。
「あのさ星」
「なに?」
「あんた何か隠してない?なんでそんなに機嫌悪そうなのよ」
「二日目なのよ」
「嘘こけ」
善子ちゃんからも変に疑われる始末。いや、へそを曲げて不機嫌オーラを出したのも私の意思だとするならこれもまた私が招いたことだ。
私は半眼で私を見詰める善子ちゃんとお互い威嚇しあう。こうまでなると私も素直に譲る気にならない。
「星ちゃん」
「千歌先輩までなんですか?」
「今日、家来ない?」
それは何の前触れも気負いもない、私の毒気を抜くには十分過ぎる何気ない誘いだった。
千歌先輩の家は老舗旅館で先輩の部屋も襖など和のテイストのある部屋だった。だが、内装は普通の女子高生の部屋だ。ベッドがあってマンガやCDの置かれた本棚や雑誌の広げられた机があった。そして襖にはμ’sのポスターが貼られている。
「μ’sの海外遠征した時に作られたポスターですね」
リーダーである高坂穂乃果を中心に置いたメンバー達の生き生きとした、今にも動き出しそうなポスターだ。一時期は秋葉原中に貼られていたらしい。
「さすが星ちゃん。よく知ってるね」
「人並みには。それで、何でまた急に私を招いたのですか?」
私は雑談もそこそこに本題を切り出す。千歌先輩もまた始めから話しをするつもりだったのか表情を変えることなく口を開いた。
「こないだ星ちゃん家にみんなで行ったでしょ。それで思ったの。他のみんなは家に来たことあるけど星ちゃんはまだ家に入れたことなかったなって」
「私はAqoursのメンバーじゃないですし」
「それはそれでしょ」
「まあそうですが」
「私気になってたの。星ちゃん時々私達と距離取ろうとすることあるでしょ?それは何でかなって。音楽が好きで、演奏するのが好きで、人に聴いて貰うのが好きで、スクールアイドルも多分好きで。本当だったらもっと輝けるのに、何かがそれを陰らせてる。それが何なんだろうって」
「先輩も私の事を詮索するんですか?」
私が出して欲しくない類の話題であるにも関わらず、自分が思っている以上に私は落ち着いている。鞠莉学園長の時とは違い、千歌先輩が本音で話しをしているのが分かるからかもしれない。
「迷ってる。本当は色々聞きたいよ。だって折角同じ学校に入ってくれた後輩だよ。それも趣味の分かってくれる。だからその後輩のことを知りたいって思う。でも星ちゃんは知って欲しくないんでしょ?」
「はい。ごめんなさい」
「はっきりいうんだね。でも、いいよそれでも。ただ、それが星ちゃんを悩ませているなら、私は星ちゃんの力になりたい」
千歌先輩は何事にもいつだって正面からぶつかってくる。それが彼女の長所で一緒に居て心地良いところでもある。だけど、それが私には眩しすぎる。過ぎる効能のある薬は時には毒にもなるのだ。
「今度のライブはAqoursと私とでコラボしましょう」
だから私は自分の越えてはならない一線すら越えてこの場をやり過ごす。
こんなにも真っ直ぐな先輩に私の醜いところを知られたくない。知られるのが怖い。
大丈夫、たったの一度だ。たった一度だけ。それ以上はもうーーーーーー私は音楽に関わらない。
「絶対にいいライブにしましょう」
私は内心を押し殺して空元気で千歌先輩の手を取る。千歌先輩はどこか腑に落ちない表情で頷くのだった。