ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
そこからの一週間はあっという間だった。
演出の構成を決め、新しく振り付けを決め、曲をアレンジした。練習もまるでAqoursの一員のようにやりこんだ。この一度きりと決めたからか、この一週間は遠慮せずに全力だった。全力だったから楽しかった。
μ’sも終わると分かっていても駆け抜けた時は、もしかしたらこんな気持ちだったのかもしれないと私は勝手に想像し、それを自分で否定した。彼女達は私みたいに後ろ向きな気持ちはないだろうから。
「凄い、衣装まで用意してくれたんですか」
「当然だよ。折角一緒にやるんだから一体感出したいしね」
「曜先輩愛してます」
「ヨーソロー」
私は曜先輩の用意した衣装を眺める。
衣装はAqoursがファーストライブで着たものと同じデザイン。色は薄いベージュだ。
私にとって最初で最後のライブ。私が想像していた未来とは違ったが、私はこのとても小さなライブを精一杯やりきろうと思った。
「あれ、星ちゃん」
「泣い、てる?」
「やだなあ、梨子先輩にルビィちゃんも。花粉症だよ」
私は眼に込め上げるものをしっかり堪えてみせた。只でさえ自らに架した制約を破っているのだ。涙だけは流してはいけない。
私は曜先輩から受け取った衣装に袖を通し、ハーモニカを吹き鳴らしてステップを刻んだ。
曲は僕たちはひとつの光。μ’sの集大成の曲だ。それ以上に深く語るつもりは私には無い。μ’sを知る者ならばそれ以上の言葉は不要だからだ。
「私も躍る」
「私も」
もしも私が今とは違った形でみんなと会っていたらどうなってだろう?千歌先輩に誘われて、きっと少し悩んで、だけど多分スクールアイドルをやることになって、きっと今みたいに衣装に身を包んでいただろう。それは凄く楽しいだろう。毎日がキラキラと輝いているだろう。今日より明日、明日より明後日と先々を夢見ているだろう。
私はそんなあり得たかもしれない可能性を今体験している。ほんの一時の白昼夢。それでも私は夢が覚めるまでは一瞬一瞬を噛み締めて楽しもうと決めていた。μ’sが歌い上げたように、ライブが終わった時に今が最高と言えるように。
お遊戯会のゲストライブ当日、本番も直前。私達は通された控え室代わりの教室で着替えを済ませて円陣を組んでいた。
「みんな緊張してる?」
「はい」
「緊張しててもいいんだ。だってそれはこのライブの事を真剣にやりたい、楽しみたいって思っているから感じることだから。だから、その緊張感も含めて今日はみんなで楽しもう」
高海先輩が音頭を取りみんなの背中を押す。かく言う私もまた緊張していたため非常に助かったりしている。人前での演奏は始めてではないとはいえ、緊張するものはするのだ。
高海先輩は行くよ、と円陣の中心に向け手を伸ばすと他の面々もまたその手に手を重ねていった。
「星ちゃんも」
私はAqoursではないから本来円陣を一緒に組むことも手を重ねることもしてはいけない。だが、私は躊躇いながらも手を重ねた。今日はコラボをイベント。グループは違えど仲間なのだ。
「Aqours with」
「星」
「サーン…シャイーン」
Aqoursのライブ前の掛け声に倣って、みんなで手を天に掲げ私達はライブを開始した。
ライブ会場は小さな小さな幼稚園のステージ。とても七人で踊れないそこに千歌先輩を先頭に私達は入った。
梨子先輩は備え付けの鍵盤の数の少ない小さめのピアノに座り、私もまたハーモニカを構えた。
「こんにちは。私達は」
「Aqoursと」
「星です」
元気良くみんなで名乗り上げると園児からは元気な挨拶が帰ってきた。
「今日はお招きありがとう。精一杯歌って躍るから、よかったらみんなも一緒に躍ろう」
梨子先輩と私以外のみんなは簡略化して園児でも腕の振りだけで出来る振り付けを実演して教える。
挨拶とこの振り付け指導で二分。残り時間は曲を披露する時間に配分したのだ。
幼稚園児にどうしたら喜んで貰えるか、楽しんで貰えるか、夢を見させられるか考えた結果このような形となったのだ。自分達だけじゃない、みんなも楽しめるライブにしたい。そう考えたら自ずと答えは出た。
「じゃあ行くよ。ダイスキだったらダイジョウブ!」
これはAqoursのファーストライブで披露したAqoursの記念すべき第一曲目だ。今回はピアノとハーモニカに対応したアレンジの生演奏バージョンだ。
狭いステージでは全員で躍ることは無理が生じる。そのため、梨子先輩はダンスから抜けてピアノに専念し、バランスを取るため私もハーモニカで伴奏を担当することになったのだ。
私も梨子先輩も既に音合わせは何度もした。お互いの音を食い合わないように強弱も音階も事前に突き詰めて調整していたため滑り出しからばっちり息を合わせられた。
千歌先輩と曜先輩、ルビィちゃんはファーストライブの時と同じ振り付けで躍り、花丸ちゃんと善子ちゃんは園児でも躍れるように簡単にアレンジした振り付けを千歌先輩達の両サイドでやり、園児のお手本となるように躍っていた。
基本的に簡略化したアレンジは単調で繰り返しの動作のため、直ぐに園児は覚えてくれる。
女の子なんかは目を輝かせてキャッキャと声を出して躍り出すし、男の子もお調子者が動き出すと釣られて他の園児も躍り出した。中には全然違う動きをしている子を居るが楽しんでいることは良く伝わった。
「知らないことばかり、なにもかもが、それでも期待で足が軽いよ」
「温度差なんていつか消しちゃえってね、元気だよ、元気をだしていくよ」
ああ、本当に私は知らないことだらけだった。しっかりと談取りをして人前でパフォーマンスすらことがこんなに楽しいことだったなんて、素晴らしいことだったなんて。私は今、楽しい。許されるならばこのままずっと続けたい、と思うと同時に最後までやりきったときどんな気持ちになるのだろうとワクワクしたりもするのだ。
「ダイスキがあれば、ダイジョウブさ」
そうこうしているとあっという間に最後の歌詞が終わり、梨子先輩と私の演奏で締める。
曲が終わった時、見ていてくれた園児は誰一人として座っていなかった。みんな嬉しそうに飛び跳ねながら見ていてくれたのだ。
きっとみんながみんな覚えてくれることはないだろう。でも、何人かは記憶に確かに残るライブになった筈だ。
「ありがとうございました」
私達は揃って頭を下げて感謝すると、園児からもまたお礼の言葉を返された。
ありがとう。本当は一回じゃ足りないくらいだが私は堪えて、みんなと顔を上げると見てくれたみんなに手を振って小さなステージを後にする。
バイバイ、ありがとう、と私は万感の思いで心の中で別れを告げる。
この機会をくれてありがとう。
見てくれてありがとう。
楽しんでくれてありがとう。
みんなありがとう。そしてさようなら。