ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
幼稚園でのコラボライブが終わってからは千歌先輩の家で打ち上げをした。みんな各々ライブで感じた事を思い思いに口にして講評したが、全会一致で楽しかったとのことだった。私はその日はずっと笑っていた気がする。他のみんなには悪いけどこのライブでは私が一番楽しんでいたと思っている。
それから週が明け、Aqoursは新たな課題に取り組む事となった。いや、取り組まざるを得なくなったという方が正しい。
何が起きたかって?聴いて驚け見て笑え、統廃合である。何がって浦の星女学院のだ。
年々入学希望者が減り、今年に限っては一年生は一クラスのみとなった現状を鑑みればそれも納得である。一応来年の入学希望者を見てという話しらしいが余程劇的な事が無い限り入学希望者は増えたりはしないだろう。ここは近隣の人以外が通うには交通の便が悪すぎる。私が引っ越してきた時に感じた絶望感はそんな状況が一端を担っている。
さて、こんな状況になり黙っていないのが彼女、高海先輩だ。というか統廃合の話題が出た瞬間にテンションが最高潮であった。それもμ’sを好きな千歌先輩ならば納得というものだ。
μ’sはそもそも学校が廃校になるのを阻止するために結成されたのだ。統廃合という学校の危機を前にシンパシーを感じているのだろう。
取り合えず高海先輩は入学希望者を増やすために活動すると活動方針を決めた訳だが。
「でも行動って何するつもり?」
「え?」
「え?」
結局勢いが先行しているのは相変わらずでそれを考えるところから活動は始まることとなった。
私はといえば距離を置くつもりではあったが、廃校の話題が衝撃的過ぎてついつい何時もの癖で一緒に行動していた。
「結局、μ’sがやったのはスクールアイドルとしてランキングに登録して、ラブライブに出て有名になって、生徒を集める」
「それだけなの?」
「みたい」
前例を参考にするのはどの業界でも変わらない。だが、μ’sのやったことは言ってしまえばスクールアイドルとして頑張ったとしか調べても分からなかった。
「強いて言えば学校のPR活動をしたくらい?」
「PRか。難しそう」
「でも良い考え。今の受験生が入りたいって思うようなPRができれば入学希望者もきっと増える」
「そんな簡単にいくかな?」
「とにかくやってみよう」
そんなこんなでAqoursは学校と街の良さを紹介するPVを製作することとなったのである。もちろん私は撮影協力だ。まぁ学校と街の紹介ならば学級活動の一環であるし私の制約にギリギリ抵触しないだろう。音楽をやらないという制約に。
学校の魅力、街の魅力、と言われても正直ポジティブな印象はなかなか思い浮かばない。
学校は坂を登らなければ行けないし、教室にはエアコンが無い。生徒も少ないから部活数も少ない。街は田舎町で学生の好むような商店は無いし、カラオケチェーンやゲーセンもない。
うん、駄目だ。埼玉県北部から引っ越してきた私にはこの問題は難題だ。ん?埼玉もそんなに変わらない?それは気にしてはいけない。
「やはりぽっと出の私には難しいですね。ここは昔から住んでいる土着の人の意見が聴きたいですね」
「土着って、民族じゃないんだから。梨子ちゃんも思い付かない?」
「うーん、中々ね」
そっか、と地元組は頭を悩ませているが、全会一致ですぐに出た案もある。それは自然豊かであることだ。
温暖な気候。小高い山とそれに見守られるような入り江。そして学校の周りにあるみかん。コンクリートジャングルとは違う、リアルジャングルがここにはある。
だが順調に良いところが出たのはそれだけ。山から撮り下ろした風景と、それを紹介する千歌先輩の動画を撮ってから先が進まない。というか、みんな動画に映る気が無いようで、それなら撮影協力の私の存在意義がない気がする。
「では私はここで失礼します」
「今日は早いね」
「はい。今日は」
山から下山し、私は詳しいことを言わずにみんなに別れを告げた。だって下山中に自転車で沼津や伊豆長岡商店街に行こうとか不穏な事を言っているのだ。流石にそこまでトライアスロンするつもりは無い。
私は海沿いを歩きながらポケットからハーモニカを取り出そうとして、やめた。もう音楽はやらないと決めたのだ。
まるで禁煙し始めたヘビースモーカーのような気分だ。今まで私が如何にハーモニカに頼っていたのか、好きだったのか改めて思い知らされる。
思わず舌打ちして私は早足で歩く。
コンビニ、コンビニだ。せめて飴ちゃんかアイス。うん、アイスがいい。ガリガリ様だ。埼玉県民御用達のガリガリ様。
「あれ?ガリガリ様?」
「そんな極端に痩せてないよ」
ガリガリ様、ガリガリ様と唱えながら歩いていたせいか、スポーツドリンク片手にコンビニから出てきた果南さんを呼び間違えてしまった。
果南さんは苦笑いして許してくれたから助かった。
「久し振りだね」
「ご無沙汰してます。今日はお店は?」
「予約も無いし、平日だからそうそう人は来ないからね。店頭に張り紙して買い物だよ」
ダイビングショップに思い立ったが吉日で行くような人は恐らく千歌先輩達くらいのものだろう。短時間であればなるほど、少しくらいなら店から離れることも出来るか。
「聴いたよ。千歌達とライブしたんだって?」
「もう知ってるんですね」
「狭い地域だから」
「なら学校が統廃合になることも」
「知ってるよ。実は噂だけならもっと前からあったしね」
「そうだったんですね」
立ち話も何なので私は果南さんとダイビングショップに向けて歩きながら話をした。
「学校が無くなるのってどんな感じなんでしょうね。正直今までそんなスケールの大きな事態に遭遇したことなくて、頭では分かってるのですがあまり実感が湧かないんですよね」
「私は、うん。学校を休学する時の感じ。それが近いのかも。うんと近くにあるのに、でも行けない。みんなと同じ時間を過ごしたいのにどんどん時間がズレてく。そんな感じかな」
以前聴いた話では果南さんはダイビングショップを営む父親が骨折してしまったことでやむなく休学し店を営業しているとのことだ。それを聴いた時、自分と同じように父親に振り回されてしまった果南さんには親近感を覚えたものだ。
「でも、廃校になるのもしょうがないかなって、思う気持ちもあるんだ。だって、ここには。ここには」
果南さんは言葉を止め遠い目をする。その様子に私は驚きを隠せないでいた。だってその目は見たことがあるからだ。他でもない、私自身のしている目だ。
何故果南さんがその目をするのか?一体なにがあったのか?何故果南さんみたいな人がそれを乗り越えていないのか?私は問いただそうとして口をパクパクさせてしまった。
何を言えば良い?どう踏み込めば良い?
聴かれるのを恐れ、踏み込まれることを拒んだ私にはそれが分からない。
「店まで付き合ってくれてありがとう。何か飲み物出してくるからちょっと待ってて」
そうこうしている内にダイビングショップに到着し、気を取り直した果南さんは店の中へと駆けていった。
私は遂に、その背中に言葉を掛けることはできなかった。