ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
翌朝、我らが浦の星女学院のお膝元である内浦の砂浜にやってくると、そこには沢山の人がいました。
「この街ってこんなに人が居たんだ」
「うん。街中の人が来てるよ。勿論学校のみんなも」
驚いた表情で梨子先輩が砂浜に集まった人達を見渡した。私も同様の気持ちだ。確かにAqoursのファーストライブの時も人が集まったが、あれはこの内浦の人のみでは無い。
打って変わって今日来ているのはこの内浦の住人と浦の星女学院の生徒だけだ。それでも数百人はいる。普段学校の行き来やご近所との付き合いしかしていないため過疎の進んだ集落のイメージを持っていたが、まだまだ人が居るではないか。
よし、今日は終わったらラジオ体操を演奏しよう、と反射的に考えてその思考を放棄した。私はもう音楽はやらないのだ。
「毎年やってるんですか?」
「そうだよ。だってこの海に来てくれた人に、内浦がいいところだってそう思って欲しいもん」
「私達だけじゃない。この街のみんなそう思って集まってる」
海無し県から来た私にとって海はまだまだ馴染みの薄い場所だが、見る度にちょっとした感動を覚えるのは事実だ。その大きさに目を奪われることはしばしばあるし、天気の良い日の海は本当に輝いて綺麗だ。その果てしなさを前にすると世界の広さを実感する。
私はまだ新参者だからそう感じるがここで育った人にとってはきっとそれが普通なのだろう。もしかしたら普通だからこそ、その存在感の大きさに気付いていないかもしれない。だが、共通して大切であると認識しているのはその存在感ゆえだろう。
私はふとあることを思った。
「これなんじゃないかな。この街や学校の良いところって」
梨子先輩もまたそれに気付いたようでそう口にした。だが、梨子先輩だけじゃない。千歌先輩も曜先輩も頷いている。
曜先輩は一年生組を呼んでこのことを話すと同意を得たようで、千歌先輩はそれを見て浜辺に設置されている監視員用の演台に上ると今日ここに志を共にして集まったみんなへと語りかけた。
「あの、みなさん。私達、浦の星女学院でスクールアイドルをやっているAqoursです。私達は学校を残すためにここに生徒を沢山集めるために、皆さんに協力して欲しいことがあります」
千歌先輩は本当に凄いと思う。すると決めたらする。単純なようで一番難しいことを彼女は平然とこなすのだ。普通星人を自称しているが私は千歌先輩を普通だと感じたことは無い。
「皆の気持ちを形するために」
その一言は力強く、聴いてるこちらは不思議とやってみようなと思うような響きがある。
これだ。私が音楽をしないと決めても尚、スクールアイドル部の活動に協力してしまうのは。
私は千歌先輩に魅せられているのだ。多分最初に声を掛けられた時から今日に至るまで。
音楽が好きであることを曲げられなかった私には、沼津に来てその中でも小さな内浦でスクールアイドルをする彼女の真っ直ぐさが眩しかった。みんなと楽しそうにしている姿に憧憬したこともあった。彼女が作ったAqoursは私が中学時代に夢見たものに酷似していた。だから私はその夢を側から見たくて離れる事が出来なくなっていた。
音楽をやらないと言いつつAqoursの音楽活動に協力するのを止められない。
私は自分の中で一区切り付いた気になっていたが、まだまだ私は乗り越えられていないようだ。
千歌先輩の演説に多くの人が協力すると申し出ている。私はそんな姿を傍らでただ見守っている。きっといい動画が撮れるだろう予感を胸に。
この街は皆が同じ想いを持っている。その大切な想いのためならば街が総出で頑張れる。それがこの街の良さだ。勿論、最初に思い付いた景色の良さなんかも魅力的であることに変わりはない。
それらをふんだんに盛り込んだ新曲のPVを作ることとなったのだ。みんなで、という響きはどこかμ’sを彷彿とさせる。
「で、作るのは分かったんですが一週間って何ですか?」
「いやー勢いと言いますか」
千歌先輩は相談もなくまた突っ走った結果、海開きから一週間後に撮影することとなったのだ。
まだコンセプトしか決まっていないと言うのにだ。
「大丈夫。メロディーはもう出来てるから」
梨子先輩が苦笑いしながらフォローしているが、こめかみな青筋が立っているのは気のせいだろうか?
「歌詞は?」
「どんどん浮かんできてる」
うん。これは怒っていいところですよ、梨子先輩。
実質まだ曲は出来ていない。曲が出来ていないならムービーだってどんな画を撮るのか決まらない。先行き不透明にも程がある。
さて、何で部外者の私がこんな事を言うのかといえば、振り回される事が目に見えているからだ。いや、私が協力を拒否すればいい話なのだが、それではみんなでという大前提が崩れてしまう。
「千歌ちゃんじゃないけど、なんか出来る気がしてきたんだよね」
曜先輩もまたお馴染みの敬礼ポーズでそんな事を言う。見ればルビィちゃん達もまた同じ様に頷いている。
この街の良いところを自覚して吹っ切れたというところなのだろう。今ならどんな事も出来る。そんな顔だ。
「分かりました。必要ならパシリでもなんでもしますから声掛けてください」
「じゃあ早速」
「もうですかっ」
「今日の放課後、部室に集合で」
それではまるで部員みたいではないか。
そうじゃないんですよ先輩。私はそうしちゃいけないんです。だというのにそんな風に楽しそうに誘われては断れないじゃないですか。
「わかりました」
こうして私はまたもやスクールアイドル部の活動に協力することとなった。