ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
東京行き当日、私達は千歌先輩の家の前で集合し、千歌先輩のお姉さんが出してくれる車に同乗することとなっていた。ちなみに善子ちゃんと曜先輩は沼津駅前で合流することとなっていた。
私はどちらでもよかったのだが、いかんせん時間が早いのでお邪魔することとなった。
「おはようございます、早いですね」
「直ぐ隣だもん」
私は千歌先輩の自宅である旅館、十千万屋の前に着くと、既に到着していた梨子先輩に挨拶した。
東京に行くため服装に少し気合いを入れてしまった私とは打って変わって、梨子先輩は気張らない何時も通りな感じだ。ピンクのサマーセーターがホームグラウンド感を醸し出している。流石は元東京民。埼玉出身の私とは違う。
「そのパンプス可愛いね」
「いえいえ、梨子先輩の可憐さには敵いませんよ」
「何言ってんの。それより今日は無理言ってごめんね」
「いえ、私も東京で迷ったことありますから心配する気持ちは分かりますし、みんなが暴走しだしたら収集つかなくなるでしょうから」
「なんだか段々行きたくなくなってきたわ」
頭を抱える梨子先輩に激しく同意である。そんな雑談をしていると暴走したら止まらなそうな千歌先輩が玄関から出てきた。
「見て見ーーー」
「見るに堪えません」
何故買ったのか、そもそも何処行けば買えるのか不明なド派手なテカテカした服を着た千歌先輩の両肩を持つと強制的に回れ右をさせて背中を押した。いや、本当なら背中を蹴っても良かったかもしれない。蹴りたい背中ってやつだ。
「もー何するの」
「お上りさん丸出しの方がまだマシですよ。気合い入れすぎて完全に外してますから」
「あの」
「何」
私の言葉を遮る声に振り向くとそこにはなにやら絵本の王子様みたいな格好のルビィちゃんと探検家だか掘削作業者だかよく分からぬ格好をした花丸ちゃんが居た。
「どうでしょう。ちゃんとしてますか?」
「これで渋谷の険しい谷も大丈夫ずら?」
「梨子先輩。私帰って良いですか?」
「お願い。私を一人にしないで!」
出だしから想像を超える暴走っぷりに私は帰りたいと思う反面、梨子先輩の要請は正しかったなと納得した。
「梨子先輩。時間設定を早めにして正解でしたね」
「みんな今すぐ着替えてきなさい。東京以前の問題よ、その格好は」
最近梨子先輩に切れキャラになりつつある気がするが、これに関しては致し方ない。
「みんな東京馬鹿にすんな」
「なに地元人みたいなこと言ってんの。あなた埼玉っ子でしょ」
てへペロ。いや確信犯だからゲヘベロかな。
みんなはどんな格好が妥当なのか頭を悩ませながら走って散会した。地元で着ない服は都内でも着ない。これお出掛けの基本です。
沼津から東海道線に乗り東京までは約2時間の旅。新幹線を使うルートもあるが、運賃が倍になるためのんびり普通の鉄道の旅だ。大人の週末旅行と似ている。
みんなは余り遠出はしないようで窓から外の景色を眺めて目を輝かせている。私はと言えば今日もまた読書に勤しんでいる。
「何を読んでいるの?」
「少女地獄。夢野久作の作品だね」
読書好きの花丸ちゃんは私の読む本が気になるようで表紙を見せて答えた。
ちなみにだが、私は本にブックカバーは掛けない派である。第三者が私の読む本に興味を持ったときにその本がなんなのか分かるようにしたいからだ。言わば宣伝用だ。やはり自分の趣味・趣向は広めたいのだ。
「日本三大奇書の人だね」
「そうだね。でもドクラ・マグラよりは遙かに読みやすいよ」
夢野久作作品において恐らく一番有名なのがドクラ・マグラだが、あれは私には無理だった。一応は最後まで読み切ったが、良く出来ているとしか言えない。まだまだ読み解けていない部分もあれば内容も頭に入りきっていないが、もう一度読む気力が出ない。時代も幾分昔なため表現が難しいことや物語の進み方も難解なのだ。
「時代背景については私の憶測だけど、きっとまだ人の精神についての研究とかそんなに進んでいない時代に人の心の作用とかそういうのを題材にして掘り下げられるのは凄いと思ったよ」
「その少女地獄は?」
「これはそうだね。短編が幾つかあるんだけど、表題作についていうなら嘘つきの話かな」
「嘘つき?」
「そう。やむにやまれぬ事情があるとかそんなんじゃなくて、性分として嘘をつかなくては生きていけない、そんな人の話」
始めて読んだときはしょうもない奴だと思っていたが、今読み返してみると、この作品の嘘つきと私にどれ程の差があろうかと思ってしまう。もちろん私は嘘つきの性分など持ち合わせていないが、私の嘘に被害を受けた人がいる、それは揺るぎない事実である。また、この作品の嘘つきも私も自分の事を第一に考えて嘘を吐いているのどから違いなどほぼない。
「星ちゃん?」
「ああ、ごめん。とにかくそんなしょうもない奴の話しだよ」
また自己に埋没してしまい花丸ちゃんに怪訝な顔をさせてしまった。他の面々は景色見たりお菓子食べたりしながら喋っているためこちらの様子には気付いていないようだ。
「花丸ちゃんもお勧めの本があったら教えてね」
「うん。ねえ、星ちゃん」
「何?改まって」
「星ちゃん最近よく読書している姿を見るけど、ハーモニカはどうしたの?演奏してる姿も音も全然聴かないけど」
いい加減私への違和感が誤魔化せなくなってきたようだ。だが、この東京行きがもしかしたら私の転換点になるかもしれないのだ。もう誤魔化すのではなく向かい合わなくてはいけないのではないか?こうして心配してくれる仲間のためにも。
音楽をやめる。たったの一言だ。
「私はもう」
そのたったの一言が何故こうも重いのだろうか。
「ううん。何でも無いずら」
「東京に行ってる間はずらは禁止してるずら」
「今言ってたよ」
「ずっ、はぅう」
私の不鮮明な回答に花丸ちゃんは納得していない顔をしながらもそれ以上の追求は無かった。