ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
みんな色々と抱えている。それは過去であり、今であり、未来のことだ。当たり前だ、生きているのだから何も抱えていない人など居ない。
Aqoursは今という壁を抱えている。私は過去を抱えている。そしてダイヤさん達もまた私と同じだった。
問題は山積みで何一つ解決しないまま今日という一日は終わってしまった。
午前0時、私は部屋のベッドに横になりながらも気分が晴れず寝付けなかった。昨日も余り眠れなかった筈なのに眠気が来ないのは重傷だ。別に暑くて寝付けない訳では無い。それだけ東京行きが精神的にしんどかったということだ。
もしかしたら昔の相方に会うかもしれないと戦々恐々としながらも、やけっぱち気味にそれを覚悟しての東京行きだった。結果的に私が昔の相方と会うことは無かったが、過去の一端をみんなに知られてしまった。別の問題が出たからそれも一時保留となったが、いよいよみんなに本当の私を語るときが近づいていると思うと膝が震える思いだった。
みんな優しい人だから私の過去を知っても軽蔑したりしないかもしれない。だが、そんな都合の良い考えで安堵できるほど私は脳天気ではない。それだけ私のしたことは罪深い。
もしかしたらみんなと友達でいられなくなるかもしれない。それがなによりも怖い。
「考えても仕方ないけどさ」
なるようにしかならない。それしか無いのだ。何とか出来る時はとうの昔、沼津に来る前に過ぎ去っているのだ。私にできることはもうない。だから今は私のことよりもどうかなる方が優先されるべきだ。具体的に言えばAqoursのことだ。
私は太陽のような彼女達がAqoursとして活動を継続して欲しいと願っている。これは私の後悔から来る願望であることは自覚している。だけど私は見てみたい。Aqoursが夢を追う姿を。輝く姿を。そして追い続ければ何時の日か夢は叶うのだと。
だが、どうすればいいのだろうか?千歌先輩の今日の様子は他人がどうにかできるものとは思えなかった。事実、千歌先輩の親友の曜先輩の言葉さえ今日の千歌先輩には届いていなかった。
「駄目だ眠れない」
モヤモヤする頭を振って私は仕方なくベッドから体を起こし、テレビを付けた。以前ならばラジカセからラジオを聴くか何か音楽を再生しているところだが、そうすると自分が演奏したくなるため最近はラジカセも付けていない。ラジオも埼玉に居たときと違いNACK5も聴けないため余計にだ。
テレビを付けると丁度映画をやっていた。007シリーズでも近年の作品「007 スカイフォール」だ。
六代目のジェームズ・ボンドことダニエル・クレイグの007だ。
ジェームズ・ボンドは今まで超人的に演じられていたが、ダニエルの演ずるジェームズ・ボンドは超人ではあるが、悩んだりするのが非常に新鮮だ。等身大で現代的なジェームズ・ボンドと例えたら分かりやすいかもしれない。
この「007 スカイフォール」はそんな等身大のジェームズが描かれたシリーズの三作目になる。
私は007シリーズは全部見たことがあるからこの作品もまたストーリーを知っている。この作品ほど人と人との繋がり、想いを描いている007シリーズは無いというのが私の感想だ。
信じている人の背信。信じたい想い。歪んだ想いが交錯するこの作品は今の私には毒だ。だが一度見始めるとどうにも止まらない。
映画を見ながら私はあることに気付いた。私にとって千歌先輩はジェームズ・ボンドだったのかもしれない。それも六代目以前のだ。文字通りの意味ではなく、超人的という意味だ。
魅力的で、無茶もするけど何とかしちゃう、壁があっても飄々と乗り越えちゃう、そんな人だと私はいつの間にか思っていた。運動神経なら曜先輩、音感ならば梨子先輩と、千歌先輩よりも能力的に優れている人はAqoursに居るがそれでも千歌先輩が凄いと決めつけていた。
もちろん千歌先輩が魅力的であるのは事実だ。明るい笑顔も、良い意味でみんなを巻き込む力も、それでいてみんなへの配慮を忘れない思慮深さがあるのは魅力的なところだ。だが、そこに盲目的なフィルターが掛かっていたのではないだろうか?
私が今日、千歌先輩に対して憤りを覚えた理由がようやく分かった。私は彼女に余りにも期待し過ぎた。多くを求めすぎた。
なんて理不尽なのだろうか私は。千歌先輩だって悩みもすれば落ち込みもする。足踏みだってするのだ。だというのに私は千歌先輩の悩みを聴いたのか?弱気を引き出したのか?等身大の千歌先輩を見てあげたのか?何一つできていないではないか。
謝らなくては。元気付けなければ。力になってあげなくては、と想いが溢れてくる。
会いたい。先入観や期待感で無意識に脚色していた千歌先輩ではなく、そのまんまの千歌先輩に。
会って話したい。そして聴きたい。千歌先輩の本音を。東京のイベントが始まる前の日の夜、千歌先輩が梨子先輩に語っていたように、私も千歌先輩から聴きたい。
そんな想いとは裏腹に、急に襲ってきた眠気に私は抗えず、テレビを付けたまま深い眠りの中に落ちていった。