ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第四十三話

 朝。太陽がまだ昇らない時間に私は目覚めた。起きた時、枕が涙で湿り気を帯びていた。それは涎なのか涙なのか判別はできないが、乙女心的には涙であって欲しい。兎にも角にもするべき事が分かったからなのか凄く体が軽かった。

 私はシャワーを浴びて外に出ると千歌先輩の家に向けて歩き出した。先行きが不安になるにわか雨が降っているが、それは今の私を止める理由にはならない。

 海沿いの道を歩くと水平線に向かって海を進む船が見えた。こんな天気でも船は負けずに今日も仕事に行くのだ。力強いことこの上ない。

 そういえば曜先輩は将来は船長になりたいらしい。曜先輩も船の力強い姿に魅力を感じたのかもしれない。そんなことを考えていると思わず笑ってしまいそうになる。私はみんなの知らないところばかり気にしていたけれど、こうして知っているところもあるのだ。なんてことない筈のそれが無性に嬉しかった。

 パラパラと地面を叩く雨のオーケストラをBGMに黙々と歩いていると、道の先には息を切らせて走る曜先輩の姿があった。その速度はもはや歩く速度と同じ程度にしか出ていない。逆に言えばそれだけ長く走っていたということなのだろう。

 

「曜ー先ー輩、おはよーそろー」

 

「星、ちゃん、こんな時間、に、どうしたの」

 

「曜先輩と同じです」

 

 私は大きい声で呼び止めて早足で曜先輩に追い付いた。

 

「千歌先輩に会いに行くんですよね、お供します」

 

 曜先輩は安心したからなのか、はたまたただ乱れた呼吸を戻そうとしたのか大きく息を吐いた。

 

「千歌ちゃんを、あのままにはしておけないよね」

 

「はい」

 

 私達はお互いに真面目な顔をしていたが同時に笑い出してしまった。こんなに同じ事を考えているなんて嬉しくて笑えてしまうのだ。

 

「でも、私達も大概ですね」

 

「何が?」

 

「こんな朝早く千歌先輩のところ行くなんて」

 

「う、確かに。でも千歌ちゃんなら起きてる気がする」

 

 その確信に近い予感は実は私にもあった。というか起きてる以前に寝れてないのではないかと思う。よく見れば曜先輩の目の下にも薄らと隈ができている。きっと千歌先輩だけじゃなくみんなそうなんだったと思う。

 

「星ちゃーん」

 

 私を呼ぶ声がしたと思うと、3ケツした自転車が私達を追い抜いて止まった。

 自転車は善子ちゃんが漕ぎ、その荷台に花丸ちゃんとルビィちゃんが座るという鬼畜使用。最低限の配慮なのか、善子ちゃんの物と思われる傘を花丸ちゃんが差している。これは優しさと捉えていいのか悩みどころだが。

 色々とツッコミたいが、余裕で交通ルール違反をしているのはどうしたものか。

 

「おは善子」

 

「だからヨハネよっ」

 

 肩を激しく上下させつつもツッコミを入れる当たり拘りを感じる。

 

「二人とも傘に入れてあげるから自転車から降りなよ」

 

「ありがとう」

 

「三人ともどうしたの、こんな無茶な走行して。盗んだバイクで走り出したくなった?」

 

「オラ盗んでないずら」

 

 花丸ちゃんに振っておいてなんだが、花丸ちゃんの発言は字面で見ると胡散臭いことこの上ないと思えるのは新しい発見だ。

 

「もう。真面目に話そうよ」

 

「ごめん。みんなも千歌先輩に会いに?」

 

「うん。私、昨日は気持ちを整理するだけで精一杯だったけど、今はスクールアイドルを続けたいって思うからそれを伝えたい」

 

 昨日のルビィちゃんは正直に言えば精神的にコテンパンにやられていた。ルビィちゃんの憧れていたスクールアイドルになって、一生懸命練習もして、それでも評価されなくて。たぶん悔しかったと思う。だけどルビィちゃんはその悔しい気持ちを真っ直ぐ受け止めて次に繋げたいと結論を出したのだ。

 脱帽だった。人のことを気にして中々自分の気持ちに素直になれなかったルビィちゃんが自分の気持ちと向き合い、自分でこの結論に至ったことに。

 私はルビィちゃんを見直した。ルビィちゃんはスクールアイドル活動をしてから確実に成長している。

 

「オラ、スクールアイドルなんて向いてないって、出来っこないって思ってた。でもやってみて楽しかった。もっとやりたいって思えた」

 

「東京の大きなステージに立った時、ドキドキした。逃げ出したくもなったけど見に来ている人達の顔が見えた瞬間、楽しんで欲しいなって、そう思った」

 

 みんなもう気持ちの整理はついた。そして奇しくも目指す方向は同じだった。それがなによりも尊い選択だと思う。その輪の中に自分が居ないことを嫉妬するくらいに。だが、今はその感情はみんなとは関係の無いことだ。

 

「じゃあ行こうか。千歌先輩もきっと同じ結論が出ていると思うし」

 

「うん。でも、一人で考えてたら結構キツかったから、みんなで支えに行こう」

 

「じゃあかっ飛ばすわよ」

 

「自転車はいいよ。押して行こう」

 

 幸いにも段々と雨脚は弱くなりつつあったため、私達は歩いて千歌先輩の家へと向かった。

 昨日までの陰鬱な表情はみんなにはなかった。圧倒的な敗北感を得たことが逆に起爆剤となったのだろう。今のみんなには昨日のイベント以前よりもどこか頼もしさを感じた。芯が通った感じだ。それが私には嬉しくもあり、取り残されたような寂しさもあった。

 

「あれ?梨子ちゃんじゃない?」

 

 遠目だが千歌先輩の家の前に位置する砂浜が視認できる所まで来ると、砂浜には梨子先輩が居り何やらキョロキョロと周囲を探している様子だ。

 

「千歌ちゃーん、千歌ちゃーん」

 

 海に向かって呼び掛けた声を聴き私達はただ事でない気配を感じ取ったが、それは杞憂に終わった。すぐに千歌先輩が海から出てきたのだ。

 いや、疑問は残っている。そもそも私服のまま海に潜るなんてどうかしているのだ。いくら海が近い地域だからといって私服で行水する文化はない。

 きっと千歌先輩も梨子先輩もみんなと同じなんだと思った。

 悔しくて、どうしたいか見つめ直して、答えを出して、それでも晴れない気持ちを水に流そうとした。心の洗濯をしたかったのかもしれない。無性に雨に濡れて帰りたくなる、そんな気持ちに似ているのかもしれない。

 千歌先輩は梨子先輩に背中を向けたまま何か会話をしていた。遠くて殆ど内容は聞こえなかったがただ一つ、気紛れな海風が私達に千歌先輩の声を届けてくれた。

 

「くやしいじゃん」

 

 私は、いや私達はその言葉を待っていた。東京のイベントで敗北感に打ちのめされ、それでも必死に自分の感情を押し殺す千歌先輩が痛々しかった。いつも感情に素直な千歌先輩が悔しさを我慢している。それが嫌だったし、気にしてないとでも言うような軽口が似合わなかった。

 何で本音を言ってくれないのか?何で強がるのか?何で弱い姿を見せてくれないのか?何で、何で、と苛立ちもした。

 そんな感情が千歌先輩の心からの一言で全て氷解した。ああ、やっぱりみんな同じ気持ちだ、と。

 

「千ー歌先ー輩」

 

 千歌先輩達の居る浜辺の近くまで来ると私達は呼び掛けて駆け寄って、大泣きする千歌先輩を私達みんなで抱きしめて一緒に泣いた。

 悔しい気持ちを水に流そう。そしてここからはじめよう、みんなで。

 

「今から0を100にするのは無理だと思う。でも、もしかしたら1にすることは出来るかも。私も知りたいの、それが出来るか」

 

 STEP ZERO TO ONEそれが合い言葉になったのは後から思えばこの時からなのかもしれない。

 

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