ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
私は果南さんと別れた後、千歌先輩の家でみんなと落ち合った。みんなは練習後なのか旅館の待合スペースで寛いでいた。善子ちゃんに至っては横になっている。いくらなんでも人の家で寛ぎ過ぎな気がする。
「いらっしゃい、星ちゃん」
「これ食べるずら?」
もぐもぐと棒状の菓子パンを食べている花丸ちゃんが駆け付け一杯にと私に同じ菓子パンを差し出してきた。そこはお茶じゃないのかと思いつつ 反射的に受け取ってしまった。
これは県民遺産に名高いのっぽパン。それも最近限定販売した塩キャラメルのっぽだ。キャラメルソースの甘さを僅かに加えられた塩で更に増し、その甘々ソースをパンが中和してバランスをとった一品だ。
なかなかどうして、うん。美味い。
「ってそうじゃなくて、話しがあるってルビィちゃんから聴いてないの?」
「聴いてるよ。でも、そんなに力んでると、上手く話しもできないんじゃないかと思って」
「そんなに私変だった?」
「うん。戦場に行く兵士みたいな顔してたずら」
私はほっぺたを擦ってみるが特別引き攣っている感じもない。もしかしたら鎌を掛けられたのかもしれないが、だとしてもそれはきっと花丸ちゃんが私のことを心配した上でのことだ。気遣い上手の花丸ちゃんらしい。
「改めまして、今回私が話したかったのは、先輩達のことです」
「私達のこと?」
私の言葉を勘違いしたのか曜先輩が首を傾げている。
「語弊がありました。ダイヤさん達最上級生のことです」
「こないだのダイヤさんの話しのこと?昔スクールアイドルやってたっていう」
「そうです。みんなその話しを聴いて思いませんでしたか?何故現在の三人はスクールアイドル活動をしていないのか」
私の詮索するような言葉に反応したのは梨子先輩だ。
「それは気になるけど、掘り起こしていいものなの?知られたくない過去は誰にだってある。それは星ちゃんが一番良く知っているんじゃないの?」
ふと東京のイベント前夜の梨子先輩と千歌先輩のやり取りを思い出す。
梨子先輩も隠している訳では無いが抱えている過去がある。それを他人に興味本位で詮索されるのは面白くないと思うのは普通のことだろう。
更に言えば、私自身もまた同類だから分かるだろうと釘を刺された。詳細は語っていなくても梨子先輩、いや、皆は私の過去に何か秘密があることを察しているのだろう。
「だからこそです。私は過去の苦い経験から今の三年生の三人は危ういと感じたんです」
「危うい?」
「はい。どうにも三人は意思統一して活動休止している訳ではなさそうだと思うんです。それが危うい。抱えている想いがありながらそれを隠すことがどんな結果になるか、想像してみてください」
現時点ですらかなり危ういバランスの上にいると思う。どちらかの想いが走り出してしまったら、どう転ぶかわからない。いや、今の頑なな果南さんの様子を鑑みると、その頑なさの理由が分からない限り和解はないと思う。
「星ちゃんは何で果南ちゃん達に仲直りして欲しいの?」
「今言った通りなんですが?」
「そうじゃないよ。でもまぁ私も疑問に思ってたことだし、果南ちゃんに話してみるよ」
千歌先輩が私に投げ掛けた言葉が些か引っ掛かったが、どうにか協力して貰えることとなった。
「そう言えば千歌先輩は果南“ちゃん”って呼ぶんですね」
「幼なじみだからね」
果南さんもいつしか同じ様なことを言っていた。
目と鼻の先に自宅があり、歳も近ければ必然的に付き合いも生まれる。ちゃん付けで呼んでる所を見ればかなり親しい仲だと思われる。
「と言うか、千歌先輩何か聴いていなかったんですか?」
「んー、果南ちゃんって自分のこと余り喋らないからなー」
千歌先輩は腕組みして考えるが心当たりは無いらしい。だとすれば他に何か知っていそうになのは、
「ルビィちゃん。ダイヤさんから何か聴いてないの?」
「えーと、それはですね」
「なんでそこで立ち上がるのかな、ルビィちゃん?」
「べべ、別に逃げようとかそんなこと思ってないよ」
「善子ちゃん」
「了解」
「ピギィイイイ」
そわそわとするルビィちゃんと善子ちゃんが羽交い締めにして確保。哀れルビィちゃんは囚われの身だ。
ルビィちゃんも良い反応をしてくれるから実に弄りがいがある。
「で、ダイヤさんから何か聴いてないの?」
「スクールアイドル活動をしてた時期は忙しそうにしてたけど、ある日ぱたっとそれがなくなったの。それで聴いてみたら東京のイベントで上手くいかなかったって。それからスクールアイドルの話しは殆どしなくなっちゃって」
「こないだダイヤさんが話したこと以上は不明ってことね」
「うん。でも、鞠莉さんが学園長になってから家に来たことがあったんだけど、お姉ちゃんが鞠莉さんにこう言ってたの。逃げたんじゃないって、だから果南さんにも逃げたなんて言わないでって」
逃げたわけでは無い。それは果南さんか言った嫌になったという理由とは噛み合わない気がする。だとするなら他に隠された理由があり、尚且つそれはダイヤさんと果南さんとで共有していることになる。鞠莉学園長にだけ隠して。
「結局当事者に聴かないと分からないね」
「うん。でも、難しいかも知れませんね」
果南さん達の関係を壊してはならない。その大前提を守らなければ意味が無いのだ。
結局この後、みんなであれこれと話したが妙案が浮かばず、千歌先輩がそれとなく聴いてみる、と言う流れになり解散となった。
「星ちゃん、今日時間ある?」
私は千歌先輩の家の玄関を出ると唐突に梨子先輩が尋ねてきた。どう考えても話したいことがあるという雰囲気である。
「大丈夫ですよ」
「じゃ、カラオケ行きましょう」
「はい?」
「よっちゃんも行くわよ」
なんだか意外な申し出に意図を掴めないでいる私を余所に、梨子先輩は善子ちゃんを誘っていた。因みに善子ちゃんと梨子先輩はお互いを時偶よっちゃん、リリーと呼び合っていたりする。
「じゃあ行きましょうか」
梨子先輩、善子ちゃん、私という中々珍しい面子で私達は沼津駅前に繰り出した。