ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
教室に着いた時には花丸ちゃんもルビィちゃんも善子ちゃんも一人も欠けることなく居た。一先ず寝坊が居なくてホッとしたが、ルビィちゃんはうつらうつらと船を漕いでいる状態だった。
「今日二回目だけど、おはよ。ルビィちゃんは眠そうだね」
「うん。バスの中で少し寝たんだけど、変な夢見ちゃって」
「私の呪文で良い夢見れたかしら?」
「ずっと善子ちゃんが耳元で囁いてずら」
何やってだか、と苦笑しながら私は自分の机にバッグを置いて三人の輪に合流した。スクールアイドル部ではないし、他のクラスメートとも関係は良好だが。なんだかんだでいつも連むのはこのメンバーだ。
「さっきダイヤさんと会ったよ」
「お姉ちゃん何か言ってた?」
先程のやりとりで交わした言葉はそれほど多くない。少し質問をされてそれに答えただけ。言ってしまえばそう纏まるのだが、纏めてしまうとその時の言葉以上のやりとりが伝わらない。だけど果たしてそれはルビィちゃんに言うべきことなのか?自分で話題を振っておきながら私には判断が付かなかった。
「朝の挨拶はダイヤッホーですわ、だってさ」
「お姉ちゃん、熱あるのかな」
「インフルビィだね」
「それより、今朝のこと。ダイヤさんと話したの?」
「いや、話せないよ」
朝の果南さんと鞠莉学園長のやりとりを鑑みると、復学届を出した以上果南さんは今日から登校するだろう。
私達は揃って上階の三年生のことに思いを馳せて天井を見上げた。昨日の今日どころか今朝の今という短い間隔での再会となる訳だが、大丈夫だろうかと。
「ちょっと様子見に行かない?」
「え、でも用も無いのに上級生の階に行くのはちょっと」
「全校生徒で100人に満たないのに細かいこと気にしなくていいの」
朝のホームルームまでまだ時間がある。私は三人の手を引いて三年生のフロアに歩みを進めた。
今朝のダイヤさんとのやり取りで何か核心的な事を言われたわけでは無い。だが、確実に事態が動きそうな予感だけはあった。最悪な想定などしたくないが、もしも人手が必要な流れになったしまった場合、私がそこに立ち会っていない事態は避けたい。
私達は階段を登って行くと、その先を見慣れた背中が駆け上がっていた。曜先輩と梨子先輩だ。
「どうしたんですか?それに千歌先輩は?」
「ベランダに居たら上の階からこれが落ちてきて」
「それに妙に騒がしいのよ。千歌ちゃんは先に行っちゃったから私達も追い掛けてたの」
騒がしさは階段を上り始めた頃から何となく感じていた。
曜先輩が手に持っているのは水兵服をテーマに作成されたような衣装だった。当然ながらAqoursの活動で作成されたものではない。ならば消去法でそれはかつてスクールアイドルだった彼女達しかいない。
本当に事態が動き出したのだろう。私達は頷き合い、階段を駆け上がった。みんなが居れば最悪な事態を回避できるかもしれない。居なければその可能性すら0になるのだ。
1秒でも速くと私達は三年生の教室に行くと、教室の入り口には人集りができていた。そして姿は見えないが教室の中からは聞き覚えのある声が激しい口論を繰り広げていた。
「離して。離せっていってるの」
「良いと言うまで離さない。強情も大概にしておきなさい。たった一度失敗したくらいで何時までもネガティブに」
「うるさい。何時までもはどっち?もう二年前の話しだよ。大体いまさらスクールアイドルなんて。私達、もう三年生なんだよ」
「二人ともお止めなさい。みんな見てますわよ」
「ダイヤもそう思うでしょ?」
「やめなさい。いくら粘っても果南さんが再びスクールアイドルを始めることはありませんわ」
「どうして?あの時の失敗はそんなに引きずること?千歌っち達だって再スタートを切ろうとしているのに何で?」
「千歌とは違うの」
「鞠莉には他にもやるべき事がたくさんあるでしょ」
どうやらダイヤさんもまたその口論に加わっているようだ。しかもあの口ぶりからすると果南さんがスクールアイドルを辞めた理由を知っているようだ。
だが、強硬手段に出た鞠莉学園長を前に果南さんは頑ななままだ。
お互いに腹を割って話せば妥協点がある筈だ。なのにそれをしないということはどちらかに後ろめたい理由があるのだ。話すことのできない理由が。そして、果南さんの事情をダイヤさんが知っているというのならその二人こそが鍵を握っていることになる。
このまま平行線な口論して、お互いにわかり合うことができないで彼女達は良いのだろうか?仲が悪い訳でもないのに秘密を抱えて、このまま最後の高校生活を終えるのか?その後悔を抱えたまま人生を過ごすのか?
そんなのは悲しいし辛すぎだ。かつての三人がどのような関係であったのかは見たことがないから分からない。でも、きっと輝いていただろうし、希望に満ちていた筈だ。それは素敵なことで尊いものだ。絶対に失ってはいけない宝物だ。
ここで彼女達を終わらせてはいけない。私はその思いに突き動かされて人集りを掻き分ける。こうなったら殴ってでも彼女達の口論を一度止めなければならない。
だが、私の想いはやっぱり大局に影響を与えないらしい。
「いい加減にしろっ。なんかよく分からない話を何時までもずーとずーと。隠してないでちゃんと話しなさい」
私達の誰よりも速く駆け付けていた千歌先輩が一喝したのだ。
口論はそれで一度止まり、そのまま場を掌握した千歌先輩により放課後に話し合いが行われる事となったのだ。
その威風堂々とした姿はAqoursが作成したが、まだレコーディングしていない“Aqours HEROS”のように頼もしかった。