ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
午前の授業は正直上の空だった。というか、半分は寝ていた。単純に早起きしたから眠かったこともあるが、朝の騒動の時に入れた気合いが、今になって変な形で抜けてしまったのだ。
そのせいなのか授業中の居眠りにも関わらず懐かしい夢を見た。中学時代の夢だ。
夢の中の私は相方と共に二人きりの教室で語り合っていた。
夕暮れのオレンジ色と影の黒色が見事なコントラストを描く綺麗な黄昏時、なんてことはなく、普通に照明を付けて色気の無い白色光の照らす、ごくごく普通の風景の一つだ。
放課後に帰宅してから集合するのは怠い。けれども正式な部活に所属している訳では無い私達には部室などないし、放課後に寄るような店などない。自然と私達は教室に残ることが多かった。
夢の中の会話は実際にしたのかどうかは分からない。私達はそれだけ毎日のように色々なことを話したから、中には忘れてしまった会話もあるからだ。
「曲作って、演奏して、ダンスして、歌って、それでも中々フォロワーが付かないものだね」
「頑張ってるのにね」
「理不尽だって思う?」
「まあ。でも理不尽と言えばさ、人生で一番最初に味わう理不尽以上のものは無いって思うと、多少は我慢できるんだよね」
「何?人生最初に味わう理不尽って」
「産まれること。多くの子は両親にこうあれと望まれて産まれるでしょ。でもそこには私達、産みだされる側の意志が介在する余地なんて無いからどうしても一方的に願いを押し付けられる形になるんだよね」
「産まれたくなかったの?」
「そういうわけじゃないよ。ただ、どんな状況でもこれほどエゴを押し付けられる状況は他に無いってことを言いたかったんだ」
「それがどんなに綺麗な願いであっても?」
「伝わらない願いは乱暴じゃない?」
なんて、中学生らしく思春期特有の精神疾患を拗らせたようなことを語っていた。この会話を本当にしていたのなら恥ずかしくて死にそうだが、この時期の私達にはそれが必要だった。今にして思えば一種の哲学だったのだ。
お互いに持論を交わし発想の幅を広げる。それが刺激的で、食事が不可欠な行為であるのと同等のように私達は思っていたのだ。
ただ、本当に言わなければならなかったことだけは私は相方に話していなかった。
何故こんな夢を見たのかは考えるまでもない。三年生の三人が発端となっているのは間違いない。
今日の放課後になにがしかの結末を迎えることとなるだろうが、その前に私にはあと一人、話しをして置かなければならない人がいる。
「失礼します」
「あら?貴方が来るなんて珍しいじゃない」
「探しましたよ学園長」
小原鞠莉学園長その人だ。
私は昼休みの時間を利用し学園長と話しをしたかったが、三年生の教室には鞠莉学園長どころかダイヤさんも果南さんも居なかったため探す羽目になった。こうして学園長室に来たのも学食から梯子してのことだ。
「何のようかしら?」
「鞠莉学園長ははじめからダイヤさんや果南さんとスクールアイドルをやり直すために千歌先輩達を利用したんですか?」
自分の目的のために手段を選ばない。そんなスタンスはいっそ清々しくあるが、だが、それを許容するには私は千歌先輩達のことに肩入れし過ぎてしまった。
「そうね。そう捉えてもらって間違いないわ」
見惚れるほどの天然さらさらの金髪を指でくるくるといじりながらぎこちなく余裕の笑みを浮かべる学園長だが、どこか浮かない顔をしているのは朝のやりとりがあったからかもしれない。
「変に格好つけないでください」
「格好つける?私が?」
「そうですよ。だって、学園長には目的があったかもしれませんが、千歌先輩達に対して真剣に活動を支えてくれていました」
無茶ぶりをしてスクールアイドル活動に対しての厳しさを教えようとしたり、ライブの手配をしてくれたり、全面協力して町の人とスケジュール調整したり色々と活動を支えていた事実は単に自分の目的を満たすためだけとはどうしても思えない。そう。例え伝わらなくても、一方的であっても願いがあったのではないか。
「だとしたらどうだっていうの?確かに千歌っち達には肩入れしたのは事実だけど」
「どうにもしませんよ。ただ、もし使い捨てようとしていたのなら軽蔑してましたよ」
鞠莉学園長はオープンに見えてハッキリと自分の気持ちを口にしない。これまで数ヶ月の浅い付き合いしかないが、浅いからこそ却ってそれがよくわかった。とにかく暗躍屋なのだ。
案外三年生の話しがこじているのもそのあたりも関係があるのかもしれない。
「では放課後に」
「待ちなさい。貴方を利用しようとしたことについては聴かないの?」
「学園長が利用しようとしていても、思惑通りには動いてないですからいいですよ、もう。それでおあいこにしましょう」
私は当初のやりとりで学園長に対して抱いていた怒りを維持できなくなっていた。それはここまでの経緯がどこかしら私に共感を呼ぶ部分もあったからだ。だから、私は気にしないことにした。それで劇的に学園長との関係が変わるわけではないが、少しは前向きな関係になるのではないかと思う。そうなれたらいいと、そう思う。