ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
午後の授業は聞き流し、あっという間に放課後がやって来た。
私はスクールアイドル部所属ではないが今回の件にはかなり顔を突っ込んでいるため部室に顔を出すことに遠慮はなかった。
総勢10名が部室に集まってもまだスペースに余裕のある広さがあるが、皆の緊張感からか開放感はなかった。普段元気な二年生達ですらそうなのだから、ルビィちゃんや花丸ちゃんは戦々恐々といった様子だ。
みんな各々席に座るが、果南さんと鞠莉学園長は対面に座り、両者の間で双方を見守るようにダイヤさんが座る配置となった。
「話しを始める前に」
「これ、ベランダに落ちてきたんだけど」
流石に時間と場所を指定した手前もあるのか、千歌先輩が話しを切り出し、曜先輩が続いた。曜先輩が出したのは水兵服をモチーフにした白い衣装だった。
「これって三人が活動していた時の?」
「そう。でもこれを着て満足にパフォーマンスをすることはなかったけどね」
「それって」
「東京のイベントで着た衣装」
鞠莉学園長は衣装を手に取ると抱きしめるように抱えた。因縁があるからなのか果南さんは難しそうな表情でそれを見詰め、ダイヤさんは無表情を通していた。
私は衣装というものに袖を通したことは1回しかない。幼稚園でAqoursと共にお呼ばれした時の1回だ。スポーツもやっていないからユニフォームとかも着たことがないので、彼女らが衣装に対しどんな気持ちを抱いているのかは想像するしかない。
ただ1回きりの体験で語るならば、衣装を用意して貰った時はこそばゆい気持ちになったし、それを着てパフォーマンスをした時は楽しかった。自室に飾ったそれを見ると感慨深い気持ちになると共に、二度と袖を通すことはないと思うと無性に悲しくなる。私ですらそうなるのだから三年生が抱く思いはどれ程の重さがあるのだろう。
「私はもうその衣装を着ることはないよ」
「どうして?町の人達からスクールアイドルは受け入れられている。活動の場もある。これだけ条件が整っているのよ?あの時乗り越えられなかった壁にもう一度立ち向かえるチャンスなの」
「私はあの時のことを悔やんでないよ。とにかく嫌になっただけ」
「何か理由があるんでしょ?果南ちゃんはそう簡単に投げ出したりしないでしょ?」
「弁天島でも躍ってたし」
「そんなのないし、そんなこともない。何と言われても私はもうスクールアイドルはやらない」
果南さんの頑なさにはただ東京のイベントで上手くいかなかったという理由だけでは無理があったが、他の理由を引き出すこともまたできなかった。
人は嘘を吐くとき、または何かを隠すとき、利益を守ることが動機となる。利益といっても単純に金銭の問題だけではなく、何かを守るためであったりする。
引っ越す前の私は現実を直視しないように、自分可愛さにずっと黙り続けた。
じゃあ、果南さんは沈黙をすることで何を守っているのか?
「私の意志は変わらないから」
果南さんは私達を威嚇するように睨み付けて立ち上がった。
「待ってください。それでは誰も先に進めない」
「星には関係ない」
「関係ないけど、救われないことは知ってる。私がそうだったから」
「そんなの知らないよ」
果南さんは私の制止を聴かずにそのまま部室から出て行ってしまった。けれど、私を含め誰も果南さんを追い掛けることは出来なかった。
鞠莉学園長は悔しそうに顔を俯かせ、ダイヤさんは相変わらず無表情を貫いている。昔から果南さんと付き合いのある千歌先輩は納得できない様子で立ち上がっていたが動き出せずにいた。
「あーもう!」
「千歌ちゃん抑えて」
「だって訳わかんないんだもん」
「それ、マルも思いました。でも、果南さんだけなんでしょうか?」
頭を抱える千歌先輩を余所に花丸ちゃんが顎に手を当てて語り出した。
自分の本心を中々出さないルビィちゃんとの付き合いが長いだけに人の心の洞察力が花丸ちゃんは人一倍鋭いようだ。
「どういうこと?」
「私達はその当時のこと殆ど知らない。知った気になっているだけ」
「でも、私達はそうだけど鞠莉さんとダイヤさんは当事者でしょ」
「当事者でも、ううん。当事者だからこそ見落としていることがあるんだと思う」
「私が、見落としている?」
花丸ちゃんの発言に顔を上げた鞠莉学園長は思い当たることは無いと言いたげな表情をしていた。
「そうですよね、ダイヤさん」
花丸ちゃんの指摘にダイヤさんはポーカーフェイスを崩さないし、気配が変わることもなかった。
「ダイヤ?」
「いいでしょう。事態か動いてしまった以上、静観を続けるわけにはいかないですわね。ただし、長い話しになりますから場所を変えましょうか」
だが、それはこうなることを予想していたからこそなのかもしれない。朝の短い時間のやりとりの中で感じた気配の真相がこの展開なのだろう。
ダイヤさんは荷物を持って立ち上がると付いてきなさい、と部室から出て行った。
私達は慌てて荷物を持ってダイヤさんを追い掛ける。
「待って。果南ちゃんの荷物はどうする?」
「後で届けるか取りに来るように伝えますからそのままでいいです」
取られて拙いものがあるわけでもないし、この生徒数100人にも満たない学校で盗難なんて起こらないだろうと判断し、私達はダイヤさんの後に付いていき、黒澤家の門を潜ることとなった。