ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第七十四話

 穹と初めて動画を投稿することとなった時のことは今でもよく覚えている。

 自分達のパフォーマンスに対しどれ程の反応があるのか?どれくらいの人が動画を見てくれるのか?そんなことを考えて胸を高鳴らせていた。

 だが動画を投稿してから一週間が経ち二週間が経ってからも再生数が伸びず、コメントも貰えない日々が続いた。

 私達は期待から徐々に落胆へと気持ちが下がっていくのを抑えられなかった。

 

「なんで再生数伸びないかな?」

 

 私達は私の部屋のパソコン画面で動画サイトのマイページを見ていた。芳しくない再生数や未だ0件のコメント数を前に穹は不機嫌そうに言った。

 

「んー、検索で引っ掛からないことには始まらないからね。いきなりオリジナル曲は気が早かったかもしれない」

 

「カバーをするってこと?それってなんか負けた気がするんだけど」

 

 穹は不機嫌そうにまだまだ発展途上のギターを掻き鳴らした。すっかりハマっている彼女に苦笑しながら私は取り成すように提案した。

 

「好きな音楽のジャンルって人それぞれあるでしょ?それって何かしら切っ掛けになる曲があって、そこからそのジャンルの沼に嵌まる訳じゃない?だけど、私達がどんなに誰かの趣味にあう曲を作ってもそれを聴いて貰わないことには始まらない。だから私達がどんな音楽をやるのかって知って貰うにはパフォーマンスで見せるしかないと思うのよ」

 

「あー、なる。つまりラッパーだって語るよりは実際にラップで見せた方が早い、みたいなことね」

 

「なんで例えがラッパーなのか分からないけど、そゆこと」

 

「じゃさっ、何やる?」

 

「色々やろう」

 

「何それ、雑っ」

 

 私達は身の前に果てしなく広がる音楽の海に飛び込み、そのただ中を全身で楽しんでいた。

 そして今、私は一人で自室のパソコン画面を見ている。あの時とは違う。音楽を楽しむ以前に相方を見失っているのが現状だ。

 遠く距離が離れてしまったと感じながら私はパソコンの電源を落とした。

 今日はラブライブ予備予選と梨子先輩のピアノコンクール当日だ。今から予備予選の行われる沼津市民文化センターに行かなければならない。

 

「穹は今どうしているのかな?」

 

 花火大会で披露した“未熟DREAMER”の動画に対し、少なからずジェミニのアカリのページには反応があった。

 単純にスクールアイドル界でAqoursの知名度が上がりつつあることもさることながら、古参の視聴者からジェミニのアカリ復活?なんてコメントもあり、少しは動画を投稿した成果があることが確認できた。もし昔の同級生とかが気付いて穹に連絡をしているなら近々穹からなにかしらアクションがあるかもしれない。けれどそれを期待するばかりの受動的な対応はもうしない。期待はすれども、私は彼女に会いに行くことをもう決めているのだ。

 先ずはこの予備予選を見てからだ。

 私は文化センターの楽屋に足を運び、各々のパーソナルカラーの衣装に身を包んだみんなと会った。

 

「今回も可愛く仕上がってるね」

 

「星ちゃんも欲しければ作るよ?」

 

 主に衣装を担当したのは曜先輩と善子ちゃんだ。

 ふりふりの付いた衣装は見る分には非常に可愛らしいけれど、私自身が身を包むには些か可愛らし過ぎる。それに梨子先輩が着ていない衣装を用意してもらうなんて出来ない。軽口で魅力的な提案をした曜先輩にやんわりと断ると私はふと彼女の手首のシュシュに気付いた。

 

「シュシュなんて用意してましたっけ?」

 

 見れば他のメンバーもそれぞれの色のシュシュを手首に付けていた。

 

「常勝無敗の魔具をリリーが贈ってくれたのよ」

 

 余程気に入ったのか善子ちゃんはすっかり堕天使モードで顔の半分を隠すような格好いいポーズを取っていた。折角なのでスマホで写真を撮らせてもらった。

 

「梨子ちゃんも付けてコンクールに出るんだって」

 

「それは素敵ですね」

 

 距離は遠く離れても想いは繫がっている。それを思わぬところで見せつけられる形となり、胸の奥にちくりと痛みが走った。私と穹とは大違いだと。

 

「貴方の分も届いてるわよ」

 

「えーーーー」

 

 鞠莉さんは私の右手首を取り、まるで結婚指輪をはめるかのようにシュシュを手首に通してくれた。私はそれをぼんやりと他人事のように眺めていた。だってそうだろう?私はAqoursメンバーではない。そんな私がこのようなものを貰って良いのだろうかと、誰だって思うだろう。

 

「また難しい顔してる。ぶっぶーですわ」

 

「所属だとかそんな小難しいことはいいのよ。だって貴方も感じているのでしょう?」

 

 鞠莉さんは私の胸に掌を当てて問い掛けた。

 

「ここにもう答えがあるって。ならそれでいいじゃない」

 

 そう。あの日感じた一体感を私は今も忘れていない。忘れられる筈がない。いくら思考として自らにその資格があるのかと問い掛けても、その時の感覚が強く肯定するのだ。

 私は右手首を天に翳し、みんなとお揃いのシュシュを見上げた。いつの間にか私のパーソナルカラーとなったベージュのシュシュは天に翳して見ると心なしか輝いているようにも感じた。

 

「予備予選、存分に楽しもう」

 

 曜先輩はそう言って私のようにシュシュの付いた手を天に翳した。

 

「最高のパフォーマンスにしましょう」

「準備万端ずら」

「今なら何でもできそうよ」

「全力で行こう」

「絶対に通過しますわよ」

「オフコース」

 

 ルビィちゃんが、花丸ちゃんが、善子ちゃんが、果南さんが、ダイヤさんが、鞠莉さんが続き、千歌先輩もまた天にシュシュを翳した。

 円陣を組む九色のシュシュを見上げ私は自然と笑みが溢れた。

 

「最高に輝こう、Aqoursー」

 

 千歌先輩の掛け声に合わせ、私達は一斉に手を重ねながら一度下ろした。

 円陣を組んで手に手を重ね、下ろしてから天に掲げるのはパフォーマンスをする前のAqoursの気合いの入れ方だ。いつもは傍目から見ていたが私はこの時はなんの躊躇いも無くそれに参加していた。梨子先輩の代わりとしてではない、Aqoursのメンバーではない私としてその輪に加わっていた。

 

「サーン・・・シャインーッ」

 

 仲間であってチームメイトじゃない私をこうして受け入れてくれる奇跡がある。でも私は誰かさんの影響なのか欲張りで、穹のとの仲も修復できる奇跡をこの時幻視した。

 それに穹ならこういう時にこう言うだろう。奇跡は一度きりなんて誰が決めたのって、底抜けに前向きな事を。

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