ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
問題の週末がやってきた。天候はあいにくの豪雨。嵐と言っても差し支えない。だが、今日に向けてビラ配りや町内放送をするなどAqoursは精力的に活動してきた。あわよくばと思わせる位一生懸命やっていたのだ。だから私は当日の手伝いを申し出た。
流石に生演奏とかはないが、放送器具の点検と音響効果を考えたスピーカーの音量設定程度なら多少は手伝える。千歌先輩のクラスメートの有志とえっちらおっちら作業を終わらせて、後は時間がくるのを待つだけとなった。
ライブに行くといつも私はわくわくする。
好きな音楽を奏でる人達がどんな演奏をするのか、どんな風に魅せてくれるのか?それを思うとドキドキが止まらなくなるのだ。
私はAqoursの曲をきっちりと聴いたことはない。ダンスも部分練習しか見たことはない。衣装に限っては今日が初見だ。楽しみじゃないはずがない。
だが来場者は数は疎らだ。身内しか来ていない。
これを見てどう思うのか、それだけが心配だが、これを乗り越えなければ始まらないのだ。
“観客が居なくても増やしていけばいいんだよ”
ふいに沸き上がる思い出の声に私はそうだね、と同意した。
今はまだ始まったばかり。本気でやるならばこの後にどう続けるのかが大事なのだから。
「始まる」
誰かがそう言うと静かに幕はあがる。
満員には程遠いこの光景にAqoursは一瞬怯んだ様子を見せたが、高海先輩が気張りグループ紹介をした。それに感化され渡辺先輩や桜内先輩も気持ちを切り替えられたようだ。
「聴いてください」
理想と現実は違う。だが、それが夢を諦める理由にはならない。
彼女達は、Aqoursはこの瞬間を輝くため第一歩を踏み出した。
「キラリ、ときめきが生まれたんだと」
散々練習したステップは上手い。繋ぎがまだ甘いかもしれないが見栄えはする。歌も息切れを感じさせずに上手く歌えている。
紡がれていく歌は正しく彼女達の始まりの曲だ。μ’sに光を見て、踊る心に従って始めて、そして仲間と出会って。
彼女達の歌詞から彼女達がどのように歩み始めたのかが良く伝わってくる。
理想は満員。現実は観客が身内しか居ないけれど彼女達は今を楽しめている。そして私達を楽しませようとしている。その証拠に彼女達は今輝いている。今ステージでパフォーマンスする彼女達は誰が見てもスクールアイドルだった。
ここに来ている十数人は皆目を逸らさずに夢中になって見ている。新たに生まれたスクールアイドルの姿をこの目に焼き付けようと。
私も気付けばサイリウムを掲げてリズムに合わせて飛び跳ねていた。
楽しい。皆で一つの音楽を共有し、皆で夢中になれるのはやっぱり楽しい。
“音楽って楽しいね”
私の心に残る親友の言葉に私はうん、と頷きかえした。
だが、そんな夢のような一時も文字通りの意味で暗転した。停電だ。
外は雷雨の嵐。雷の影響か、倒木で電線が切れたのかは分からないが、少なくとも数分は復電しないだろう。ミュージシャンにとって数分とは致命的に長い。一曲あたり五分前後しかないのだから。
光が消え、音が消え、熱気が戸惑いに替わるのにそう時間は掛からなかった。
どうすればいい?皆きっと分からずに動けなかった。だってそうだろう?停電なんてどうすることも出来ない。
だが、高海先輩はなけなしの勇気を振り絞って継続した。バックミュージックの無いアカペラで。高海先輩に続き渡辺先輩も桜内先輩もまた歌う。消え入りそうになりながら、涙を浮かべながら。
言うまでも無く光の消えたステージは先程までの輝きはなかった。言うなれば灯台の光も届かぬ夜の海だ。
だが、彼女達はその海を必死に泳ぐ。終わらせない、終わりたくないと藻掻いて、藻掻いて、苦しさに涙を滲ませながら言葉を繋ぐ。
ならば私はどうする?彼女達を見てきた私はどうするのだ?
震える手で私は胸ポケットからハーモニカを取り出す。
これは彼女達のライブだ。だから部外者の私がその本番に介入するわけにはいかない。それは分かってる。何より私の介入で寧ろこのライブを台無しにしかねない。
だが時は歩みを止めない。私が逡巡する間に遂に彼女達の歌が止まってしまった。
諦めたら駄目だ、と半ば反射的にハーモニカに口を付けた時、体育館の扉が大きく開くと、大勢の人が集まっていた。
「バカ千歌。開演時間間違えたでしょ」
一番に乗り込んできた女性(後で知ったことだが高海先輩の姉らしい)の言葉からすると、どっかで開演時間を間違えて案内していたらしい。
お客さまが続々と来場し気付いた時には体育館は満員と言っても言い過ぎではない人数を収容していた。
そして奇跡は終わらない。
停電はどうする、と思った矢先に復電したのだ。こんな都合良く復電するかとも思ったが、この学校には確か停電時用の発電設備があったため、電源が切り替わったのだろう。あるいは誰かが発電機を回したのかもしれない。
何にしても舞台は整った。そしてAqoursに笑顔が戻った。
ならばもう心配はない。私は一観客としてライブを全力で楽しむだけだ。
「行けー、Aqours」
これくらいの声援は許されるだろう。
私の声援に感化されたのか会場はいつの間にか手拍子が始まっていた。
この瞬間に私は確信した。やっぱり今日のライブは最高だったと。