ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
夏休みの学校は部活動こそ行われているが、メインは校庭や体育館が活動地となるため、校舎内との温度差は大きい。校舎内から見る校庭の部活模様はまるで対岸の火事のように他人事のように感じた。
私は今、音ノ木坂学院にいる。みんなと学校まで来て、梨子先輩に紹介して頂き、こうして一人、校内を散策している。
私が嘗て目指した場所。そして叶うことの無かった願いの形。そんな場所にあり、私は意外にも心穏やかだった。
何故だろうかと自問しながら私は校内を見て回る。
音ノ木坂学院は施設的には目立った特徴は無い。強いて言えば講堂があることと、都内にしては広い校庭があるくらいだ。教室を見ても備品関係はよくある国公立系の学習机と椅子が並んでいた。
穹の教室は何処だろうか、と思い各教室を見て回ったが机やロッカーにネームは無く見つけることはできなかった。
スクールアイドル部の部室や屋上、生徒会室や講堂を覗いてみたが誰も居なかった。どうやら今日はスクールアイドル部の活動はないらしい。
不思議なことに散々校内を歩き回ったが、誰とも会うことは無かった。夏休みともなるとそんなものなのかも知れないが、何時しか校庭や体育館からの運動部の練習音も聞こえなくなっていた。
何だが不思議の国に迷い込んだアリスのような、現実から隔絶された場所にいるかのような錯覚に陥る。
学校とはある種特殊なコミュニティで、独特な法則で成り立っている世界だ。だからある意味隔絶された場所であるのは間違いないのだが。
しかし、校内を見て回って私はある確信をした。ここには私にとって特別なものはないのだと。
ないのだ、なにも。私と関わる物語が。積み重ねた思い出が。
ここにあったのは漠然とした憧れと、叶わなかった未来予想図。具体性が無かったからこそ見た夢の名残だ。
だから未練はあるし、穹のことは気掛かりではあるけれど、特別大切であるとは思えなかった。私にとっての母校とはもはや浦の星女学院であると自覚した。
きっとμ’sにとってもそうだったのだろう。どうしようもなく母校で、積み重ねた思い出があり、だからこそ特別で、守りたいと思えたのだろう。
なんとなく新しい気づきを得た私は、最後に音楽室に立ち寄った。
梨子先輩が練習していた場所。それ以前にはμ’sの西木野真姫が作曲などをしていた場所だという。
私は何の気も無しに音楽室へと歩み寄ると、室内からピアノを弾く音が聞こえた。
ようやく第一村人発見かと、思いながら音楽室の中をのぞき見ると、ピアノを弾いていたのは赤毛の小学生くらいの女の子だった。
本来ならば何故小学生が、とか疑問は色々と涌く筈なのだが、この時の私はそんな事を考えつきもしなかった。それだけ小さな彼女がピアノを弾く姿が自然体でとても楽しそうだったからだ。
私はまるで誘蛾灯に惹かれる様に音楽室へと入った。
「あれ?お姉ちゃんどうしたの?」
赤毛ちゃんは好奇心に満ちあふれた大きな目を向けてきた。
「うん。ちょっと探検してたのかな」
「探検?楽しかった?何か見つかった?」
「そうだね。見つかったかな。うん。少しはケジメが付けられた気分にはなれたよ」
「ケジメ?」
「そ、ケジメ。この学校に対する私のコンプレックスのね」
「ここに来たかったの?」
「うん。友達とね、一緒ね通えたらいいねって話してたんだ」
「私もね、大好きなみんなと一緒がいいの分かるよ」
赤毛ちゃんは曇り無い笑顔でストレートに感情を吐露してくれる。その言葉がすっと心に入り込み、ついつい私も素直に喋ってしまった。
「きっと本当に大切なのは場所じゃなかったと思う。一緒にいれればそこが私にとっての大切な場所になるんだって今ならそう思う。だから今の私にはこの学校よりも浦の星女学院の方が大切に思えるんだ」
「音ノ木坂学院は?嫌いになっちゃった?」
「そんなことないよ。だってここには穹がいるんだから。だから特別。でもそれは大切とか守りたいとかとはちょっと違うかな」
「むずいね」
「ごめんね。こんな話しをして練習の邪魔しちゃって」
私はじゃあね、と手を振って音楽室を後にした。
赤毛ちゃんは私にバイバイと言って再びピアノを弾き始める。
このキャッチーなメロディーはμ’sの“Music S.T.A.R.T!!”だ。
思わず躍りたくなるアップテンポなリズムに見送られ、私は校舎を後にすると正門前で並んで一礼するみんなと合流した。
「穹ちゃんと会えた?」
「居なかったです。やっぱり家を訪ねてみよーーーー」
不意に訪れたメッセージを知らせるバイブレーションに私はスマホをポケットから取り出した。
そこには待ち望んでいた人物からのメッセージの着信があった。
「やっぱりまた出直そうと思います」
ほら、と私は苦笑いしつつスマホに表示されたメッセージをみんなに見せた。
そこにはこう書かれている。「ごめん。また今度。今バイクの免許取りに合宿行ってるから」と。
ようやく繫がった。それだけでも大きな一歩だ。