ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第八十二話

 音ノ木坂学院で穹から返事があってから、穹とはそれほど多くのやりとりはしていない。

 

『電話していい?』

 

『だめ』

 

『合宿免許は何時終わるの?』

 

『終わったら連絡する』

 

『待ってるよ』

 

 それだけだ。

 もともと穹も私も女にしては文章を飾らない。だから酷く淡々とした内容になっている。

 電話が駄目のくだりは穹の心中でどのような感情があって言っているのか判らないが、無視されてない以上はもう一度話すチャンスはあるということだ。けれど急いてはいけない。私が穹に連絡を取るのにこれだけの時間が掛かったのだ。穹からすれば腑に落ちない時間を私と同じ期間過ごし、急に私から連絡が来て驚きだけではない気持ちが心中を駆け巡っている筈。考える時が必要なのだ。

 彼女のタイミングが良いときに会おう。そしてこれまで離れていた期間のこと、一緒に居た時に隠していた気持ち、そして今後のことを曝け出して話すのだ。

 私は蒸し暑い図書室の窓を全開に開け放ちながらそう気持ちを整理した。

 今日は久し振りに図書室に来た。鞠莉さんの学園長特権で図書室の利用をセルフサービスにしていたのだが、花丸ちゃんの代理とは言え私も図書委員の端くれ、流石に放置のしすぎは良くないだろうと思い、図書室の空気の入れ換えと本棚の整理に来たのだ。

 空調設備が未熟で冷暖房がないこの学校の図書室で私はせめてもと扇風機を全開で回し、本棚の整理を始めた。

 人と土地には自ずと歴史が刻まれるが、この図書室もまた歴史があった。

 経年により色あせた本、一時は人気があったのか角や背表紙が擦れた本、落書きされた本など、種々様々な人の軌跡がある。

 私が知らないだけでここには多くの人が居たのだ。私が知らない多くの物語があったのだ。それに思いを馳せながら本棚の整理を黙々と進めていく。

 このままこの学校が統廃合された時、ここにある人の軌跡は誰が引き継ぐのだろう?

 その軌跡の中には私達ももう含まれているのだ。

 まだ終わりたくない。東京に行って穹と連絡が取れてから私の中にはまだ終われないという感情が芽生えていた。

 穹と和解できるかは判らない。けれどせめて穹に恥じないようにありたい。その気持ちを育ててくれたのがみんなで、だから私はみんなと出会えたここを好きになれた。好きになれたからそこに関わった人達の重みを大切にしたいのだ。

 みんなも学校が大切だと思う気持ちは同じだった。

 東京から帰ってきてから、みんなはどうすれば学校を統廃合の危機から救えるのか真剣に考えていた。スクールアイドルである自分達に何が出来るのかと。

 今日もまた屋上で元気良く練習するみんなの声が開け放った窓の外から聞こえてくる。

 みんなはスクールアイドルだ。スクールアイドルは学校だって救える。μ’sという前例があるのだから。けれど、みんなはμ’sとは違うし、環境だって東京と比べてしまったら大違いだ。

 だが、それは諦める理由には、やらない理由にはならない。

 彼女達は、Aqoursは、自分達の道を進むと、物語を作っていくと決めたのだ。その先に何があるのかは判らないけど、それが彼女達のイデオロギーになったのだ。

 

「軽やかに 緩やかに 時は過ぎていくけれどーーーー」

 

 私はそんなみんなの心意気に感化されたのか、気が付けば懐かしいフレーズを口ずさんでいた。それは私と穹が初めて作ったオリジナルソング。歌詞もメロディーラインもちぐはぐな恥ずかしい曲だ。けれど大切な一歩を二人で歩み出した曲だ。

 私はボーカルではないけれど、作った当初は幾度となく口ずさんだ。穹と離れてからはしなくなっていた。心の奥底に蓋をしていた。けれど、穹と連絡が取れてどうやら私の心の蓋は外れかけているらしい。口から溢れ出した歌は止まることはなかった。

 

 “鮮やかに 艶やかに 私達は過ごしていく

  今を飾って良いじゃない?

 楽しまなけりゃ損でしょ?

 だから、みんな奏でていこう

 音を繋げて 口ずさんで リズム刻んで作ろう

  心踊れるこの時を

  だから今を 共に輝くよ 星の導きのように”

 

 口ずさんだ歌は、やっぱり私の声ではしっくり来なかった。けれど、久し振りに口にした歌は、他のどの曲よりも私の心を震わせた。

 この曲を作った時はただただ楽しかった。初めて穹と奏でた時はどこか気恥ずかしく、それでいて誇らしいと思った。もしまた穹とこの曲を奏でることが出来たのなら、今度は誰かのために奏でてみたい。

 歌は、音楽は作られてしまえば変わらない。その中に込める気持ちで意味に違いを持たせられる。そういった意味で音楽には果てがなく、未熟な私達が作ったそれも変化し続けるのだ。

 今は私の音楽を誰かのためには奏でられないだろう。けれど、穹と会えたら私はみんなに聴かせてあげようと思う。いつも私は貰ってばかりなのだ、たまには返さなければならない。

 私は図書室の整理が終わってから一度学食の自販機に飲み物を買いに行った。練習するみんなへの差し入れだ。今はこういう形でみんなに少しずつでも返していこうと思っている。

 

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