ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
これまでステージに上がったスクールアイドル達のパフォーマンスは会場に詰めかけた人々を楽しませるには十分すぎるほどだった。だから会場の空気は熱を帯びており、その熱が冷めやらぬままAqours達はステージに上がった。たったそれだけのことで会場からは地鳴りのように拍手が巻き起こる。それは期待と応援、両方の意味を込めてのものだ。
そんな歓声に迎えられてセンターステージに立ったAqoursはスクールアイドルらしくパフォーマンスを披露するための衣装、ではなく見慣れた学校のセーラー服姿だった。
学校の制姿でパフォーマンスをするスクールアイドルも中にはいるが、少なくとも今日のみんなはそうするつもりは無いことを私は知っている。
「はじめまして。私達は浦の星女学院スクールアイドルAqoursです。今日は皆さんに伝えたいことがあります」
そして、それを知らない会場のみんなからはざわめきが起きた。それもそうだろう。歌って躍るスクールアイドルの姿を想像していたのに突然語りから始まったのだから。
「それは私達の学校のこと、町のことですーーーーーー」
困惑する会場の空気の中、千歌先輩は語ることを止めない。一応ミュージカルを意識しているのか、所作の所々が芝居がかっており要所要所で効果音も入れている。しかし、Aqoursの、いや、ラブライブ予備予選を突破したスクールアイドルのパフォーマンスを見に来たお客様からはいつしかざわめきすら聞こえなくなった。それを私は否定しようとは思わない。だってそうだろう?スクールアイドルが頑張って歌って、躍る姿を見て楽しみたいと思って会場に足を運んだら何故かミュージカルとも言えない来歴の語りが始まったのだから。
けれど、ステージに立つみんなは別に歌って躍る姿だけを見せに来た訳では無いのだ。自分達のことを知って貰い、共感してもらい、その上で楽しんでもらい、自身も楽しむ。そう決めてきたのだ。
よくよく考えるとアイドルに自己紹介やキャッチフレーズがあるのはそういった意味合いから始まっているのだ。だから彼女達のやり方は間違ってない。いないが、私は不器用だと思った。楽曲の中にキャッチフレーズを盛り込むとか、そういう手法をするアイドルも存在する。だからやりようは他にもあった筈なのだ。だけど、みんなはそれをしなかった。ドが付くほどの馬鹿正直さでストレートに語ることを選んだのだ。
「本当に敵わないですね」
その真っ直ぐさ、ひたむきさは不器用だからこそ私には好ましく、眩しかった。そして自分にはできなかったことをやってのけるみんなが誇らしかった。私の友人達はこんなにも素敵な人なんだと、今すぐにでも穹にも教えたい、そんな気分だ。
「ーーーー協力してくれた音楽が大好きな少女と東京に行きました」
海が綺麗な片田舎の町でμ’sに憧れてスクールアイドルを始め、少しずつ仲間が増え、東京に行くことになった。そこにまさか私のことも含めて語られるとは思っても見なかった。
「ーーーーーー東京での出来事を前に、私達と彼女は己と向き合うことになりました」
東京のイベントで出会ったスクールアイドルのこと、誰からも支持を得られなかったこと。ただ楽しいだけでは済まない奥深さ。それを知った彼女達は悩むこととなる。今後どうしていくのかと。
Aqoursの物語を聴きつつ私は会場の様子を盗み見た。最初は何をしているのだと動揺していた観客たちであったが、いつしか物語に耳を傾けていた。当事者達からすれば本当に粗筋でしかない物語であるが、それを経験しているからこそここで語られる物語には説得力があった。
「ーーーーーみんなと向き合って、私達は進むことを選びました」
三年生の抱えていた過去、向き合った現状、それを乗り越えていこうとAqoursは九人になったこと。そして迎えた花火大会のパフォーマンス、ラブライブ予備予選。そして物語は現在に至る。
ともすれば興味を惹かれない人がいるかもしれないAqoursの物語。ただラブライブ予備を突破しようと思うならば、あるいは省いても問題はなかったかもしれない。けれどAqoursのみんなはそれを堂々と語りきった。AqoursがAqoursである理由、追い求めるもの、それを知って貰うために。
その想いは少なからず、いや、多大な影響を与えたと思う。スクールアイドルは瞬間的なものではないのだと認識を改めさせるものだった。それこそがμ’sやA-RISEがこれからのスクールアイドルに託したものだと私は思う。スクールアイドルはどこまでも続くのだ。色んな人に色んな影響を与えて、想いを共有して。
「私達は」
「この町と」
「この学校と」
「この仲間と一緒に」
「私達だけの道を歩く」
「起きること全てを受け止めて」
「全てを楽しもうと」
「それが輝くことだから」
「輝くって楽しむこと。あの日0だったものを1にするために」
そしてここからAqoursの物語は再始動する。ここから先は見たこと無い夢の軌道。それを追い掛ける旅の始まり。
円陣を組み九人は一つの0を手で作ると、千歌先輩が、曜先輩が、梨子先輩が、花丸ちゃんが、ルビィちゃんが、善子ちゃんが、ダイヤさんが、果南さんが、鞠莉さんが、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」、「9」と点呼していく。
私は、いや、私達浦女生は気付けばそれに続けてアリーナ席から「10」と叫んでいた。
私達はAqoursではないしスクールアイドルでもない。けれど、向かいたい先は同じだと、学校の生徒として応援していると気持ちを伝えたかった。
「今、全力で輝こう!0から1へっ。Aqoursーーーー」
「「「sunshineッ!!」」」
手で作っていた0の輪を1へと替え、sunshineの掛け声と共に彼女達はくるりと一回転し、早着替えを済ませた。
“ヒカリになろう 未来を照らしたい 輝きは心から溢れ出すよ”
彼女達は光に憧れるだけでなく自身が光となりみんなを導けるよう、指揮者のような白いタキシード風の衣装に身を包んでいた。よく見れば表面は千鳥格子の柄が薄らと浮かび、まるで波を思わせる意匠が施されていた。差し色の赤は太陽のように鮮烈で、Aqoursらしさの込められた逸品に仕上がっていた。
歌詞は彼女達の歩みそのものを歌ったものだった。それは彼女達の物語を聴いたこの会場のみんなも気付いたはずだ。だからこそそれは私達の心に響いた。
そして歌に歌をかぶせるように上がっていくメロディーラインに会場のボルテージも自然と上がっていく。
私達は光の渦となってステージに立つみんなを取り囲み、一つのパフォーマンスを形作る。それは九色でありながら、私達は一つの光だった。
「みんなーッ、一緒に、輝こー!!」
そして千歌先輩は私達に呼び掛け、手を差し出す。共に進んでいこうと。そう誘いかけるように。
ステージとアリーナ席ではその手を取ることはできない。けれど私達は居ても立ってもいられず立ち上がり、気付けばセンターステージ近くまで駆け寄っていた。
レギュレーション的に席を移動してはいけないとか、そんな理屈を抜きに私達は惹かれていったのだ。
見ればそれは浦女生だけでなく、他校の生徒もまた同様だった。
「LaLaLa La-LaLaーーーー」
そしてパフォーマンスの締めを私達とAqoursは共有した。一緒に声を出し、手を振った。
千歌先輩が会場のスポットライトでは足りないとばかりに入り口の扉を開いたのはご愛敬だ。
こうしてAqoursのラブライブ予選は確かな支持を感じた中で幕を閉じた。