ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第九十五話

 翌日、今後の放課後の活動についての懸念を花丸ちゃんに話したところ、やはりみんなもそれに気付いていたようで、今日場所を探すこととなったらしい。

 私も今日は予定が開いていたため、同行したのだが、どうにも芳しい成果は上げられなかった。

 やはり九人という大所帯は強みでもあり弱みでもあった。

 二、三人ならば公園などで練習しても問題視されないだろうが、九人であるとそれなりに場所をとるためクレームになりかねない。今浦の星女学院は廃校の瀬戸際であり、マイナス印象を植え付けるような行為は極力避けなければならない。また、そもそも屋外であると雨の日は練習できないため、必然的に屋内か、少なくとも屋根のある場所を探す必要があるのだ。

 

「じゃあ最後の手段しかないか」

 

「最後の手段?」

 

「うん。パパの知り合いでスタジオ借りてる人が居るらしいんだけど、今は使ってないみたいだから頼めば使わせてくれそうなんだって」

 

 そんな中、各々独自のルートも当たっていたのか、曜先輩からとてもいい解決策が提示された。

 ちゃんとした歌唱・ダンス練習が出来るスタジオはどこもそれなりにレンタル料が掛かるため早々に見切りを付けて選択肢から除外していただけに嬉しい誤算ではあった。

 

「いいの、曜ちゃん?」

 

「今はやれることを全部やる。でしょ?」

 

 けれど、それは“浦の星女学院の生徒”としての活動では本来クリア出来なかった問題だ。それをこんな裏技じみた解決法で良いのかと千歌先輩は聴いたのだ。

 Aqoursは活動方針として名言した訳ではないけれど、自分達だけの課題においてはなるべく自分達の力だけで取り組むという意識がある。けれど、その課題が学校や地域に関わる問題である場合は学校の友人や親類に協力を仰いでいる。

 今回はAqoursの最終目標である廃校阻止を見据えて曜先輩はそれを受け入れたようだ。更に言えば改めて金銭を払って貰っている訳では無く、既に借りているということも大きい。

 借りている人は支払ったお金を無駄金にせずに済む。みんなはいい環境で練習出来る。うん。実に無駄が無い。

 曜先輩の色よい返事はみんなの総意でもあるようで、みんな顔を見合わせて頷くとそのスタジオに足を運ぶ流れとなった。

 

「そう言えばこうやってみんなで市内を歩くってなんか新鮮だね」

 

「そう言われると確かにそうですわね」

 

「学校ではいつも顔を合わせてるのにね」

 

「学校って不思議だよね。外では一緒に居るのが珍しい組み合わせでも、学校だと一緒に居るのが当たり前みたいな感じするから」

 

 特に学年が違えばそれも顕著だろう。けれど、生徒数が少ない浦の星女学院だからこそ学年の垣根が低く、居ることが自然に思える関係になれたのだ。

 

「学校の外のみんなってどんな感じずら?」

 

「どんなって、どんなだろ?」

 

「あ、あそこだよ」

 

 程なくして着いたのはガラス張りの目立つ小綺麗な8階建てほどのビルだった。その中にスタジオがあるらしく、早速足を運ぶと待っていたのは予想以上に良い環境だった。

 空調良し。防音機能の穴がぼつぼつ開いたタイルが壁を覆っているため防音対策も良し。ダンス練習を想定しているため、大きな全身鏡もある。そして九人で手狭に感じないスペースもあるのだから完璧と言っていい環境だろう。

 

「うわぁ」

 

「広ーい」

 

「しゅごーい」

 

「みんな語彙力・・・」

 

「じゃあさ、みんなで一度フォーメーション確認してみない?」

 

 私ですらタップを踏みたくなる環境に飛び込んで黙って居られる筈もない。語彙力がなくなるのも仕方ない。でもルビィちゃん、「しゅごーい」は色々酷い。

 それをスルーして曜先輩は早速練習しようと提案する。

 みんな、いや、一、二年生は諸手を挙げて賛同していたけれど、ここに至って三年生が微妙な空気を醸し出しているのに私を含めようやく気付いた。

 

「みんな、ちょっと待って。その前に話があるんだーーーー鞠莉」

 

 果南さんの必死そうな顔、ダイヤさんの諦観、そして鞠莉さんの爆発を堪えるような噛み締めた顔。

 

「実は、学校説明会は中止になるの」

 

 そこから発せられたのはAqoursにとって悪夢のような宣告。そして、私にとってはいつか来るであろうと思っていた発表だった。

 

「中止」

 

「どういう意味」

 

「言葉の通りの意味。説明会は中止。浦の星は正式に来年度の募集を止める」

 

 やはり夏休みというのが一つの区切りなのだろう。これ以上は運営側が耐えられない。

 善子ちゃんも花丸ちゃんも急にと口にするけれど、運営側からすれば急ではないのだ。ダイヤさんも窘めるように言うが、この計画は二年も前から模索されていたのだ。今の生徒数を鑑みると寧ろ二年も保ったのが不思議なくらいだ。

 それもきっと鞠莉さんが裏で手を回していたのだろう。

 魔法が解ける瞬間とはこういう時なのかもしれないと私は思った。

 

「でも入学希望者は増えてるんでしょ?0だったのが今はもう10になって」

 

「これからもっともっと増えるって」

 

 それはAqoursが活動を通して出たであろう成果であり、希望だ。そして明日への目標としての羅針盤でもあった。

 でもそれは大人達からすれば決定を覆すそれには至らないのだ。

 頑張れば報われると、輝きを求めれば掴めると信じてきたそれが否定される事はどうしようも無く耐えがたい。きっとみんなそれを実感しているからこそ必死に何か手は無いかと足掻く。

 私はそれを横目に、やはりどこか他人事だった。そのことに引け目を感じ、みんなからの心の距離を感じた。

 何故私はこの問題に対しこうも冷徹なのだろう?

 

「鞠莉ちゃん、どこ?私が話す」

 

 千歌先輩は鞠莉さんの父親に直接交渉しようと駆け出そうとするけれど、やはり私はそれをしてと決定は覆らないだろうと冷静な頭の部分がそう考える。決定的に私は何処かで最初から諦めているのだ。

 

「鞠莉さんのお父さんはアメリカなのよ!?」

 

「お小遣い前借りしまくってアメリカ行って、もう少しだけ待って欲しいって話す」

 

 千歌先輩らしいといえば、廃校にしないで、とお願いするではなく待って欲しいとお願いすると言ったところで、時間さえあれば自分達の力で何とか出来ると、それだけ信じているのが窺える。

 

「千歌ちゃん。できると思う?」

 

「できる!!」

 

 けれど、そのできる、は自信でも過信でもなく、希望ですらなかった。けれど、そうしなければ自分を保てないような、そんな情動に駆られているようだった。

 鞠莉さんが留学を止めて、理事長になってまで戻ってきたくらい無理を通してこの学校を存続させようとしていたのはみんな知っている。きっと知っていること以上に無理を通していたこともあると思う。

 

「千歌っち、ごめんね」

 

 だからこそ、そう言って戯けた悲しみで笑顔を作る鞠莉さんを前に、千歌先輩も私達も何も言うことはできなかった。

 

 

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