ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
あの日、あの時、あの場所で、と過去を想うのは歌の世界の話だけではない。誰だって、当たり前のようにそれをして、ある時は失敗しなくて良かったと胸を撫で下ろし、ある時は何故失敗したのかとする。そして私はその“もし”を想い、変わらない結論を出した。
もしもAqoursがラブライブ決勝に進み、例え優勝したとしても廃校の決定は覆らなかったのではないかと言うことだ。その最上の結果を引っ提げたとしても入学希望者は今の10が精々30程度にしかならないだろう。夏のラブライブ決勝から今日までそう日は開いていないからだ。
高校受験とは多くの人にとって初めて自分の未来を選択する行事だ。学校選びはどんな能天気な人であってもそれなりに悩む。短期間で劇的には変わりようが無いのだ。とはいえ切っ掛けとするには片田舎の高校がラブライブ優勝というのは劇的だ。だからこその入学希望者30という仮定だ。
けれど、その30をもってしても出来ても恐らくは猶予期間の引き延ばし程度だろう。
単なる廃校ならばともかく厳密には統廃合なのだ。生徒の受け入れ先の準備期間もある。だから一方的な希望的観測では期間の引き延ばしは難しい。
だから今回の鞠莉さんから告げられた事実はどうしようもない出来事なのだ。
素敵なスタジオで練習することもなく失意の内に各々帰宅した翌日、そこ事実は全校集会でもって各生徒に告げられた。
やっぱりそれは衝撃的で、全校集会だというのに体育館がざわついたりもしたけれど、Aqoursのみんなが大人しくしていることが皆を黙らせた。もうどうしようもない出来事なのだと、そう思わせた。
けれど、クラスに戻って私は愕然とした。どうすればこの危機的状況から脱することができるかと皆が真剣に話し合っているのだ。
そして口々に言う。やはりAqoursを旗頭に盛り上げるしかPR力の強いものはないと。ならどうやって彼女達を奮い立たせるかと、自分達が出来るのは何かと話し合いをしている。
願うことはとても大切だ。今の自分を超える活力を与えてくれる。それを私は身をもって知っている。けれど、叶えることは難しい。それもまた私は身をもって知っているのだ。そして願いが強ければ強い程、叶わなかった時のショックは大きい。
だからか、と私は納得する。
「皆はもし、真剣に足掻いてそれでも廃校を阻止できなかったらどうする?」
私はそれがもまた身をもって知っているから恐れているのだ。
「そしたら、思いっきり皆で泣いて、その夢はお終い」
「え、そんなにあっさりと?」
その答えは思わず問い掛けた私がバカみたいに思えるほどシンプルで
「うん。でも強い想いでやり遂げた後なら、きっと新しい夢が見つかると思う」
とても美しい在り方だった。
きっとその在り方は千歌先輩達みたいに諦めの悪い、本質的に強い人ではきっと辿り着けないスタンスなのだろう。けれどそれは誰にとっても必要な夢への立ち向かい方。
「そっか・・・千歌先輩達は自分でまた立ち上がると思うよ」
「そう?なら学校説明会の告知は回収しないようにしなくちゃ」
「気の早い人はもう回収してるかも。急いで止めなきゃ」
じゃ、とクラスメート達は各学年に向けて散開した。飛脚かなにかのようですらあった。幸いにして放課後であったため問題ないけれど、皆ならば授業中でも授業そっちのけで飛び出しかねない勢いがある。
さて、と私は誰も居ない教室から屋上へと向かう。
ルビィちゃんや花丸ちゃん、善子ちゃんは今日は足早に帰った。思うところがあるのだろう。
だから今日は屋上には久し振りに誰も居ない。私が入学した直後の、まだAqoursが出来る前の状態だ。
しかし決定的にあの頃とは違う。それは早くも傾き始めた太陽の茜色が否が応でも時の移ろいを実感させる。
「私はどうしたいのかな?」
その圧倒的な太陽の存在感は、けれど問い掛けても答えを返してはくれない。
無謀な足掻きは無駄に自分達を傷付けるだけなのではないか?それならばしないほうがいいのではないか?
もしも私が引っ越す事になった時、そのまま諦めていたら穹とも上手く別れる事が出来たのだろうか?
いや、そんなことは無い。きっと変なところで器用な私はきっと引っ越すその日まで隠し通しただろう。その頃の私にはさっき初めて知ることとなった在り方など知るよしもないのだからきっと同じ結末を迎えただろう。
なら私は変わらなければならないのだろう。でなければきっと緩やかに終わりを迎えて結局傷付くのだ。
私はどうしようもないこの逃げ腰を今よりももっと何とかしないといけない。みんなのお陰で一歩は踏み出せた。ならまた一歩、踏み出さなければきっと私は後悔する。
「ーーーーーー」
今の私にはまだ新しい音楽は聞こえてこない。けれど、こんな時にぴったりな曲は思い浮かぶ。
奏でるのはSunSet Swishの“マイペース”。ノスタルジーなサウンドにキャッチーな歌詞が耳に残る楽曲だ。
一つ、数えて進めばいい、二つ、数えて休めばいい、三つ、数えて考えりゃいい、マイペースで進めればいい。そのフレーズはとても優しさに満ちた私の大好きなフレーズだ。