アウトのラインがわからないから原作のセリフをできる限り削った。すると、しょぼく見える。難しい。
ネギまで見切り発車はダメだと学んだのに、学習能力がないな…
―9/4 17:20―
「ここがデイロード公園ですか」
雨の日。黒いドレスに黒い傘。その白い肌、金色の髪と翡翠の目以外を真っ黒に染めたアリスは、キルア・ゾルディックからの情報をもとにデイロード公園に来ていた。
「キルアさんに連絡を取ろうかと思いますが…」
キルアへの連絡手段はある。断続的に「ゴン・フリークスの情報」を得るため、あらかじめ連絡先を聞いていたからだ。だが、アリスは携帯を弄る手を止め、悩む素振りを見せた。
「キルアさんが本物のゾルディックだとすれば、こんな仕事でお金を稼ぐとは思えませんね…」
暗殺一家ゾルディック家の名は有名だ。表の人間でも知っている奴は知っている。裏の人間で知らない奴はまずいまい。莫大な報酬を要求する代わりに、確実な暗殺を行うゾルディック家。そのゾルディックの人間が楽とはいえ、子供の居所調査などに熱心に参加するとは、アリスにはどうも思えなかった。
「もし本物だとすれば、ゴン君のお知り合いでしょうか?」
本物ならただの小遣い稼ぎ。自分の隣にターゲットがいるのだ。こんなに楽に10億儲けることの出来る仕事はないだろう。多少の危険度はあるが、ゾルディックならやってもおかしくはない。
「偽物なら…何が目的でしょう?」
ゾルディックの名を語り、アリスに情報を流すことで得られるメリット。
「全くわかりません」
ふう、と溜息をつき、困り果てた様子を見せるアリス。
「まぁ、ゾルディックだろうとなんだろうといいでしょう」
そう言って、携帯を操作した。
ブルルルル。キルアの携帯がメールを受信したことを知らせた。
「誰だ?――っ!?」
もちろん。メールの差出人はアリス。キルアはとある廃ビルの屋上にいる。彼は今、幻影旅団のアジトを見張っているのだ。
『ゴン・フリークスの現在の居場所を5億で買います。メール受信から10分以内に返信をお願いします。』
「またか…」
キルアはそのメールを見た後。携帯を操作し、電話を繋げた。
「もしもし、俺だけど」
「動いたのか?」
相手はクラピカ。キルアの電話を旅団の動きを報告するものと思ったらしい。
「いや…そうじゃなくってさ。今アリスって奴がまたゴンの情報を買うって言ってきたんだけど…」
「何?」
「10分以内に返信しろってよ。どうする?」
受話器の向こうで沈黙するクラピカ。この状況ではアリスが旅団ではないと思っていても、何かしらの繋がりがあると勘ぐってしまうのだろう。
「……私がアリスに電話をしてみよう」
「…オーケー」
慎重に考えた結果。クラピカはそう告げた。
「電話するの?アリスって人に」
レオリオの運転する車の中。キルアとの電話を切ったクラピカにゴンが尋ねた。
「ああ」
クラピカは肯定を表す端的な返事だけを返し、アリスに電話をかけた。
「あら?」
携帯を持ってキルアからの返信を待っていたアリス。その手の携帯がメールではなく、着信をアピールした。
「クラピカさん?」
誰からの着信かをディスプレイに表示される名前でしっかりと確認した後、通話ボタンを押した。
「はいはい。アリスです。クラピカさん、お久しぶりですね」
「挨拶はいい。私の質問に正直に答えろ」
「はい?」
「今どこにいる?」
「公園です」
「この雨の中か?」
「はい。そうですけど?」
「お前は幻影旅団か?」
「いいえ」
「その関係者か?」
「うーん…関係があると言えば、そうなのかもしれませんね」
「…ゴン・フリークスという名に聞き覚えは?」
「あら?何故クラピカさんがゴン君のことを?」
「お前はこちらの質問にだけ答えろ」
「怖いですねーはいはい、わかりました」
「何故ゴンの情報を集めている?」
「くすくす…さぁ?何故でしょうか?」
「…貴様…ゴンに何をするつもりだ?」
「特に何も」
「…ゴンに何かしてみろ、私がお前を殺す」
「出来るんですか?あなたの力で?死にますよ?」
「っ!?…お前…一体何者だ?」
「私はアリスですよ」
「……もうゴンには関わるな」
プッ。ツーツーツーツー。
「どうだったの?クラピカ」
様子のおかしいクラピカにゴンが心配そうに尋ねた。
「奴には関わらない方がいい……どうやったかはわからないが…奴はお前たち以外知らないはずの私の能力の欠点について知っているようだ」
「え!?それって旅団以外を攻撃したら死ぬっていう……」
クラピカの能力の欠点―旅団以外の人間を攻撃すればクラピカが死ぬ、ということを知っているのは本人と彼の師、そしてゴン、キルア、レオリオの五人だけ。アリスが知っているはずはないのだ。
「…何かの能力か?」
運転席のレオリオが可能性を提示する。
「…可能性はある」
「相手の念能力を知る念能力ってこと?」
「いや…パクノダのような能力かもしれん」
アリスの能力について考察する三人。だが、全て的外れ。
「何だったんでしょうか?」
アリスはクラピカの能力について詳しいことは知らない。具現化系で鎖を具現化すること。何かしらの強い制約がかかっていること。アリスが知っているのはこの二点だけ。
「まさかクラピカさんがゴン君とお知り合いだったとは…」
アリスの能力では他人の能力を知ることなどできない。ゆえにクラピカの能力の欠点など知るよしもないのだ。アリスが、単純な力量の差で「死にますよ」と言ったのをクラピカは、あなたの能力を私に使えば「死にますよ」と取っただけのこと。
「10分経ってしまいましたね。それはそうと、クラピカさんに張り付けば、ゴン君と会えるのでしょうか?」
親切丁寧に教えたつもりのアリスだったが、完全に誤解を受けていた。ゴンたちの警戒心を上げ、自身の首を絞めている。
「ふふ」
そんなことに気付くはずのないアリスは楽しげに笑って、再び携帯を操作した。
「もしもし、センリツさんですか?ええ、ええ。アリスです。あの、聞きたいことがあるんですけど…クラピカさんがどこにいるか知りませんか?」
―9/4 18:09―
「し、知らねぇ!!本当だ!!そんな奴ら知らね―――がっ!!」
「ならいらないね」
「使えねーヤローだ」
ヨークシンの路地裏。そこにはスーツの男が転がっていた。彼はとあるマフィアの一員。
今は首を綺麗に刎ねられた姿で息絶えている。
「ダメね」
「マフィアじゃねーのか?」
その惨状を作り上げた二人、フィンクスとフェイタン。そこにシャルナークを加えた三人はとある人物を探していた。
「鎖野郎は間違いないだろうけど」
彼らが探しているのは鎖野郎とアリス。とは言っても鎖野郎―クラピカの方はクロロ率いる班が目星をつけて現在追っているため、彼らの本命はアリスということになる。
「セメタリービルの方から来た念能力者だって言うから、マフィアの人間だと思ったんだけどな」
シャルナークの予想は当たっている。アリスはマフィアのボディガードだ。いや、正確にはその時はマフィアのボディガードだったというべきだろう。
彼らはマフィアの線からアリスを捜索しているようだが、その方法ではいつ見つかるかわからない。何故かと言えば、アリスの仕事はネオンの新人専属護衛であったため、ノストラード組の人間でさえもアリスの存在を知らない人間がいるからだ。他の組の人間が知っているはずはない。ヨークシンに来てからネオンとアリスはほとんど部屋から出ることがなかったため、当然と言えるが。
「やっぱこんな地道な作戦じゃダメなんだよ」
シャルナークが不満を口にする。マフィアを狩っていく、というのはフィンクスとフェイタンの出した案。当初、シャルナークは反対していたのだが、結局多数決で押し切られてしまった。
「けどハンターサイトにも情報はなかったんだろ?」
「確かにそうなんだけど――っと…団長からだ」
クロロからの連絡。シャルナークの携帯が震えた。
「うん…うん…了解」
その言葉と共に携帯を耳から放したシャルナークにフィンクスが声をかけた。
「何だって?」
「例の子供を捕まえた。あと鎖野郎の情報も手に入れたから、一旦ベーチタクルホテルのラウンジに集合だって」
「っち!」
「アリスはまた今度だね。とりあえず、情報サイトで賞金をかけとく」
シャルナークは携帯でアリスの情報を募集しようと情報サイトを開いた。
カチカチと携帯を操作する音を鳴らし、数分後にその音が止んだ。
「――これは…」
「どうかしたね?」
驚いた様子のシャルナーク。彼が開いていた情報サイトは奇しくも、アリスがゴン・フリークスの情報を集めるのに使ったサイトと同じだった。
「…アリス、ゴン・フリークス」
―9/4 18:03―
「見つけました」
ヨークシンにあるリバ駅からベーチタクルホテルに向かう道の途中。アリスの目がクラピカらしき人物とゴン・フリークスを捕えた。
「旅団を追っているとのことでしたが…」
センリツから聞いた情報。アリスは旅団は死んだものと思っていたため寝耳に水だったが、それらしき男女を発見し、納得する。別段驚きもしていないようだ。
「あら?」
そうこうしているうちに捕まった。アリスではない。ゴン・フリークスと友人らしき少年である。クラピカは路地裏に隠れたまま出てこない。オールバックの黒衣の男―クロロが携帯で誰かと会話している。
しばらくして、携帯での会話を終えたクロロが待機していたマチとシズクに指示を出した。
「シャルからの報告だ。ベーチタクルホテルに十九時、アリスを呼び出すそう――」
アリス。思いがけない名前の登場に肩をピクッと動かし反応してしまったゴンとキルア。それを見逃すクロロではなく、その深い漆黒の目が二人を射抜いた。
「アリスという名に聞き覚えがあるのか?」
―9/4 18:13―
ブルルル。アリスの携帯が音を出す。メールの受信を知らせるバイブ。
「キルアさんでしょうか?」
10分はとっくに過ぎている。加えて、すでにゴン・フリークスを見つけていたためにキルアからの情報も必要ない。だが、そのメールがキルアからのメールではない可能性も考慮したアリスは携帯を開き、内容を確認した。
『ゴン・フリークスについて直接会って話したい。十九時にベーチタクルホテルのラウンジに来られたし。』
「ふむふむ。差出人は…Sさんですか」
情報サイトから募集を削除するのをすっかり忘れていたアリス。そもそもアリスはゴン・フリークスの居場所が知りたかったわけであって、彼自身について知りたいわけではなかった。Sという人物はどうも「ゴン・フリークスの居場所」ではなく、「ゴン・フリークスの情報」を提示してくる様子。
「いりませんね。無視しましょう」
アリスはパタンと音を鳴らして携帯を閉じた。
―9/4 18:10―
二人の脳内では、何故旅団がアリスを探しているのか、知っていると言えばどうなるか、知らないと言えばどうなるか、この三つの疑問が瞬時に生まれ、計算されていた。
「……俺を探している人でしょ?」
「お前を…?つまり、お前がゴン・フリークスか」
先に口を開いたのはゴン。彼自身もアリスのことが気になっているのだろう。少しでも情報を引き出そうとしている。
「そうだ」
「団長、話が見えないんだけど?」
クロロとゴンの会話。そこにマチが疑問を投げかけた。
「シャルがアリスを呼び出すそうだ。俺たちの集合場所であるベーチタクルホテルにな」
「なるほど…そこを捕まえると」
得心した様子のシズク。
「けど、そのことがこのガキと何の関係が?」
確かにその説明ではゴンの名前をクロロが知っている理由にはならない。ゴンとアリスに何の関係性も見いだせない。マチはそこも気になったようだ。
「アリスはこの子供を探しているらしい」
「へぇ…じゃあいい餌になるね、こいつ」
「…何でアリスって人を探してるの?」
次なる疑問はゴンから。
「鎖野郎と繋がりがあるっぽいし。あとちょっと因縁、でいいのか?まぁそんな感じなのがあってね。そんなことより、あんたらアリスって奴のこと知らないのか?」
「知らない…何で俺を探してるのかも」
「ふぅん」
ゴンからの返答を聞き、クロロの方を仰ぎ見るマチ。クロロは何の反応も返さず、しばらくゴンをじっと見つめたかと思えば、ベーチタクルホテルに向かって歩きだした。
―9/4 18:17―
路地裏を抜け、センリツと合流したクラピカ。ゴンとキルアが旅団に連行されていく姿を見つめていた。その背中に声が降りかかった。
「クラピカさん、センリツさん」
「なっ!?アリス!貴様、何故こんなところにいる!?」
声の正体はアリス。彼女はゴンが連れ去られたのを見て、一人での救出が困難と判断し、クラピカと合流することにしたのだ。
「だってクラピカさんを尾行してましたから」
あっさりと白状するアリス。尾行対象だった人物に尾行してましたと打ち明ける人間はそうそういまい。
「アリス…そんなことをするために私にクラピカの居場所を聞いてきたの?」
「はい。けどそんなことより、ゴン君の救出方法について考えましょう」
二人の言う「そんなこと」は全く意味が違う。
「…アリス、もう一度聞くが…お前の目的は何だ?」
「くすくす。そうですね…今はゴン君の救出でしょうか?」
―9/4 18:41―
「ふふ…よく似合ってますよ、クラピカさん」
笑いを堪え切れない様子のアリス。彼女の目の前には、ホテルの受付に変装、もとい女装したクラピカがいる。彼はその笑い顔になかなか大きな殺意を抱いているようだが、ゴンとキルアの救出にアリスが必要だ、と自身に言い聞かせ、何とか怒りをセーブした。
「……お前の役割はわかっているんだろうな?」
「もちろんです。用意できましたよ」
そう言って、アリスが取り出したのはボイスレコーダー。
「では、お願いしますね」
「おうよ。任せとけ」
「頼んだぞ、レオリオ」
それをレオリオに渡し、ホテルに向かう彼を三人は見送った。
「では、私たちも行ってくる」
数分後。裏口からホテルに入るクラピカとセンリツを見届けて、アリスはホテルの外で待機することとなった。
―9/4 18:54―
「何時だと思ってんだテメェ!?」
レオリオの怒鳴り声がホテルのラウンジに響く。暗号の伝達の開始を意味する合図。
「バーカ!ベイロークじゃねぇよ!!ベーチタクルホテルだよ!!」
ソファーに座る彼にラウンジにいた全員が注目する。もちろんそれはゴンやキルアだけでなく、クロロやマチやシズクも。
「お!?見世物じゃーねーぞコラァ!!」
自分にできる最大限のプレッシャーを辺りに巻き散らし、威嚇するレオリオ。彼の内心は旅団にキレられませんように、という恐れ満載なのだが、これは仕方のないことだろう。
「いいか!?目ェつぶんのは今回だけだ!!次ヘマしたらわかってんな!?よく聞けよ!七時きっかりだ!!それまでにホテルに来い!!」
暗号の伝達は完了した。ゴンとキルアもしっかりそれを受け取った。暗号は「七時に停電する。目を瞑って備えろ」。
―9/4 18:56―
「アリスって人、来ないですね」
シズクが呟いた。敬語ということは独り言ではなく、クロロに話しかけたのだろう。
「感づいたのかもしれんな」
クロロが返答を返す。残念だが、それは間違いであった。アリスはSという人物が誰かなど興味がないし、もはや放って置く気満々である。Sの正体が誰かなど考えることもなく、彼女の中ではなかったことになっている。
「フィンクスとフェイタンが取り逃がすような奴ですからね…頭の方も―」
マチの言葉を遮るように、ホテルの入口の自動ドアが開いた。
「パク達が来た」
シズクのその言葉と共に彼らの前に姿を見せたのはノブナガ、パクノダ、コルトピの三人。スクワラを追っていた三人である。
「お!?何だオメーらまた捕まったのかよ!?」
マチに両腕を抑えられているゴンとキルアを見て、うれしそうに声を上げるノブナガ。親しげに会話するノブナガに対し、ゴンとキルアは作戦決行の準備段階に入り、会話の流れで自然に目を瞑った。
「パク。アリスとかいう奴の情報を持っていないか、確認して」
「OK。でもさっき―」
「待て。その前に、こいつらをもう一度調べろ」
「何を調べる?」
「何を隠しているか、だ」
二人の行動に不審を感じたクロロがパクノダに命じる。それと共にレオリオの流すラジオが時刻、七時一分前を伝えた。
「無駄だね!」
キルアが最後の一分の時間を稼ごうと懸命に話をする。だが、それも叶わず、パクノダに口を塞がれ、両手でそれぞれの体を持ち上げられた。
七時まで残り四秒。
「偽証は不可能よ」
パクノダのその言葉と共に、レオリオのラジオが止まり、その影に置いてあったボイスレコーダーから少女の声が流れた。
『夜、女は自ら、男とのつながりを全て断ち切った。』
3
「さぁ」
2
「質問よ。何を隠しているの?」
1
0